Entries by 川本 敬二

,

新薬IND申請の迅速承認(30日)制度が正式に始動・中国薬事制度改革

中国で、特定の条件を満たす新薬の治験許可(IND)申請について、申請後30日内に審査・承認を完了するとの新たな制度が正式に始まりました。 この制度は、新薬の迅速な市場導入を目指すもので、中国の創薬力を更に高めることに繋がると見られています。これに先立ち、2025年1月~7月の間、上海・北京で30日以内の承認制度(https://www.kawamotobbp.jp/articles/2500)が試行的に実施されていました。この試行期間中の運用経験を踏まえて、薬事当局(NMPA)は正式に通知を発し、当該制度を全国的に本格導入されることになりました。 1. 新制度導入の背景 1-1. 新薬に関する行政による制度改革 中国は、長らくジェネリック医薬品大国として知られていました。しかし、2015年以降、政府は医薬品産業の構造を大きく変えるための政策転換を断行。その目的は、ジェネリック薬の品質を国際水準に引きあげると同時に、画期的な新薬の研究開発を戦略として強力に推進することでした。 過去10年に亘り、この政策は、多岐にわたる側面から包括的に実行されてきました。 1)薬事制度の抜本的改革 NMPAは、新薬承認プロセスの迅速化と質の向上を図るための改革を実施しました。旧態依然とした賄賂行政から脱却し、NMPAの審査担当者を拡充し、実質審査の能力を向上させる等、薬事当局の組織体制の強化がはかられました。また、審査基準をICH基準等、国際的なレベルに合わせ効率化を高めました。更に、臨床的価値のある新薬の研究開発を迅速化する為に、各種早期承認制度(優先審査、条件付き承認等)が導入されました。 2)資金・インフラの積極支援 新薬開発に必要なエコシステムを構築する為に、政府は資金とインフラの両面から協力支援を図ってきました。政府からのサイエンス研究費の大幅拡充、研究所等のインフラ建設を通じて研究環境の提供。また新薬の研究開発への投資環境の整備、例えば、新薬の研究開発を支えるベンチャー投資の活性化(投資銀行を通じた資金供与(投資)、上海証券取引所に開設された「科創板」の創設)の措置等が講じられてきました。 3)知的財産権の保護強化 グローバルな新薬開発競争を促進する為の法的な環境整備のために、知的財産権の保護も強化されました。特許庁での審査担当者の増員、特許審査の質の向上。特許保護期間の延長措置や、裁判所での特許侵害訴訟の場面で特許権者の権利保護を強化する改正等が講じられました。 これらの多角的な政策措置により、中国は「イノベーション大国」へと、医薬品産業のパラダイムシフトが急速に進展しているのが現状です。 1-2. 2025年上半期の新薬承認から見る中国新薬R&Dの進展 政策主導による転換を経て、今年、2025年上半期(1月~6月)の中国での新薬の上市の承認の数は57品目あり、前年度比60%増、と新薬承認ラッシュが続いています。以前は、新薬の上市の承認数は外資系の企業が大半を占めていましたが、下記の通り、中国の内資系が激増しており、逆転現象が起きています。 1. 抗腫瘍新薬 治療領域 薬物名称 企業 標的/タイプ 適応症 乳腺癌 ピルシロシブ 軒竹生物 細胞周期蛋白キナーゼ4/6阻害剤 – アベマシクリブ 嘉和生物 細胞周期蛋白キナーゼ4/6阻害剤 – フルベストラント 復星医薬 細胞周期蛋白キナーゼ4/6阻害剤 – カルゼガチブ アストラゼネカ 蛋白激酶AKT阻害剤 HR+晩期乳腺癌 イプリアナリブ ロッシュ 破骨細胞性アルカリホスファターゼ-3阻害剤 非小細胞肺癌 血液癌 タゼメトスタット 益普生/和黄 メチルトランスフェラーゼEZH2阻害剤 濾胞性リンパ腫 アボミニブ ノバルティス 脂質輸送蛋白STAMP阻害剤 慢性髄様白血病 […]

中国バイオ医薬品産業セミナー 11月5日開催

中国バイオ医薬品産業の「今」と「未来」を知り、医薬品開発・事業化を加速させる戦略 現在、欧米の多国籍企業は、中国企業との連携を驚くべきスピードで加速させています。なぜ、彼らは、今、「中国」に注目するのでしょうか? <参照:https://www.kawamotobbp.jp/articles/2634> 日本の製薬協加盟企業が約70社である一方、中国には研究組織を持つ製薬企業が数千社あると言われています。この膨大な数に、中国企業との連携を検討する際、どこから手をつけてよいか戸惑う方も多いのではないでしょうか。中には能力に乏しい企業も少なくありませんが、日本企業数をはるかに上回る、提携に値する有力な企業が中国には確実に存在します。 中国の現状の「光と影」を「生の声」でリアルに伝えます。中国の現状の正しく理解し、信頼できるパートナーを見極めるための視点を得ることで、新たなビジネスチャンスを掴むための視点と戦略をお届けいたします。 今の事業を次のステージへと進めるための重要な一歩にして頂きたいです。 概要 日時 2025年11月5日(水) 13:00~17:00(受付 12:15~) 会場 株式会社シード・プランニング 東京本社 セミナールーム(8階)東京都文京区湯島3-19-11 湯島ファーストビル 主催 シード・プランニング 定員 40名 参加費 27,500円(消費税・資料代含む)※ご請求書をお送りしますので、銀行振り込みでお願いいたします。 お申し込み方法 こちらからご登録下さい。折り返し担当者よりご連絡させていただきます。※1名様ずつでお申し込み下さい プログラム 中国バイオ医薬品業界・中国社会と日本との関係について 川本バイオビジネス・パートナーズ・代表 川本 敬二 中国バイオ医薬品業界の現状と動向 ~日中連携の将来~ 〇日本を含む最近の多国籍企業とのライセンス契約動向〇希少疾患を含む、各適応症・モダリティ別の詳細分析 同写意(北京)科技発展有限公司・創業者 程 増江 通訳/川本 敬二 中国バイオ・製薬企業の投資トレンド ~出口戦略の考察~ 〇企業安定性と中国バイオテックが持つ成長性・活力の検証〇日本企業が中国のバイオ企業との連携する際の留意点 三一創新(北京)投資管理有限公司・取締役 張 青 通訳/川本 敬二 中国のビッグデータ・AIが拓く創薬・臨床開発の未来 〇創薬及び臨床開発・申請のイノベーション最前線〇日本企業による中国臨床データ・AI技術の活用 上海領再科技有限公司(LinZight)・創業者 倪 琳 パネルディスカッション 日本企業の中国企業とのライセンスイン・アウト提携における課題と展望 出演者:程 増江、張 青、倪 琳 モデレーター:川本 敬二   講師プロフィール 程 増江・博士 米国留学、Ph.D.取得後、Medicinal Chemistとして、ベーリンガー・インゲルハイム社の米国研究所でR&D活動。 中国政府のハイレベル人材招致により、12年前に中国へ。四環医薬傘下の研究会社である山東軒竹医薬の […]

,

2025年:中国バイオ・新薬産業が潮目を変えた年

1. 中国の「自動車輸出(製品の輸出)」と「新薬ライセンス・アウト(技術の輸出)」 1-1)自動車輸出(製品の輸出) 中国からの自動車輸出台数は、過去9年間で大幅に増加しました 。2021年が「潮目」を変える年となり、前年度から輸出台数が倍増し、その後も毎年50%の比率で増加しています 。そして、昨年2024年には、ついに日本を抜いて世界最大の自動車輸出国となりました 。 この躍進の背景には、2010年代の政府による電気自動車開発推進政策と、2020年代に入ってからの電池やモーターの技術的突破があるとされています 。 主要な輸出先はメキシコ、アラブ首長国連邦(UAE)、ロシア、ベルギー、英国—–カザフスタンなど、日本人には馴染みの少ない国々も含まれます 。筆者は上海での生活が長いため、この1〜2年で都市部において外車から国産車への切り替えが急速に進んでいるのを肌で感じています 。 1-2)新薬のライセンス・アウト(技術の輸出)と中国バイオ・新薬産業の変貌 「自動車輸出」の潮目が2021年だったとすれば、その4年後の今年2025年は、将来的に「新薬のライセンス・アウト」の潮目が変化した年と捉えられるかもしれません 。 中国政府が製薬産業の方向をジェネリックの製造・販売から新薬の研究開発主導へと転換させる政策を打ち出したのは2015年です 。この年に「44号」という政策文書が発表され、製薬産業をイノベーション主導型に変えるために、人材・インフラ・投資・知財・薬事制度などの環境を整備する構想が掲げられました 。 それから10年が経過した今年、中国企業が創出した新薬のライセンス・アウトが活況を呈しました 。過去1年間(2024年10月〜2025年8月)の、中国企業が海外企業にライセンス・アウトした実績は以下の通りです 。 <中国企業の海外への主要ライセンス・アウト/2024.10~2025.8> 海外企業 (ライセンス取得) 中国企業 (新薬創出) 対象プロジェクト 契約地域等 経済条件 契約日   Sanofi Arrowhead’s Visima RNAi (CV) 中国・台湾の権利 Upfront $130M Milestone $265M 2025 8/25 GSK Hengrui PDE3/4阻害剤等複数 Upfront $500M Milestone $12B 7/25 AstraZeneca CSPC Pre-clinical Upfront […]

,

中国の新薬「データ保護」規則(案)の公表

長らく新薬業界とジェネリック業界の利害調整に手間取っていた新薬データ保護制度(https://www.kawamotobbp.jp/articles/2560)ですが、今回、中国政府は新薬「データ保護」規則(案)(药品试验数据保护实施办法(征求意见稿):https://www.nmpa.gov.cn/xxgk/zhqyj/zhqyjyp/20250319181537196.html)を公表しました。新薬について、 のデータ保護を付与し、その間、原則、ジェネリック薬は承認しない、としました。 但し、新薬に関する特許期間の延長制度(https://www.kawamotobbp.jp/articles/2375)と同様に、新薬のデータ保護を受ける為には、中国での早期開発等の条件が付いています。 まだ、(案)の段階ですが、かなり煮詰まって来ており、今後、最終化の上、年内には施行予定とされています。 1.新薬「データ保護」規則(案)の全容 「データ保護」とは 新規有効成分(低分子医薬、バイオ医薬、ワクチン)を含有する「創新薬」と既存薬の新規適応症・新製剤・新規投与ルート等の「改良型新薬」について、医薬品企業(先発企業)がNMPA(中国医薬品管理局)に提出した上市承認申請に添付した有効性・安全性・CMC等のデータに対して保護が与えられます。「創新薬」は6年、「改良型新薬」は3年のデータ保護期間(規則案§5,6)が付与され、この保護期間中は、原則、ジェネリック薬の上市承認は下りません。 ただし、データ保護期間満了後であっても、当該「創新薬」・「改良型新薬」が先発企業の特許でカバーされていた場合には、ジェネリック薬の上市承認申請は、特許侵害紛争のリスクを抱えます。特許でカバーされている場合には、ジェネリック薬の審査段階で、patent linkageの制度(https://www.kawamotobbp.jp/articles/1615)の下で、侵害の紛争処理が行われます。 日本では、再審査期間中(新規有効成分:8年)は、ジェネリック薬に対して原則、販売承認が付与されません。中国の「データ保護」は、日本のこの「再審査制度」に相当する制度です。 日本の再審査制度との違い 日本の再審査制度にはない中国の「データ保護制度」の特徴は、下記の二点です。 「創新薬」と「改良型新薬」とは ①「創新薬」(低分子、バイオ医薬、ワクチン):新規有効成分(NCEを含む)であって中国の国内外で未上市の薬剤。 詳しくは、海外(日本を含む)での最初の販売「承認日」の前に中国で上市承認「申請」をすれば、中国の医薬品登録分類上、「創新薬」として、「1類」に分類される。 尚、中国での開発が遅れて、海外(日本を含む)での最初の販売承認日以降に中国で上市承認申請をする場合、「5.1類」に分類される。海外上市後の中国での申請であることから、NMPAに提出が必要なデータの範囲は、「1類」よりも狭い範囲で良く、中国で確認臨床試験(小規模Ph III)を実施すればよい。 ②「改良型新薬」(低分子医薬):中国の国内外で未上市の薬剤であって、既知の有効成分を改良した薬剤。下記を含む。  尚、バイオ医薬、ワクチンについても上記に準じる。 詳しくは、海外(日本を含む)での最初の販売「承認日」の前に中国で対応の薬剤の上市承認「申請」をすれば、中国の医薬品登録分類上、「改良型新薬」として、「2類」に分類される。 尚、中国での開発が遅れて、海外(日本を含む)での最初の販売承認日以降に中国で上市承認申請をする場合、「5.1類」に分類される。「5.1類」は、海外での上市後の中国申請であることから、「2類」に比べ、中国で実施すべき臨床試験は小規模で済む。 例外(規則案§3) 「データ保護」期間中であっても、ジェネリック企業が開発費を投入して臨床試験を実施し、先発企業の当該保護されたデータと同レベルのデータを取得の上、上市承認申請した場合には、要件を満たせば、承認されます。尚、先発企業が特許を有する場合は、前記の通り、特許侵害のリスクにさらされます。 また、保護対象となっているデータを所有する「創新薬」・「改良型新薬」の上市承認の取得者(先発企業)から同意があれば、ジェネリック薬は同様に承認されます。 ジェネリック薬の上市承認の申請のタイミングの制限(規則案§11) ジェネリック薬は、「データ保護」期間中であっても、BE試験(生物学的同等性試験)等の臨床試験を実施して、「データ保護」期間の満了前1年以降、ジェネリック申請が可能です。NMPAは、当該ジェネリック薬の審査を行い、要件を満たせば、「データ保護」期間の満了を待って、上市承認を付与する。 2.「創新薬」「改良型新薬」のデータ保護期間 原則(規則案§5,6) カッコ内は薬事法上の登録分類 保護期間 創新薬 (1類) 中国での創新薬の上市承認の付与日から「6年」 改良型新薬 (2類) 中国での改良型新薬の上市承認の付与日から「3年」 中国での申請が海外の販売承認付与よりも遅い場合(規則案§5,6) N期間(遅れた年月)=(中国での上市承認申請日)―(海外での最初の販売承認付与日) カッコ内は薬事法上の登録分類 保護期間 創新薬 (5.1類等) 「6年」- N期間 改良型新薬 (5.1類等) 「3年」- N期間 <例1>中国開発が遅れた場合 (前提)                                                                                               (データ保護期間) 尚、上記の「創新薬A」が改良型新薬の場合、データ保護期間は3年であることから、上記の前提のように遅れた年月が1年の場合、保護期間は、「2年」(3年-1年=2年)となる。 新適応症の「データ保護」期間 「創新薬」の最初の上市承認取得以降、追加の臨床試験を実施して取得したデータに基づく、新規の適応症の上市承認申請については、承認後、その都度(新適応症毎)、当該追加データについて、データ保護が付与される。尚、新規の適応症は、「改良型新薬」(2類)に分類されることから、データ保護期間は、当該新適応症の上市承認後、3年である。 […]

,

今度こそ、動き出す「データ保護」

トランプ政権(第二次)の胎動による政策転換が世界、日本の政治経済にどのような影響を与えるのか喧しい。更には、米中の経済摩擦の動向が日本に与える影響が気になるところである。さて、そのような情勢下、我々の眼中にあるのは、中国の新薬の知財保護がどのような影響を受けるかである。 1.トランプ政権(第一次)時代の米中の経済・貿易協議と「データ保護」: 第一次トランプ政権(2017年~2021年)時代の米中摩擦を振り返ってみよう。米中間の貿易不均衡(米国の対中貿易赤字)に不満を募らせたトランプが2018年に、中国産の鉄鋼に関税をかけると発言、これに端を発して、他分野の製品に対して米中が相互に関税をかける事態に発展した。その後、貿易不均衡に留まらず、中国政府が企業に産業補助金を支給していることによる中国企業の急成長、米国の知的財産の盗用による中国企業の先端技術獲得、中国のハイテク産業の育成政策「中国製造2025」の内容等を問題視して、米国は様々な政策転換を中国に要求した。両者の協議を踏まえて、第一弾の合意として、2020年1月に「米中経済・貿易協議書」(「米中協議書」)がトランプ大統領と劉鶴・中国副首相によってホワイトハウスで署名された。この「米中協議書」は、知的財産、農産物輸出、金融サービス問題が柱となっていた。その第一章「知的財産」に関する取り決めの中に、医薬品の知財保護が具体的に言及されていた。この医薬品の知財保護については、下記の3つのポイントがあった。 これらのうちで、第1の「特許期間の延長」と第2の「Patent Linkage」は中国で、夫々、法制度化され、曲がりなりにも具体的に運用されている。しかしながら、「データ保護」については、未だ、法制度化されていなかった。「データ保護」とは、先発医薬品企業が自らの投資によって積み上げた医薬品に関するデータであり、上市承認を目的として薬事当局に提出したデータ(非臨床、臨床データを含む)に対して薬事当局が保護するというものである。ジェネリックが薬事当局に上市の承認申請する際には、自ら多額の投資をしてデータを作成の上、申請するのではなく、先発医薬品が提出して承認対象となったデータを引用する形で、ジェネリック申請をして、それに対してジェネリックの上市承認が付与される。従って、先発医薬品に対して一定期間「データ保護」がされた場合、その間、ジェネリックは申請できないことになる。このように先発医薬品の特許の有無(有効無効を含む)に拘わらず、ジェネリックが出現しないことから、先発医薬品の知財保護としては、非常に強力なものである。特許関係の制度はイノベーション推進色の強い特許庁が主管部門であるのに対し、データ保護は、新薬承認とジェネリック申請がぶつかり合い従って両者の利害関係の調整が必要な薬事当局が主管部門であることから、「データ保護」の制度導入が遅れていた。特に中国では、中国企業の新薬承認は何れも新しく、特許の存続期間が長いので、データ保護の緊急性はなく、長期的にはイノベーション推進の意味はあるにしろ、寧ろ、当面は外資に利益をもたらすという側面もある。 2.三中全会後、トランプ(第二次)前夜の中国、「データ保護」法制度化の動き: 中国では、共産党主導で政策が決定される。5年毎の党大会(直近は、2022年に始まった第20期)で指導部を刷新し、その後に開かれる三中全会(中央委員会第三回全体会議)で、中長期的な政策が決定される。2024年7月の第20期三中全会で「全面的な改革及び中国式現代化の推進に関する決定」(「改革決定」)が承認され、その中には、技術革新の推進、医薬品・医療機器のイノベーション推進等の施策の実行方針も含まれていた。 「データ保護」について中国で急転直下、大きな動きがあったのは、トランプの大統領再選が決まった、2024年11月以降であった。新薬知財の対米協議の専門家も含めて関係者が招集され、北京で数回にわたり内部会議が開催された。そして、2025年1月に、上記の共産党の「改革決定」の下、政府にあたる国務院が重要な政策方針を下記の通り公表し、その中で、医薬品の「データ保護」を具体的に制度導入・運用することが明記された(「意見」の2-(4))。 「医薬・医療機器の監督管理改革と医薬産業の高度な発展に関する意見」(「意見」)<国务院办公厅关于全面深化药品医疗器械监管改革促进医药产业高质量发展的意见 国办发〔2024〕53号>https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/202501/content_6996117.htm 3.「データ保護」の内容と今後: 上記の国務院の「意見」の2-(4)では、医薬品の上市承認の申請人が自ら作成・取得の上、薬事当局に提出したデータの内、未公開のデータについては、分類別にデータ保護期間を設定するとしている。従って、特許期間の延長制度でとったように新薬の分類別に一定の保護期間が付与されることが想定される。即ち、新薬の承認後、分類別に、一定期間ジェネリックの承認がされないこととなる。<注 分類別:特許期間延長を参照:https://www.kawamotobbp.jp/articles/2375> 尚、オーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)、小児用薬、最初に承認されたジェネリック薬に対しても、夫々、一定の市場独占期間を付与するとしている。 現在、中国の薬事当局は、「医薬品管理法実施条例」(「条例」)の改正作業を行っており、数か月内に公表される見込み。米中は私企業間も含めて経済面で緊密な関係にあることから、トランプと中国間に予期せぬ事態が起こらない限り、「医薬品管理法実施条例」の中に「データ保護」に関する詳細な規定が盛り込まれ、運用が開始されると予測される。その内容については、「条例」が公表され次第、報告予定。 以上

香港IPO、2024上半期のまとめと今後の見通し

2024上半期のIPO件数(全産業セクター)は世界で551件(前年同期比-12%)、資金調達額の合計は522億米ドル(同-16%)でした。リージョンごとの内訳をみると特にアジア・太平洋のシェアが昨年に引き続き下がっています。しかし後述しますがその中でも香港市場は比較的に堅調でした。 ヘルスケアセクターのIPO概況 世界のヘルスケアのIPO件数は58件(同-6%)とほぼ前年と同じでしたが、資金調達額は89億米ドル(同+69%)と大幅に増加しました。これをみると、バイオテクノロジー部門は引き続き技術の進歩を続けており投資対象として注目されていることがわかります。特に抗がん剤や肥満治療薬といった新しい分野で投資が増えています。 例:ArriVent BioPharma IPO市場:NASDAQ 調達金額:1 億 7,500 万米ドル 中国やその他の国で有望なシードを見つけ、米国市場に持ち込むのがこの企業のスタイル。主力製品は、上海の Allist Pharma から取得したEGFRチロシンキナーゼ阻害薬である furmonertinib。 香港市場IPO概況 香港市場では30件(同+3%)、19億米ドル(同-34%)と前年よりは減少しているものの世界全体の減少傾向とほぼ同じであり、アジア・太平洋地域全体の-43%、-73%よりはずっと良い状況でした。 香港では株式市場を含む金融市場の改革が続いています。その結果GEM市場(香港版NASDAQ)では3年半ぶりにIPOを迎えることができました。メイン市場もIPOの新しいプラットフォームFINI(Fast Interface for New Issuance)が稼働し始めました。FINIにおいては発行価格が決定した後、1日のグレーマーケットを経て上場となります。以前は5営業日で上場でしたので3営業日短縮されました。この短縮により市場全体の変動によるリスクは減りますし投資家の金利コストも減りますので、IPOには有利に働きます。また、これらの改革により、ハイテク企業のIPO促進および国際的な投資家の呼び込みが進む体制となりました。 例:QuantumPharm Inc.(晶泰科技) IPO市場:HKEX 調達金額:1 億 2,670 万米ドル  深センに拠点を置く人工知能(AI)を活用したデジタル創薬企業。Chapter 18C制度を利用した最初のIPOとなった。この制度は2023年3月に開始され、一定の基準を満たした専門テクノロジー企業の上場要件を緩和するもの。 例:Qyuns Therapeutics Co Ltd(荃信生物) IPO市場:HKEX 調達金額:3,050 万米ドル 自己免疫疾患およびアレルギー疾患のバイオ治療に焦点を当てた後期臨床バイオ医薬品会社。 今年の香港IPO市場の見通し 今年後半になって香港市場におけるIPOは件数が増えています。6月時点では世界ランキングで13位でしたが、7-9月の資金調達額は上半期の3倍に増加した結果、9月時点では同5位に上昇しました。既に2024年の香港市場における資金調達額は2023年全体の調達額を超えています。 香港は2009年から2019年の間に7回も世界最大のIPO市場となったものの、その後はコロナ禍を経て金利の高まりと中国市場の低迷により不況に見舞われていました。しかし、ここ数ヶ月大型のIPOが続いており、例えば今年世界で2番目に大きいIPOとして美的集団が9月17日に香港取引所に上場しました。 残る3か月に予定されているIPOのリストを見ると、2024年は香港市場は世界で3位に入る可能性があります。

中国での臨床試験のSpeed Up化 / 治験申請(IND)が「30日」承認の方向へ

7月末にNMPA(薬監局)からIND申請から「30日」以内に承認の可否を下す試行を2025年1月から開始すると発表されました。<臨床試験の承認審査の最適化の為の試行的運用の通達 / 优化创新药临床试验审评审批试点工作方案的通知> https://www.nmpa.gov.cn/xxgk/fgwj/gzwj/gzwjyp/20240731184417109.html 1.7月の薬事承認申請の件数 7月単月の医薬品の承認申請件数は、1219件(上市、臨床試験等を含む)でした。下記の表1を参照。このうち、臨床試験に関する申請(IND)は172件、その中で、一類の新薬(新規有効成分を含む薬剤)は128件。 国内外別のIND申請の内訳は、中国国産によるものが107件、輸入品が21件です。 従来、申請してから「60日」以内に当局からNoの返事がない限り、臨床試験を開始してよいというルールでした(薬品管理法§19)。その後、臨床試験開始の為には、実施施設での実施申請、倫理委員会での審査、契約の締結等で半年~1年を要していました。 従って、中国で臨床試験を開始することを企画してからヒト投与まで1年以上の長期間を要しているのが実情でした。 2.中国の新薬研究開発を取り巻く環境 上記の7月単月の一類(新規有効成分を含む)の上市申請(NDA)は8件で、内、中国国内品目が7件、輸入品(外資)が1件です。このように中国の国内での新薬の研究開発は目を見張る進展を見せています、質・量ともに。 従来、中国の内資が創出した新薬で先進的なものであれば、多くは、先ず、米国でINDを申請して、臨床試験をスタートしていました。臨床試験の実施施設・臨床医・生まれてくるデータの質は、米国の方が信頼性が高いとされ、尚且つ、FDA(米国)とNMPA(中国)の当局の実力の差を反映して、米国の方が、審査も早く、早期に臨床試験を開始できる。こういった背景がありました。 中国は、2016年の薬事制度・システムの改革に着手して、この7年間に、当局での審査承認システムも含めて、大幅な質の向上を見ています。 中国の臨床実施施設は、マルチ・ナショナル企業等が実施する国際共同治験の参加を通して、アジアのセンターとして、場数を踏んできており、海外とのデータの乗り入れ、連携も強化されています。それを通じて、施設・医師・当局の審査の質も向上してきています。 そういった背景の中で、臨床試験の実施環境を更に整えるべく、今回、新たに当局でのIND審査、更には実施施設(病院)での各種手続・審査のトータルシステムの最適化を図ることを目論んだ政策が公表されました。目玉は、IND申請後、承認までの待期を「60日」から米国並みに「30日」にするというものです。 3.「通知」/ 臨床実施システムの最適化 1)試行 / 期間・地域・施設の限定 ・IND申請から承認までを「30日」にする試行は、2025年1月に開始し、7月までの限定です。 ・地域と実施施設も限定。8月末の時点で、「上海」と「北京」が試行地域として認定されてます。そして、上海・北京の薬事当局が、実施施設(病院)を認定していくということになっております。対象の実施施設(病院)が認定されるためには、当該施設内で、科学・倫理審査、契約の締結等の一連の手続きがスムーズに流れるようにシステムが整備されている必要があります。既に上海・北京の両市で複数の実施施設が認定済みです。 ・尚、「通知」では、各地域がNMPAに申請して、地域認定を受ける、また、各実施施設が認定された地域の薬事当局に申請して、施設認定を受けるという立て付けになっています。  2)対象の新薬・申請者の制限 対象となる新薬の品目は、一類(新規有効成分)であって、但し、細胞治療・遺伝子治療・ワクチンは除くとされています。 ・IND申請者は、過去、国内外で少なくとも3件の新薬臨床試験の申請の承認を取得した経験がある企業との要件が課されています。 3)IND承認、臨床試験開始までの期間の短縮化 ・CDE(審査センター)は、IND申請の受理後、「30日」(営業日)内に可否の結果を出し、ウエブ上で、申請人に通知します。 ・IND申請者は、実施施設と協力して、IND承認後、12週間内に、臨床試験を開始する(最初の治験参加者の同意書を取る)と、「通知」では規定しています。実際の目標としては、今回の認定実施施設では、事前の準備を前提に、IND承認後、3か月内に、施設内の手続き(倫理審査、契約締結)を終えるとしています。 4.今後 上記の枠組みで、少なくとも10品目のIND申請・承認・臨床試験を開始し、それらの経験を踏まえて、一連のシステムの最適化を図りながら、他の地域にも適用を広げていくことが想定されています。 中国における臨床試験の質の向上に加えて、スピード化が実現していけば、中国国内でしか臨床試験が出来ない、コスト・経験面で体力のない中国企業にとっても朗報となります。海外企業にとっても、開発期間の短縮、早期上市の実現の道が拓かれてくることになります。 患者数は巨大、臨床試験の質も向上してきており、更に、スピード化が実現すれば、日系企業にとっても、中国でのFIH(最初のヒトへの投与)試験の実施も含めた早期段階での中国臨床試験の実施も視野に入って来ると思います。 付録. 《国家药监局关于印发优化创新药临床试验审评审批试点工作方案的通知》国药监药注〔2024〕21号 国家医薬品監督管理局による『新薬臨床試験の審査・承認を最適化するための試験的運用』に関する通達 <追記予定>

「変換期を迎える中国医薬品産業」セミナー3月5日開催

「創薬研究」、「医品のライセンスIn/Out」、「市場/薬価」、「知財」 の観点から現状と展望を解説! 近年、世界の製薬大手が中国のベンチャー企業と開発・製造・商業化に関する独占的ライセンス契約を締結したというニュースが相次いでおり、一昔前には想像もつかなかったことが現実となっています。中国での研究開発が急速に進んでいることが伺え、このような傾向は、今後も続くと考えられます。そこで、本セミナーでは、中国で新薬の研究開発に携わるFrank Wu氏、10年以上にわたり日中最新の医薬品におけるビジネスに従事する川本啓二氏、中国の薬事規制・手続きに孫華龍氏をお招きして、中国の新薬研究現状や創薬研究のためのヒト・モノ・カネ・情報、国家主導の研究開発及び医薬品のライセンスの導出・導入の実態について解説頂きます。 概要 日時 2024年3月5日(火) 13:00~17:00 会場 株式会社シード・プランニング 東京本社 セミナールーム(8階)東京都文京区湯島3-19-11 湯島ファーストビル 主催 シード・プランニング 定員 40名 参加費 27,500円(消費税・資料代含む)※ご請求書をお送りしますので、銀行振り込みでお願いいたします。 お申し込み方法 こちらからご登録下さい。折り返し担当者よりご連絡させていただきます。※1名様ずつでお申し込み下さい プログラム 13:00~13:40 中国医薬品市場の現状と薬価制度 中国市場の現状と展望、医薬品の保険収載と価格交渉、公的入札について株式会社シード・プランニング 沈友敏 13:40~14:30 中国の国家政策と最新知財動向 国家計画による創薬ビジネス(続々登場する抗PD-1抗体)新薬の知財保護(特許延長等)について川本バイオ・ビジネス弁理士事務所/上海大邦法律事務所高級顧問 弁理士 川本敬二 14:30~14:40 休憩 14:40~15:30 中国の臨床データの質の現状と法規制について 中国の臨床・非臨床データの信頼性、個人情報を含めた法規制(人類遺伝資源管理条例)、中国で製造した原薬・治験薬の日本輸入について北京科林利康(Clinical Service Center)社の共同創始者兼Chief Strategy Officer孫華龍, MD, Ph.D 15:30~16:40 新薬開発の資金源と人材源 -臨床開発・ライセンスdeal実績- 創薬研究のための資金源と人材源、米国の臨床開発と中国企業の実績について、背景と将来予測、業界の動向についてTrans Thera社(南京)CEO(資料:英語)Frank Wu, PhD 通訳:川本敬二 16:40~17:00 パネルディスカッション(質疑応答) 日本へのライセンスOUTをどう考えるか?信頼性ある企業の探し方Frank Wu, 孫華龍、川本敬二、沈友敏 講師プロフィール Frank Wu、Ph.D. 米国留学、Ph.D.取得後、Medicinal […]

,

中国の新薬の特許期間の延長制度が動き出す!(2024/3/22 更新)

中国の「特許期間の延長」の制度、いよいよ、運用がスタート、知識産権局(中国特許庁)で審査が始まります! 2021年に改正された特許法の中で、新薬の特許について5年を限度(但し、新薬上市後、14年を超えず)とする「特許期間の延長」に関する規定が盛り込まれました。それに前後して、具体的な運用を盛り込んだ実施細則、審査便覧(「審査指南書」)の改正案が公表され、その中で「特許期間の延長」に関して、延長の計算方法も含め、詳細な規定案が示されていました。ところが、それから2年間、公表された案に対して、中国国内で意見聴取はされていたものの、改正案が最終化されず、宙ぶらりんでした。販売承認が下りた新薬に対し、特許権者は「特許期間の延長」の申請をしていましたが、知識産権局(中国の特許庁)でどのような取扱いになっているのか誰にも分からない状況でした。 2023年末に、上記の「実施細則🔗」、「審査指南書🔗」の最終版が相次いて公表され、いよいよ、「特許期間の延長」制度の運用がスタート、2024年1月20日から知識産権局で「特許期間の延長」申請に対する審査が始まることになりました(審査業務の経過措置弁法 公告559号)。これらの改正案で示されていた内容に対して、概ね大きな変更を経ずに最終化されています。 「特許期間の延長」に関係する「特許法」、「特許実施細則」、「審査指南書」の該当条文は下記の構成となっています。 特許法 第五章42条 特許期間、消滅、無効(1)特許期間:出願から20年(2)知識産権局での審査手続き遅延による特許期間延長(3)NMPA(薬事当局)での新薬の審査承認に要した期間を補償する為の「特許期間の延長」 特許法実施細則 第五章77条~79条80条~83条 特許期間の延長 特許法42条(2)項の特許期間延長 特許法42条(3)項の新薬の「特許期間の延長」   審査指南書 第五部第九章2.1~2.4 3.1~3.8 特許権の授与、満了 特許法42条(2)項の特許期間延長 特許法42条(3)項の新薬の「特許期間の延長」   上記の表中、特許法42条(2)項の特許期間延長とは、米国のPTA(Patent Term Adjustment)に対応するもので、知識産権局での審査手続きの遅延等に対して、特許期間が加算、延長される制度を意味しています。この延長制度は、技術分野に限定はありません。 新薬については、この特許法42条(2)項の下での期間延長に加えて、特許法42条(3)項の下での新薬の「特許期間の延長」がされます。そもそも、特許の延長制度は、トランプ政権時代の2020年1月に取り交わされた「米中協議書」で合意した内容を踏まえて制度導入がされている背景があり、米国の延長制度を大枠、模した形となっています。 本稿では、特許法42条(3)項の下での新薬の「特許期間の延長」の説明をします。先ず、特許法の該当条文の翻訳を掲げた上で、「実施細則」、「審査指南書」の該当規定に基づいて、解説していきます。先だって留意すべきことは、日本では特許期間の延長は、対象の医薬品の分類と特許発明の類型に関わりなく、販売承認が付与されれば、その都度、当該特許が製品をカバーしていれば、制限なくと言ってもよいくらいに、広範囲で、特許が延長されます。これに対し、中国では、対象の医薬品の分類、対象の特許発明の類型等に制限がかかっていることです。 1. 特許法の「特許期間の延長」に関する条項(§42 – 第3項)(翻訳) 新薬の上市に先立ってなされたNMPA(薬事当局)での審査・承認の手続きに要した期間を補填・補償する目的で、中国で販売承認を取得した新薬に関連する特許発明に対して、中国の知識産権局は、特許権者の請求があれば、特許権の存続期間を延長する。 延長期間は5年を限度とする。尚、特許期間の延長後の存続期間は、新薬の販売承認の日から14年を超えないものとする。 中華人民共和国特許法 第42条 2. 「特許期間の延長」の対象となる新薬とは? 新薬が特許でカバーされているからと言って、全ての新薬に対して、対応特許の存続期間が延長されるわけではありません。延長の対象となる新薬とは、薬事法の下での医薬品の分類に従い、「創新薬」及び「特定の改良型新薬」に分類される新薬が該当します(審査指南書§3.4)。ここで言う薬事法の下での医薬品の分類は、薬事法(薬品管理法)の下で制定されている薬品登録管理弁法§4で規定されています。具体的には、「化学医薬品」、「バイオ医薬品」、「漢方薬」が含まれ、その夫々について、「創新薬」、「改良新薬」の分類が、下記のNMPA通知にその詳細が定められています。尚、各通知には分類の下に区分が設けられており、区分毎に、販売承認申請時に添付が必要な資料・データが示されています。 2-1. 「創新薬」とは 上記の通知に、「化学医薬品」、「バイオ医薬品」、「漢方薬」の夫々について、「創新薬」が定義されています。 例えば、 「化学医薬品」の「創新薬」(1類): 中国の国内外で未だ上市されていない薬剤。新規化学構造を有する薬理作用のある化合物を含有し、且つ、臨床的に価値のある医薬品を指す。 ここでのポイントは、ある新薬について、それをカバーする特許が延長されるためには、当該新薬について中国でのNMPAへの上市許可を得る為の申請(所謂、「NDA申請」)時点で、国内外で未だ上市されていないことが要件になっていることです。従って、ある新薬の開発者(例えば、日本企業)が、当該新薬について、海外(例えば、日本)で上市した後に中国でNDA申請した場合には、当該新薬は、1類には分類されず、「創新薬」とは認定されません(注. 薬事法上は、5.1類に分類されます)。その場合、新薬をカバーする特許は延長されません。その意味で、中国を市場として捉える場合には、他の様々な要因も勘案すると、海外と中国の同時開発が必要となってきます。  尚、「バイオ医薬」、「漢方薬」についても上記同様の取扱いとなっています。 2-2. 「特定の改良型新薬」とは 「創新薬」と同様に「改良型新薬」についても、上記の通知に規定がされています。 例えば、 「化学医薬品」の「改良型新薬」(2類): 中国の国内外で未だ上市されていない薬剤であって、既知の活性成分を基礎にして、その化学構造・製剤・合剤・投与経路・適応症等について最適化を図り、且つ、臨床的に明らかに優位性のある医薬品を指す。 さらに、上記の最適化の対象となった項目毎に、2.1類~2.4類の分類がされています。 さて、「化学医薬品」、「バイオ医薬品」、「漢方」について、特許期間の延長の対象となる「特定の改良新薬」とは、下記の区分の改良型新薬の内、黄色の部分のみです(審査指南書3.4)。 2-3. […]

,

【まだ動かない?】新薬を巡る知財保護制度の進展

中国の「新薬の知財保護」の新制度のグランドデザインは、2017年に国務院の公表による「新薬等の研究開発を推進する為の承認申請制度の改革に関する政策文書(42号文書)(关于深化审评审批制度改革鼓励药品医疗器械创新的意见)」の中で、下記の3つの制度を導入する旨、明記されています。 その後、2021年1月、トランプの“活躍”で「米中貿易協議書」の中に中国の知財保護制度の改正に対して言及されており、中国は、新薬等の知財保護として、上記の①、➁、③の3制度の導入をアメリカに対してコミットしました。 そして、2021年6月に改正特許法が施行され、その中には、上記の①、③が条文として盛り込まれました。さて、現在、具体的な実施状況は如何に? 1.Patent Linkage 先発の新薬をカバーする特許(一般に当該新薬を開発した企業が所有する特許:「新薬特許」)の満了前に、対応のジェネリック薬が薬事当局(NMPA)に販売承認申請された場合、NMPAは、当該ジェネリック薬の医薬品としての有効性・安全性等の必要要件を満たしているか否かの審査以外に、ジェネリック薬が「新薬特許」を侵害しているか否かについて、裁判所・特許庁に判断させます。このように薬事の承認審査の過程で特許問題もリンクさせて、もし、侵害であれば、NMPAは当該ジェネリック薬の承認を付与しない、という制度がPatent Linkageです。したがって、「新薬特許」が有効期間中は、“原則として”、ジェネリック薬は承認されない、よって、上市されなくなる、ということを意味しています。 上記の通り、2021年6月の改正特許法に対応条文が盛り込まれ、その後、関係官庁(特許庁、MNPA、裁判所)から手続き細則が公表されています(参照:https://www.kawamotobbp.jp/articles/1470)。そして、先の4月(2023年)に最高裁判所より、2022年の代表判決の一つとして、patent linkage制度の下での判決が挙げられました。それは、中外製薬が中国で上市している製品に関連するソフトカプセルについての製剤特許に基づく係争でした。対応のジェネリック薬が申請されたことに対して、中外がpatent linkage制度の下で、ジェネリック企業に対して当該製剤特許の侵害を主張し、訴えた案件でした。結果は、ジェネリック薬は中外の製剤特許の権利範囲に入らないので、侵害しないというものでした。また、それ以外も含めて、Patent Linkage制度の下、2022年一年間に7件の判決が出でおり、第二審(最高裁判所)の審理期間は平均63日であったとしています。 このようにPatent Linkage制度は、動き出しており、新制度の運用事例が積み重ねられている段階と言えます。 2.特許期間の延長 新薬は上市の承認に至るまでの研究開発の期間が長いことから上市した際に残存している特許期間が短くなっている実態を踏まえて、5年間を上限として、特許期間を延長する制度です。延長された場合、特許期間は、最長、出願から25年となります。 2021年の改正特許法に連動して、2020年末にその実施細則の草案が公表され、2021年には審査便覧(審査指南書)改正案の公表と続きました。これらの草案の中で、特許期間の延長期間の計算方法も含め、詳細な規定案が示されていましたが、この時点では未だ、最終化されていません。 どうなっているのでしょうか? 下記グラフをご覧ください。IND申請(治験申請)、NDA(上市承認申請)の過去5年の推移です。過去、8年に遡りますと、右肩上がりの傾向が浮き上がるのですが、昨年22年はコロナ禍の影響もあってNDA件数自体は、減っています。 INDとNDAの件数の総計は490件となりますが、海外からの申請(輸入申請)と国内製造を前提とした申請の内訳は、下記の通りとなります。国内製造を前提にした申請が輸入の3.3倍となっています。 国内製造を前提とした申請の件数が増えており、その多くは中国の内資企業による申請です。特に内資企業によるIND申請が激増しています。そして、2022年に24件に販売承認が下りていますが、このうち、70%が中国の内資企業によるものです。 従来は、中国の新薬の知財保護制度は、外資の利権を守る為、特に、米国からの圧力によって制度の整備がされてきた経緯があります。しかしながら、ここにきて、新薬の申請件数等、明確に、中国の内資企業が多くを占めるに至っています。いまだ、中国ではジェネリックビジネスの利権が強いとされていますが、新薬の国内企業の利権も無視できないレベルにまで上がってきているのも事実です。 新内閣(国務院)が3月に発足し、新体制が動き出して、3か月が経過。経済活性化の為に、新内閣が知財制度も含めて、イノベーションを推進する具体策を打ち出すと期待されています。 そういった中国の国内の経済環境下、特許期間に関する実施細則について、暫定措置も含めて、遠からずの内に、何らかの具体的な規則が出てくるものと思われます。 3.データ保護 新薬の承認をNMPAが付与するにあたって、「新薬特許」の有無に関わらず、一定期間(5~6年)、NMPAはジェネリック薬の承認を付与しないという制度です。ジェネリック薬は申請にあたって、先発の新薬の承認の対象となったデータを引用することを前提に簡略試験(先発との同等性等に関する非臨床、臨床)の実施による申請が認められますが、「データ保護」とは、先発の当該データを保護して、ジェネリックの引用を認めないという概念から来ています。「データ保護」は薬事法の下での処理となってきました、即ち、NMPAが推進母体です。2022年5月に薬事法の「実施条例」案が公表され、その中で、「データ保護」の関連条文が盛り込まれています(参照https://www.kawamotobbp.jp/articles/1904)。しかしながら、その後、目に見えた進展はありません。 「特許期間の延長」は、上記の通り、制度の早期導入に対して、中国内資からの圧力は高まっているのですが、「データ保護」については、その次、という位置づけとなっています。内資というよりも、外資の利権を注視した制度とも言えるからです。すなわち、日本も含め、企業によっては、欧米での開発を先行し、そこでの上市後に中国で初めて開発に着手するというグローバルの開発設計により、中国で新薬を上市する際には、場合によっては、特許期間が切れているということもありえます。その意味で、外資にとって、特に中国開発に後れを取っている日本企業にとっては、特許の有無に関わらず、「データ保護」によってジェネリックの上市を阻止して、独占権を確保するという意味で、早期導入が必要な情勢です。また、外資から新薬のライセンス導入を企てている中国の内資企業にとっても「データ保護」は欲しい制度となっています。しかしながら、昨今の米中摩擦により、外資の利権を代表するアメリカの圧力が強く効かなくなっている情勢下、米中摩擦の緩和待ち、といった情勢とも言えると思います。 4.まとめ 李強(総理)が率いる新政権の下での「特許期間の延長」について、具体的な細則の施行がそう遠からずのうちに実現されるであろうということ。「データ保護」については、国際情勢の影響を受け、ポジティブな意味で大きな変動がなければ、少し、先の話にもなりうる情勢読みです。

ADC競争の爆発 / PD-1の再来?!

中国ではホットな分野ではどこも過当競争、大学の入学試験しかり、電気自動車ビジネスしかり、そして新薬開発も。 PD-1抗体医薬では、このような競争が。2011年にBeigene(百済神舟)等の中国の先発4社が研究を開始、臨床試験を終えて上市を果たしたのは2018年末のこと。この間、100社以上が研究開発に参入。研究開発の過当競争の後に控えているのは、マーケティングの過当競争。2023年5月の時点で、中国内資企業の研究開発によるPD-1抗体の上市承認は10品目近くを数えます。中国市場では、これら国産品が先発にあたるBMS等の外資のPD-1抗体に加えて、ずらっと並んでいます。 その次に競争の波が来ているのが、ADC(抗体薬物複合体)。現在、中国国内企業の110社が研究開発競争に参列しており、うち、70品目が臨床試験段階に。中国市場には外資を中心に8つのADCが上市済で、うち、RemeGen(栄昌)の国産ADC(HER2)の1品目含まれいます。また、早期開発段階のADCについて外資へのライセンス・アウトが続いています。 マルチ企業がからむディールとしては、2022年7月末にKelun-Biotech(科倫博泰)が、SKB264(TROP2-ADC/TNBC乳がん)の全世界の開発・製造・販売権をメルク(Merck)に供与(https://www.kawamotobbp.jp/articles/2285)、その後も両社は前臨床段階の複数のADC品目を含めて二回にわたって提携関係を拡大しています。そして、直近の5月には、LaNova(礼新医药)が前臨床段階のLM-305(GPRC5D-ADC)をアストラゼネカにグローバルのライセンスを許諾。アストラゼネカは2月にLupu Bio (楽普)/ KeyMed Biosciences(康諾亜)からCMG901(Claudin18.2- ADC)を導入したのに続いて、今回、中国から2件目のライセンス導入となります。 尚、中国の研究開発にかかるADCの外資へのライセンス・アウトのリストは下記の通りです。 契約時期(年・月) ライセンサー(中国) ライセンシー 契約金総額 2021.8 RemeGen(栄昌) Seagen(ファイザー) 26億ドル超 2022.5 LaNova(礼新) Turning point (BMS) 10億ドル超 2022.5 KeLunBio(科倫博泰) メルク 14.1億ドル 2022.6 DAC· Bio(多禧生物) J&J ——- 2022.7 KeLunBio(科倫博泰) メルク 9.36億ドル 2022.7 CSPC(石薬) Elevation Oncology 11.95億ドル 2022.12 KeLunBio(科倫博泰) メルク 94.75億ドル 2023.1 DUALITY(映恩生物) Adcendo ——- 2023.1 Evopoint(信諾維) AmMax 8.71億ドル 2023.2 […]

和記黄埔医薬が経口大腸がん薬を武田薬品にライセンスアウト

和記黄埔医薬(ハッチソンメディファーマ、Hutchison、上海)が2018年に中国で上市した大腸がんの経口薬 Fruquintinib(フルキンチニブ)の中国・香港・マカオを除く全世界での開発、商業化独占権を武田薬品にライセンスアウトしました。 Fruquintinibは和記黄埔医薬が2007年に研究開発を開始し、その後2013年にイーライリリーへ中国における商業化権をライセンスアウト、同社をパートナーとして開発を続け、2018年に中国にて上市されました。2022年12月にはFDAへの段階的申請を開始し2023年上半期に申請が完了する予定です。 Fruquintinib(商品名:爱优特 ELUNATE)は低分子医薬品で、VEGFR(血管内皮増殖因子受容体)1,2,3に高い選択性、阻害性を有します。VEGFR阻害剤は腫瘍の急速な成長に必要な血液供給を制限することにより、腫瘍の血管新生に重要な役割を果たします。 抗血管新生阻害薬の世界市場には腫瘍の治療に承認されている約30種類の医薬品が上市されています。 適応症は治療抵抗性転移性大腸がん(mCRC)ですが、和記黄埔医薬はイーライリリーとFruquintinibをCRC、NSCLC、胃がんを含む3つの固形がんを対象に開発する契約を締結しています。 今回武田薬品は、和記黄埔医薬に契約一時金として4億ドルを支払います。また、マイルストンとして最大7億3000万ドル、さらにロイヤルティを支払います。

【復星医薬】2022年上半期の状況・実績

全体状況 ヘルスケヤーのコングロマリット企業とも言えるFosun(复星医薬)は、医薬・医療機器・診断・健康サービス分野と多岐にわたる事業を「イノベーション」と「国際化」を旗印に展開。2022年上半期は、営業収入は約4300億円(前期比26%増)、経常利益は、約360億円(前期比19%増)。営業収入の海外比率は36%を占めている。海外事業関係は1400人を擁しており、米国、アフリカ、欧州等の地域で販売展開。 コロナ関連の開発の進展/新薬 研究開発人員は2800人、2020年上半期の研究開発費用は480億円に上っている。 BioNTechから導入のコロナワクチン(mRNA)は、台湾、香港では上市済、中国は上市承認の最終段階にある。また、バイオシミラー等の複数の新製品を上市した。 アムジェンから乾癬治療薬、腎疾患薬の2剤の中国での販売権を取得。 更には、子会社を通じてCAR-T細胞治療薬の上市承認を取得、販売を開始した。 国内外を問わず新ビジネスの導入に貪欲であり、中国展開を図ると同時に、海外進出も進境著しい。

【恒瑞医薬】2022年上半期の状況・実績

全般状況 HengRui(恒瑞)の医薬ビジネスの二本柱である「ジェネリック」・「新薬」ビジネスの何れも収益面で難しい局面にある。前者の「ジェネリック」は、主要製品が集中買付の対象となったことから収入減となり、他方、「新薬」は、複数の製品が医療保険の対象となり薬価が下がったことと、更には、研究開発の拡大による費用の高騰を招いたこと、且つコロナ禍のコスト高により、2022年の上半期の決算は、営業収入、利益とも前期比減となった。上半期:営業収入:約2050億円(前期比.23%減)、経常利益:約400億円(前期比:24%減)。 新薬の承認と研究開発の進展 2022年上半期の研究開発費は、約600億円(前期比13%)となり、営業収入の28%強を研究開発に投入。 研究開発の成果としては、AR阻害剤(抗アンドロゲン/前立腺癌)がNMPA(中国薬事当局)により6月に承認された。mHSPC(転移性ホルモン感受性前立腺癌)AR阻害剤として、2018年、中国の国家計画(13次5年計画)下に重大新薬創出プロジェクトに選定され、開発が進められた経緯があり、この分野での中国国産新薬としては、初の承認。HengRuiとしては11品目目の新薬となった。 新薬申請・審査段階にあるのは、4品目(癌(PD-L1阻害剤)、糖尿病、抗感染症、鎮痛が適応症)。 Ph III段階には、20プロジェクト、うち2件は国際共同治験の最終段階にある。 なお、開発が進展して新たにPh II、Ph Iに入ったプロジェクトは、Ph IIが10件, Ph Iが10件。 今後はプラットフォーム技術の蓄積に注力し、Protac, 分子糊型分解薬、ADC、二(多)重特異性抗体、遺伝子治療分野での新薬開発を推進するとしている。

【真実生物】コロナ治療薬の真実生物が香港市場にIPO申請

先月中国初の経口コロナ治療薬承認を獲得したばかりの真実生物(河南真实生物科技)が、香港市場へのIPOを申請しました。 2022年8月4日に提出された目論見書によると、コロナ治療薬Azvudine(阿兹夫定)の製造や商業化、治験のための資金調達ということです。発行する株式の数や調達予定額については記載されていません。 コロナ治療薬Azvudine(阿兹夫定) Azvudine(RO-0622)はHIV治療薬として2021年7月にNMPAによって上市承認されたNRTI(核酸系逆転写酵素阻害剤)です。2022年7月25日にはCOVID-19を適応症に追加することを承認され、中国で初の経口コロナ治療薬となりました。 2022年8月7日には1錠約170円以下(35錠で300元未満)で購入できると発表されました。HIV薬としての価格が1錠500円くらいですから、利益率はかなり低くなりそうです。 Azvudineの商業化についてはすでに上海復星医薬と提携しており、160億円を受け取ることになっています。

,

ジェネリック薬の第7回集中買付(国)とそのインパクト

「集中買付」の背景 従来、上海人のリッチな方々が病気をして薬を服用する際には、中国産のジェネリック薬には見向きもせず、海外のオリジナル薬を購入していました。国産のジェネリック薬の品質を全く信用していなかったからです。 中国政府(NMPA)がジェネリック薬の品質問題に大鉈を振るったのが、2016年に始まるジェネリック薬のオリジナル薬との一致性の再評価政策でした。多くのジェネリック薬の承認が取り下げられ、NMPAはBE試験等のオリジナル薬との一致性の試験を再実施したジェネリック薬にのみ承認を再付与しました。品質問題の解決の後に続いたのが、医薬品業界のコスト構造の変革です。それは、2019年に始まった国による医薬品の集中買付制度とその後の拡大です。2022年に入って第6回、続いて第7回の集中買付がなされました。 第7回集中買付 国の集中買付に参加できるのは、前記の一致性試験をパスして承認が下りたジェネリック薬です。政府は毎回、集中買付の対象の薬剤を指定します。第1回目の2019年は25品目でした。今回の7回目は488品目に拡大しており、高血圧、糖尿病、感染症、消化器疾患等の汎用薬のみならず、肺癌、肝癌、腎癌、大腸癌等の重大疾病の薬剤も含まれています。近々、年間の全医薬品の販売総額の80%を占める800品目が国の集中買付の対象になるとしています。 毎回、政府(国)が指定した集中買付の対象品目について、ジェネリック承認を得ている企業により入札が行われます。その提示された価格等の条件によって国が落札します。その際、政府によって当該薬剤の一年間の購入量の保証がされます。今回の集中買付には295社が入札に参加し、落札できた企業は217社、落札率は73%でした。一薬剤当たり落札企業は平均5.4社となっています。 例えば、BIがオリジナル品である抗癌剤ジオトリフ(afatinib)の入札は、揚子江製薬、斎鲁を含む5社が落札しています。各社、容量等が異なっており、入札価格はそれぞれです。何れも、名の通った大手製薬企業です。 なお、今回の国の集中買付の対象となっていない薬剤は、その下のレベルの行政機関である省、または複数の省の連合体が集中買付をすることになっています。 集中買付と企業集中 従来は、製薬企業から一次代理店、二次、――五次あるいは六次代理店と長い販売チャネルを経て、病院・薬局に販売されていました。また、省、地区・病院と様々な段階で入札および交渉が行われ、それをパスするために不透明な金の流れも存在していました。 政府による集中買付では、製薬企業ごとに購入する薬剤の量が政府により決められ、その量が各病院に割り当てられます。病院が使い切るかどうかにかかわらず、病院から製薬企業の指定する一次代理店あるいは二次代理店に代金の支払いがされ、製薬企業に薬剤代金が戻ります。したがって営業コストが大幅に削減されることになります。さらには、政府が年間の購入総量を保証することから安定的な製造計画を立てることができ、製造コストも削減されます。その代償として、集中買付により薬剤の買取価格である薬価が引き下がります。 数年前までは、中国には数千社といわれる製薬企業が存在し、規模の小さい企業が全国に散在していました。しかも、他の業界に比べると、高水準の利益を上げることができていました。しかしながら、集中買付制度により、ジェネリック業界は大転換期を迎え、選択と集中、企業の合従連衡が進み、巨大な医薬品市場をバックに企業が大規模化に向かっています。買い付けリストを見てみると、そこに大手の名前が並んでいることで見て取れます。 中国ジェネリック企業の大規模化と将来 さて、その行きつく先はどうなるのでしょうか?中国は従来、薬の中間体を製造し輸出していました。その後、薬の原薬の輸出へと転換。今、正に起きていることですが、原薬から薬の最終形態である製剤品の輸出へと発展しつつあります。中国の国内政策によって、規模が大きく、かつ経営の効率化が進んだジェネリック企業が出現し、今後、国際進出の時代が到来すると思われます。すでに、華海薬業、健友、海普瑞などは製剤品を多く輸出しています。 日本の医薬品企業は、中国のジェネリック薬の取引を受け身的に対応するのではなく、諸々のさざ波を乗り越えて、日本企業側から将来の輸入取引についてビジョンを提示していくべき段階にあります。

【科倫博泰】Kelunがメルクに対し1200億円規模のライセンス導出

Kelun(科倫)のライセンスディール 科倫博泰(Kelun-Biotech)は、自社研究開発のSKB264(TROP2-ADC/TNBC乳がん)の全世界の開発・製造・販売権をメルク(Merck)に付与しました(2022.7.26発表)。ライセンスの経済条件は、upfront:$35M(47億円)、milestones総額:$901M(1210億円)です。 SKB264はKeLun-Biotech自社開発のTROP2-ADCで、中国でTNBC(乳癌)患者のPhase III、および非小細胞は胃癌のPhase IIを実施中です。Kulun-Biotechは、四川省の成都の医薬品ガリバー企業である科倫集団(Kulun)が成都の医学城(Chengdu Medical City)に2016年に新薬の研究開発等を目的に設立した子会社です。  なおKulun-Biotechは2021年にも自社研究開発のEP0031(RETキナーゼ阻害剤)を、英国の癌ベンチャーであるEllipsesに対し欧米でのライセンスを供与しています。その対象製品は、米国でPhI/IIが開始しています。 今回のメルクへのライセンス供与は、それに続く第二弾です。 KeLunの本拠地である成都 Kulunの本拠地のある成都は四川省の省都であり、上海から西に2千キロ、中国の西部地区開発の拠点です。揚子江沿いにあるバイオ医薬のサイエンスパークは、上海を筆頭に、揚子江を上流に上って、蘇州、南京が先行していますが、さらに上流の成都では医薬城を建設し躍進しています。 この医薬城には、公的研究機関を中心にしてWuxi等のCROが進出しており、Kelunのみならず多数のバイテク企業が集積しています。このように成都の医薬城でもバイオ医薬R&Dエコシステムが整備されており、そこの企業群も中国国内でのグローバルに向けた競争に参加しています。 成都は四川料理の麻婆豆腐と美人を生む街としても知られています。パンダの基地、三国志の聖地(諸葛孔明)でもあります。 科倫(Kelun);科伦简介_四川科伦药业股份有限公司 (kelun.com)

,

中国発の新薬 / FDA(米国)承認申請の行方

BeiGeneのPD-1抗体の承認申請とFDAの反応 BeiGene(百済神州)は2019年11月、米国FDAからBTK阻害剤(Brukinsa)を適応症:MCL(セカンドライン)として承認を取得。現在では、米・中・欧州・加・豪州を含む20か国で上市しています。そしてそれに続くグローバル品であるPD-1抗体(Tislelizumab)については、2021年1月に中国での承認が下りたのを機に、ノバルティス(Novartis)に対して米国での共同販売権を留保しつつ、中国を除くグローバルな販売権を供与(契約金アップフロント額:6億5千万ドル)。BeiGeneは、35か国で9000人の患者を組込む(うち中国:6千人、海外:3千人)臨床試験を実施してきました。 Tislelizumabの米国での最初の申請の適応症は、食道扁平上皮癌(セカンドライン)でした。中国を含むアジア、欧州、北米の10か国でなされたPhase III(512例の患者を組込み)を踏まえて、2021年9月に米国申請しました。その承認審査期限は2022年7月12日でしたが、FDAは中国でのBeiGeneの現場査察(中国)がコロナ禍の制限によって実施できなかったことを理由に、承認が見送られています。 他方、米国のライセンシーであるノバルティスによれは、肺癌(monotherapy)の米国での承認申請は見送るとしています。肺癌の臨床試験の実施場所が、中南米、中国、東欧であって、米国の人種多様性と標準治療法を十分に反映したものでない可能性があると示唆しています。 なお、中国ではすでに9つの適応症の承認を取得しており、うち5つの適応症が保険目録に収載されています。中国では一番広い適応症の承認が付与されたPD-1製品と位置づけされています。そして、欧州では複数の承認申請が受理され審査に入っています。 中国発の新薬の米国承認実績 これまで中国企業の自主開発による新薬で米国承認を得られたのは、2つの製品です。 第1号は、2019年に承認された前述のBeiGeneのBTK阻害剤(Brukinsa)です。この新薬は、まず豪州でPhase Iが実施され、その後の臨床試験は主として中国で実施されました。そして、豪州のPhase Iデータを踏まえて、中国で実施されたPivotal studyのデータのみをもって米国で承認申請されました。 但し、申請に先立って、開発の早い段階からFDAとコンタクトして、米国の規制に合致した形で中国の臨床試験が実施されていました。かかる経過を踏まえて、米国で上市承認が付与されています。 第2号は、細胞治療分野で、2022年3月にLegend社によるCAR-T(CARVYKTI)の承認です。2017年にJ&Jと提携の上、中国での臨床試験も含めた国際共同治験を進めた結果です。 中国のPhase IIIデータと米国承認 他方、今年3月、Innovent(信達生物)の自社開発にかかるPD-1について米国での承認申請が却下されました。これは、中国のpivotal studyのみに基づいて米国で申請していたのに対し、FDAより米国の標準療法を勘案の上、米国人を組み込んだ臨床試験を実施してデータを補充するようにとの指摘がされました。 中国は臨床試験大国に変貌しつつあり14億人の人口をバックに膨大な患者数をかかえていることから、患者の組込みが早く早期に臨床試験を完了させることができます。しかも、米国に比して廉価です。外資の国際共同治験の中国での実施経験を踏まえて臨床試験のデータの質も格段に進歩しています。しかしながら中国でのみPivotal studyを実施して、そのデータをもって米国でFDA承認を取得するには、対象薬剤のプロファイル(優位性、付加価値)が一番重要ですが、それに加えて米国での人種の多様性の問題をクリアの上、事前に十分FDAと臨床試験の全体像を協議・コンセンサスを得ておく必要があると、これまでの事例から示唆されています。

,

米欧+中国での新薬承認 コロナ禍の2022年上半期の実績

米国、欧州、中国の上市承認の件数と中国の躍進 コロナ禍にあって、2022年上半期はコロナワクチン、コロナ治療薬の開発および上市承認が進展をみましたが、他の疾患領域での上市承認も歩みを止めることはありませんでした。米国、欧州、中国の三極の薬事当局(FDA, EMA, NMPA)がこの期間中に上市承認を付与した新薬の疾患領域別の件数は、癌(肿瘤)がトップ、その次は感染症でした。癌領域では、三極の内、中国(NMPA)の上市承認の件数がトップ(下記グラフの黒色)となっています。下記のとおりです。 なお2022年上半期、新薬に対して世界で最初に上市承認を付与した薬事当局としては、FDAが14剤の新薬を承認しトップ。EMA(欧州)が5剤、NMPA(中国)は、自主研究開発の進展により7剤となっています。承認対象は、低分子化合物以外に抗体、細胞治療等が含まれています。 中国企業の中国での新薬承認リスト(2022年上半期) NMPA(中国)が世界で最初に承認を付与した新薬は下記のリストの通りです(一部例外あり)。 承認日 登録分類等 適応症の概略 企業名 1/10 漢方1.2類 肝細胞癌 Shenogen (珅诺基) 1/26 抗体 1類 狂犬病 North China Pharma (華北製薬) 3/1 組換ワクチン コロナ・ワクチン Zhife Biological (智飛生物) 4/13 低分子1類 逆流性食道炎 Luoxin (罗欣薬業) ラクオリア創薬からのライセンス導入品 3/24 PD1抗体 癌 Henlius (复宏汉霖) 6/29 二重特異性抗体 (PD1/CTLA-4) 癌 Akeso (康方生物) 6/29 AR阻害剤 1類 前立腺癌 HengRui (恒瑞医薬) 中国企業の新薬承認からみるR&D力 上記のリストの通り、漢方薬、狂犬病薬等は、中国の典型的なdomestic […]

, ,

【2022年上半期】中国でR&Dされ欧米へライセンス導出された新薬一覧

2022年上半期―中国企業Business Developmentの健闘 中国企業のR&Dが生み出した新薬等の海外企業へのライセンス導出は、2022年上半期に28件の成立をみました。内、20件が新薬・新技術関連、4件がバイオシミラー、4件がジェネリック・改良型医薬でした。 下記がそのリストです。 <2022年上半期ライセンス導出リスト> 中国企業 (ライセンサー) 海外企業 (ライセンシー) ライセンス対象品目 Upfront (US$) 取引総額 Kelun (科倫) Merck ADC(TROP2) 47M 1.4B Junshi Pharma (君実) Coherus(米) TIGIT抗体 35M 290M Harbour (和铂医薬) AstraZeneca 二重特異性抗体 (CLDN18.2/CD3) 25M 350M LaNova (礼新医药) Turning Point(米) ADC(Claudine 18.2) 25M 220M Pregene (普瑞金) CellPoint(欧)   CAR-T(BCMA) 21.8M — Adagene (天演薬業) Sanofi 抗体/マスキングplatform技術 17.5M 2.5B Jemincare […]