科創板は、2019年7月に上海証券取引所のハイテク向け市場として設立されました。取引を開始してから2周年が経過し、この間に科創板は規模を拡大して、株価指数も高値圏を維持しています。国家的な当初の目論見である、イノベーション型企業の成長を促しつつイノベーション駆動による経済発展をリードする、を体現していると言ってもよいと思います。

科創板の上場要件(IPO要件)については、以前の記事をご覧ください。

科創板では、この二年間に313社がIPO、時価総額が約83兆円、IPOによる調達額が約6.5兆円でした。

この科創板の設立にあたっての対象産業ですが、情報技術、新材料、新エネルギー、省エネ環境等に並んでバイオ医薬が挙げられていました。科創板でIPOを達成した313社の内、75社がバイオ医薬関連企業でした。年度別の内訳は、下記の通り、2019年に16社、2020年に34社、2021年(1-7月)に25社と推移しています。

创板生物医药科技公司上市时间表,制图:贝壳社

バイオ医薬企業が科創板でIPOの占める割合が高い背景としては、科創板が中国の将来の鍵を握るコアテクノロジー企業を志向していること、そして、売上がない赤字企業であってもIPO要件を満たしうることから、バイオ医薬企業のIPOに親和性がある、とされています。半導体関連の企業は規模の拡大が重要ですが、バイオ医薬系は、規模は小さくても特徴を有していることが決め手となります。科創板のバイオ医薬系の事業分野としては、化学医薬品、生物薬剤、CRO、医療機器、動物・ペットが重点領域となっています。 IPO企業の事業分野は、下記の通りで、医療機器分野が最多となっています。

科创板生物医药科技公司行业组成情况,制图:贝壳社

上場企業の時価総額面では、2兆4千億円を超えている企業は、康希諾(CanSino/ワクチン技術)、華熙生物(Bloomage/健康食品・美容・化粧品)の二社です。他の取引所との比較で言えば、時価総額が1兆7000億円(1000億元)を超える企業数、代表企業は下記の通りです。

取引市場時価総額1兆7千億円超の企業数代表的な企業当該企業の特徴
上海・深センA株8社药明康德 (Wuxi)中国の代表的・国際的なCRO
科創板6社邁瑞医療 (Mindray)国際展開を図っている医療機器会社
香港H株14社药明生物 (Wuxi Biologics)Wuxiの関連企業で、バイオ製品のCDMO

科創板は、他の市場と比べて総額はともかく、将来の成長の空間が大きいとも言えます。

U表記株

バイオベンチャー等、長期の研究開発の先行投資をして初めて、売れる商品が出来上がるようなビジネスは、長い期間、赤字状態が続きます。科創板は、そのような研究開発型の企業に対してIPOの門戸を開いていて、“U”表示がされます。赤字であることから、売りが立っていない場合が多く、リスクも高いので、投資者に注意喚起する意味もあります。リスクが高いと言うことは、将来、研究開発が進展し商品化された場合には、大きく化ける可能性があることを意味しています。下記にU企業株の例を挙げます。

上記の企業を含めて、抗ウイルス薬、ワクチン、抗がん剤の新薬の研究開発企業、医療機器企業、更には、美容・化粧品関係、CRO企業、研究開発サービス提供企業等の株価上昇が著しいとされます。 近年の中国の新薬の研究開発への投資は目を見張るものがあり、そのような研究開発の成果が、新薬の臨床試験を開始するために必要なIND申請の数等に表れており、2015年以降、数が大幅に増えています。この大きな方向性の軸は当面、変わらない情勢ですので、より一層の透明性を図ることにより科創板の更なる発展が期待されています。

世界でインターネットテクノロジーが既存のビジネス/流通チャネルに大きな変革をもたらしていますが、医療の世界もその例にもれず大変革の渦中にあります。

特に中国ではどの分野であれ、新しいビジネスチャンスがあると言われる領域には多くの企業が一気に参入し、巨額の資金が集中的に投入されます。そして、参入した企業の熾烈な競争の混乱期を経て、淘汰が起こり、生き残った企業が徐々に市場を押さえて安定化に向かうといったパターンです。(ECモールのタオバオ、QRコード決済のAlipay、配車サービスのDiDiなど)

中国のネット医療は、今が混乱期~淘汰の時期にあるようです。

2020年、コロナで人々が引きこもりを余儀なくされた時は、医療ITサービスに参加した人が激増しました。ところが、コロナが中国では沈静化した今、転換期を迎えています。

数年前から各社乱入とも言える状況で新医療ITビジネスの立ち上げがありましたが、その多くが淘汰され、現在生き残りつつあるのはネット巨大企業のアリババや京東が運営するプラットフォーム、有名な薬局チェーン、医薬品の製造・流通企業のそれです。但し、ビジネスモデルも含めて、未だ混沌とした状況が続いています。

そういった混沌とした環境を代表しているのが、「叮当快药」です。大手のOTC企業が、2015年にオンラインプラットフォームを立ち上げ、アプリ上で薬剤師の説明、医薬品の注文、購入者への宅配を中心としたビジネスを展開しています。過去400億円相当の資金をベースにビジネスが急拡大してきましたが、過当競争の中、赤字から脱却できず、株主の大きな入れ替えも行われてきました。それが、この6月8日の投資ラウンドで220億円を集めました。ただ、下記の通りネット巨大企業が同じようなサービスに参入し始めたこの市場で特徴点を打ち出していくのは並大抵のことではありません。

平安好医生

中国の巨大な保険会社の平安グループの平安健康が運営する「平安好医者」(中国語で「好医生」は、良い、立派 な医者という意味)のネット医療ビジネスも動乱の最中にあります。サービスとしては、直接医者とチャットで医療相談ができるサービス、医者や病院の口コミ、病院の予約、薬の購入などです。

2015年以降連続6年の赤字決算(累積で800億円)、黒字化の目処が立たず、昨年5月にトップ総入れ替えの人事が断行されました。保険ビジネスによる患者・医者の情報をベースに新サービスをどのように創出するかが問われています。

阿里健康、京東健康

平安好医生に比べて、巨大ネットビジネス企業であるアリババ(阿里巴巴)や京東をバックとする「阿里健康」、「京東健康」は医薬品および健康関連商品のネット販売をコア ビジネスに据えて、その周囲の医療IT等のサービスを徐々に提供していることから経営は比較的順調に推移しているようです。「阿里健康」は2020年に黒字化、「京東健康」は増益基調が続いています。

微医(WeDoctor)

上記の「平安健康」、「阿里健康」、「京東健康」と共にネット医療の四天王の地位を占めるのが「微医」です。前三社は、既存のビジネスをベースに商品販売を主力にしているのに対して、「微医」は毛色が異なっています。医療ITの先駆者として2010年に創業。2015年にはオンライン病院を開業して、 オンライン診療・処方、医療保険適用処理等のサービスを提供してきました。売上高は急増していますが、赤字からは脱却できていません。そのことから、前三社が果たしているIPOについても2021年4月の時点で香港に申請しているものの結果はまだ出ていません。

通信販売の対象となっている医薬品の範囲は広がっていますが、処方薬の取扱いについては、規制が十分に追いついていません。ネット上の診断と処方薬のネット上の販売に不透明な部分も存在する所から、今後その面での規範化を高めていく必要があると言われています。

 平安好医者阿里健康京東健康 微医
特徴ネット医療で患者―病院・医師の繋がりカバー範囲が最大市場価値が最大であるネット医療企業  最大のネット医療プラットフォームによる最大の通信販売ドラッグストアオンライン診療
利用者数登録者:3.7億人
アクティブ:6700万人(MAU)
アクティブ:2.8億人(YAU)アクティブ:7300万人(YAU)登録者数:2.2億人
優位性健康保険サービスを拡張する形で、ネット医療サービスを提供アリババの通販プラットフォーム(タオバオ)を利用し顧客獲得コストが低い京東の通販・物流システムを利用オンライン診療の裏で社会保険のシステムに接続されている
カバー率3000病院、9万薬局、5万人の医者と連携商品の提供は7-24時間内、120都市をカバー、医薬品企業の90%をカバー物流・倉庫システムに秀でており、200都市をカバー

科創板(The Science and Technology Innovation Board; STAR Market)がこの6月に創設2周年を迎えます。3月末までに、IC集積回路、医薬バイオ、新素材、ハイエンド製造等の分野の251社がIPOに成功しました。内56社が医薬バイオ関係会社です。全体の中で医薬バイオ関連企業が占める割合は22%です。従来、香港、アメリカに向かっていたベンチャー企業等が上海のIPO市場に向かう流れとなっています。一方で、これまでに95社がIPO申請を取り下げており、内11社が医薬バイオ関連企業です。特に直近の3か月にIPO申請の取り下げは、57社と相次ぎました。

科創板への上場を中止した件数の推移

科創板の上場中止が相次いだ原因

こうしたIPOの中止や取り下げは、科創板(Star Market)の「上場基準(IPO)」の変更、厳格化に起因しています。

2021年4月、科创板(Star Market)の「サイエンス本質のイノベーション評価」等の規則(注1)が改正となりIPO基準が厳格化されました。IPOを目指す企業が有しているサイエンス(科学)の本質がどれだけイノベーティブ・創造性を秘めているか、形式面に加えて実質面を重視して証券取引委員会がIPO可否の評価をするというものです。従来、中国の医薬バイオベンチャー企業は、海外、特に米国から新技術のライセンス導入を活発化していました。そして、投資会社から資金を集めて臨床開発を進めることにより自分で中国での上市を目指すか、または、プロジェクト価値を上げてから他の中国企業にサブライセンスを付与して、その利ザヤを稼ぐ、といったビジネスモデルが数多くみられ、そういった企業が実際にIPOを実現していました。しかしながら、今回のIPO基準の変更等により、上記のビジネスモデルの企業もイノベーションの視点から実質評価されることになり、上場が難しくなった結果として上場中止が相次いだというわけです。

これまで、中国企業がIPO狙いで日本から新技術を買うということも行われてきました。 しかしながら、単にその目的で買うということは、今後難しくなってくると思われます。

「サイエンス本質のイノベーション評価」に関連して、具体的に挙げられているIPO基準(改正後)の指標は、① 研究開発費(R&D費用)の金額、② 研究開発要員の人員数、③取得している特許の数、について、一定の数的・量的な基準を設定し、その要件を満たしている事としています。

それに加えて、① IPO申請企業のコア技術の先端度、② コア技術者のレベル、③ 中国の国家重要科学技術プロジェクトの一端を担っているか、④ コア技術により生まれる新製品等が国家の推進している重点領域に入っていて、従来の輸入品を置き換えることが出来るか、⑤ 特許発明が合計50件以上であること等の要素を加味して総合判断するというものです。

今回のIPO基準の改正によって、IPO申請の審査時間が長くなる一方、本質的な技術力を持っていると評価された企業のみIPOを成功できるようになります。

注1:「サイエンス本質のイノベーション評価」 等の規則 :

  • 中国証券監督管理委員会《科创属性评价指标》(2021年4月16日):全文PDFはこちら
  • 上海証券取引所《科创板企业发行上市申报及推荐暂行规定》(2021年4月16日):全文PDFはこちら

これは、科創板(Star Market)の「上場基準(IPO)」の変更、厳格化に起因している面があります。

2020年、中国の医薬バイオテクノロジー投資はが大活況でした。中国が国策として新技術R&Dを強力に推進していた、その流れの中でコロナ・パンデミックがあり、医療に関わる新技術への注目度がさらに高まっていることが医薬バイテクへの投資傾斜を加速しています。 

中国の医薬バイテクがIPOを狙うに当たっては、下記の4つの市場が対象になります。 

中国バイオテクノロジー企業の主なIPO先

1.上海証券取引所・科創板(The Science and Technology Innovation Board; STAR Market) 

2019年、ハイテク企業向けに上海で立ち上げられた。 

2.香港市場 

科創板の開設前から資金調達がされていた老舗市場。 

3.メインボード(主板) 

日本の東証一部に当たる、中国の伝統的な株式市場で、上海市場や深圳市場。医薬バイテクにはIPOのハードルが高い。 

4.米国証券取引市場 

NASDAQ等 

IPOを果たした中国の医薬バイテク企業を「数」で見ると、下記の通り、科創板の伸びが著しく、2020年は前年度比で2倍となっています。次いで、香港市場が50%増となっています。 

(PharmaInvest調べ) 

このようにIPOが活況を見る中、中国の医薬バイオベンチャーの起業、そしてIPOに向けた投資の継続に一段と熱が入っています。2020年の一年で、1660件の新規投資が成立しており、その一件当たりの投資額のサイズは40億円程度と、日本の感覚で言いますと桁外れに大きい印象です。 

2020年、投資額ランキングのトップ3は以下のようになっています。 

2020年、投資額ランキングのトップ3

1.联拓生物(LianBio) 

2020年の受け入れ投資額トップは、2020年8月に創業したばかりの「聯拓生物」の335億円です。 

聯拓生物は上海をベースとした医薬バイオベンチャーです。 

2.益方生物(InventisBio) 

次いで2013年創業の「益方生物」の150億円、こちらも上海をベースとした医薬バイオベンチャーです。 

3.创胜集团(Transcenta) 

創勝グループは腫瘍を中心とした十余のパイプラインを持つバイオテクノロジー企業グループ。12月に110億円の投資を集めました。 

これ以外にも、低分子医薬の創薬ベンチャーの雄、药捷安康(TransThera)も2020年に108憶円の投資を受けました。 

このように、中国では投資のワンロットが数十億円のレベルにあります。そして今、これらの新規投資をバックに中国ではR&Dが推進されていて、その成果としての実りが数年先に具体的に出てくると期待されています。日本の医薬品企業が新薬プロジェクトを中国から導入する方向に本格的に舵を切るのはもうすぐでしょう。