以前紹介した「医薬品の特許紛争の早期解決システムの実施規則(药品专利纠纷早期解决机制实施办法)(試行)」の最終版が公表され、7月4日に施行されました。続いて、それに関連する裁判所、特許庁の細則も7月5日に公表されて施行され本格的に動き出すことになりました。

パテントリンケージ制度の全体像

従来、ジェネリック企業があるジェネリック薬の上市の承認申請をした場合、中国の薬事当局はその審査段階においてジェネリック薬が医薬品として必要な基準を満たしているか否かの審査をするだけではなく、特許に関連する問題も判断していました。つまり、当該ジェネリック薬の製造・販売が対応の新薬(先発品)をカバーする新薬特許を侵害するか否かについてもある程度のレベルで判断がされていて、問題がないと判断されてはじめてそのジェネリック薬に対して上市の承認が付与されていました。そこには外部の様々な利害関係者からの圧力がかかっていたであろうことは想像に難くありません。そして今回のパテントリンケージ制度では、特許問題の判断にあたっては薬事当局がジェネリック薬の承認審査段階で単独で行うのでなく、裁判所特許局とも緊密な連携を取って早期に解決しようというものです。

したがって特許法76条に定められているパテントリンケージ制度については、上記の3つの機関がそれぞれ下記の通り細則・弁法等を公表した上で施行されています。

 これらの弁法・規定を引用しながら、下記の全体像に従って説明を進めて行きます。

特許情報プラットフォームの開設

中国の薬事当局である医薬品監督管理局(NMPA)の審査センター(CDE)がパテントリンケージ制度の肝となる、新薬とそれにリンクした特許を収録した特許情報プラットフォームhttps://zldj.cde.org.cn/home)を開設しその管理責任を負います(パテントリンケージシステムの実施弁法 §2,3)。特許情報プラットフォームはアメリカのオレンジブックの中国版と言えます。

パテントリンケージ制度でのプロセスは以下の通りです。

①新薬の特許情報の提供

②ジェネリック申請の際の声明

③裁判所・特許局への訴え

④ 待機期間(化学医薬品)

パテントリンケージシステムの実施弁法§8

1)待機期間の内容

特許権者・利害関係人は化学医薬品ジェネリック申請の際に提出された声明IVに異議がある場合に、裁判所または特許庁に訴え出ることができます(前述③を参照)。特許権者等が45日以内に訴え出た場合、NMPA(医薬品監督管理局)はジェネリック申請に対して9ヶ月の待機期間を設けて、その間はジェネリック申請に対して承認を付与しないことになります。  特許権者等が45日以内に訴え出なかった場合、NMPAは通常の審査プロセスを経て薬事要件を満たしていれば、ジェネリック申請に対して上市承認を付与します。 なお待機期間の起算日は裁判所又は特許庁が特許権者等から訴えを受理した日です。また待機期間は一回のみ設定されます。

この待機期間の性格ですが、この間であってもCDE(NMPAの審査部門)はジェネリック申請に対して審査は継続されますが、上記の通りたとえジェネリック申請が薬事要件を満たしていたとしてもその間は上市の承認は付与されないことになります。

2)米国との比較

米国のMarket ExclusivityおよびPatent Linkage制度の下では、ジェネリック企業は先発の新薬が承認されてから4年経過後にジェネリック申請(ANDA)をする事ができ、その際Paragraph IV(中国の声明IVに該当)の声明を提出している場合に特許権者等は訴訟の提起が可能となり、そのときの待機期間は2年半となっています。したがって先発の新薬は、訴訟の提起を前提として少なくとも4+2年半=6年半は独占権を保証されており、この間にジェネリック薬が上市されることはありません。これに対して、中国はMarket Exclusivityに該当するデータ保護制度の導入は検討されている段階です。したがって現段階では先発の新薬が承認されれば、ルール上いつでもジェネリック申請が可能であって、声明IVが付されていた場合に特許権者が訴え出たとしても9ヵ月間しかexclusivityが保証されていないということになります。いずれにしてもデータ保護制度の導入を待っている段階です。

3)待機期間=化学医薬品に対してのみ設定

この待機期間は、化学医薬品についてのみ設定されています。したがってバイオ医薬品、漢方薬については待機期間はなく、ジェネリックが申請された場合には通常の審査プロセスを経て承認されます。ジェネリック薬の上市後に通常の侵害訴訟によって特許問題を解決して行くことになります。  

⑤ 裁判所・特許庁の判断結果と薬事審査プロセスの関係(化学医薬品)

パテントリンケージシステムの実施弁法§9

化学医薬品のジェネリック申請で声明IVが提出され、これに対して特許権者等が異議ありとして裁判所・特許庁に訴え出た場合、上記の通り9カ月の待機期間が設定されます。この待機期間中に裁判所・特許庁から判断(裁判所=判決、特許庁=裁定)が下りた場合、特許権者等は当該判断(判決・裁定)を10日以内にCDEに通知する必要があります。CDEはジェネリック申請に対して下記の通り審査・処理します。

1)判決・裁定が下記①、⑤の内容の場合⇒新薬特許の満了を待って、CDEはジェネリック申請の承認手続きに入る。

① ジェネリック薬は新薬特許の範囲内に入る。

⑤ 待機期間を経過後であっても、ジェネリック申請の上市承認の付与前に、ジェネリック薬は新薬特許の範囲内に入るとの判決・裁定が下りた場合。

ただし上記の場合であったとしても、その後下記の事象が発生した場合、ジェネリック申請の企業はNMPAに対してジェネリック薬の上市承認を付与するよう請求することができる。そのような場合には、NMPAは承認を付与するか否かを決定することができる。

① 判決・裁定が次の裁判手続きで覆った場合

② ジェネリック企業と特許権者等の間で和解が成立した場合

③ 新薬特許が無効との判断が下りた場合、または、

④ 特許権者等が訴訟・裁定請求を取り下げた場合

2)判決・判定が下記②~④の場合⇒新薬特許の満了を待たずにCDEはジェネリック申請の承認手続きに入る。

② ジェネリック薬は新薬特許の範囲に入らない。

③ 新薬特許は無効

④ 9ヶ月の待機期間内に、判決・裁定が下りない。

⑥ 声明IV以外のジェネリック申請(声明I, II、III)の取り扱い(化学医薬品)

パテントリンケージシステムの実施弁法§10

②ジェネリック申請の際の声明」で列挙した声明I(特許情報プラットフォームに関連する特許は存在しない)または声明II(特許情報プラットフォームに関連する特許は存在するが、すでに特許満了している、もしくは特許無効宣言されている)が提出されている場合、NMPAは当該ジェネリック申請に対して技術的な審査の結果を踏まえて上市の承認をするか否かの判断を下します。

また声明III(特許情報プラットフォームに関連する特許は存在するが、ジェネリック企業はジェネリック薬が承認されたとしても当該特許が満了するまではジェネリック薬を上市しない)が提出されている場合、NMPAは、同様な方式で判断を下します。但し承認が付与されたとしても、当該ジェネリック薬は、特許期間の満了を待って、上市が可能となります。当該ジェネリック申請より前に申請していたジェネリック薬が声明IVを提出し、それが認められて、後記の通り市場独占期間が付与されている場合には、当該独占期間の満了後に、当該ジェネリック申請に上市承認が付与されます。

⑦ チャレンジした最初のジェネリック薬⇒市場独占期間の付与(化学医薬品)

パテントリンケージシステムの実施弁法§11

ジェネリック企業が声明IVを出してジェネリック薬をカバーする新薬特許が存在することは認めつつも新薬特許に挑戦(チャレンジ)してその主張が認められ、さらにNMPAがジェネリック申請に対して上市承認を付与した場合には、最初の承認対象となったジェネリック薬に対して1年間の市場独占期間が与えられます。

つまり新薬特許にチャレンジしたジェネリック企業に褒美を挙げるという趣旨で、このあと1年間は2番目以降のジェネリック薬の上市承認を与えませんので、最初の1番目のジェネリック薬にはジェネリック薬市場での1年間の独占期間が与えられることになります。ただしこの1年間の市場独占期間は新薬特許の有効期間を越えては付与されません。

ここで新薬特許にチャンレンジが認められるとは、ジェネリック申請が声明IVを提出しており、かつジェネリック申請者が特許庁に対して新薬特許の無効審判を請求し、審査の結果無効の判断がされ、最終的にNMPAによってジェネリック申請が上市承認されることを言います。

前述の待機期間と同様、最初のジェネリック薬に付与される1年間の市場独占期間中であっても2番目以降の他のジェネリック申請に対してはCDEは技術審査を継続することができます。したがって他のジェネリック申請は市場独占期間が満了すれば承認付与のプロセスに入ります。

米国の制度の下では最初のジェネリック薬に180日間の独占期間が付与されるのに対して、中国では1年間です。中国の場合ジェネリック薬が承認されたとしても市場に浸透するまでに時間がかかることが一つの理由として挙げられています。

⑧ 化学医薬品以外(バイオ医薬、漢方)の取り扱い

パテントリンケージシステムの実施弁法§12、13

バイオ医薬と漢方については新薬承認取得者による新薬特許情報プラットフォームへの登録(パテントリンケージシステムの実施弁法§2, 3, 4)および新薬特許権者側による裁判所・特許庁への訴え(パテントリンケージシステムの実施弁法§7)が適用されます。 しかしながら同実施弁法§8の適用がないことから、裁判所・特許庁に訴え出ても待機期間は設定されない事になります。バイオ医薬と漢方について新薬特許情報プラットフォームに登録できる特許の類型は化学医薬品と異なっています(前述①参照)。

バイオ医薬と漢方薬のジェネリック薬(バイオシミラー等)の上市申請が出された場合、NMPAは技術審査を実施後に要件を満たしていれば承認の決定を下します。ただし裁判所・特許庁が当該ジェネリック薬が新薬特許の範囲内に入るとの決定を下した場合には当該ジェネリック薬は新薬特許の有効期間の満了後に上市が可能となります。

⑨ ジェネリック薬の上市後の特許侵害訴訟

パテントリンケージシステムの実施弁法§14

ジェネリック薬(化学医薬品、バイオ医薬、漢方)が上市承認された後に特許権者等が当該ジェネリック薬は新薬特許を侵害していると判断する場合には、特許法等の下で特許侵害訴訟の提起等によって紛争を解決することが可能です。ただしその場合であってもジェネリック薬に付与された上市承認の取消等の効果は発生しません。

⑩ 法的責任:虚偽情報等の提出

パテントリンケージシステムの実施弁法§15、最高裁規定§8、9、特許庁弁法§20、21

ジェネリック企業がジェネリック申請の際に提出する声明の内容に虚偽がある場合、もしくは特許権者が故意に新薬特許情報プラットフォームに無関係の特許等を登録する等の行為によって相手方当事者に損害が発生した場合、さらには裁判所・特許庁に提出した証拠等に虚偽がある場合、または相手方の秘密情報を漏洩した場合等、法的な責任を負うことになります。

以上、中国のパテントリンケージ制度の概観です。今後の実務等を通じで不明点が解消されて行くことになると思います。一定期間を置いて更に解説をする予定です。

以前紹介した「医薬品の特許紛争の早期解決システムの実施規則(药品专利纠纷早期解决机制实施办法)(試行)」の最終版が公表され、7月4日に施行されました。続いて、それに関連する裁判所、特許庁の細則も7月5日に公表されて施行され本格的に動き出すことになりました。

パテントリンケージ制度の全体像

従来、ジェネリック企業があるジェネリック薬の上市の承認申請をした場合、中国の薬事当局はその審査段階においてジェネリック薬が医薬品として必要な基準を満たしているか否かの審査をするだけではなく、特許に関連する問題も判断していました。つまり、当該ジェネリック薬の製造・販売が対応の新薬(先発品)をカバーする新薬特許を侵害するか否かについてもある程度のレベルで判断がされていて、問題がないと判断されてはじめてそのジェネリック薬に対して上市の承認が付与されていました。そこには外部の様々な利害関係者からの圧力がかかっていたであろうことは想像に難くありません。そして今回のパテントリンケージ制度では、特許問題の判断にあたっては薬事当局がジェネリック薬の承認審査段階で単独で行うのでなく、裁判所特許局とも緊密な連携を取って早期に解決しようというものです。

したがって特許法76条に定められているパテントリンケージ制度については、上記の3つの機関がそれぞれ下記の通り細則・弁法等を公表した上で施行されています。

 これらの弁法・規定を引用しながら、下記の全体像に従って説明を進めて行きます。

特許情報プラットフォームの開設

中国の薬事当局である医薬品監督管理局(NMPA)の審査センター(CDE)がパテントリンケージ制度の肝となる、新薬とそれにリンクした特許を収録した特許情報プラットフォームhttps://zldj.cde.org.cn/home)を開設しその管理責任を負います(パテントリンケージシステムの実施弁法 §2,3)。特許情報プラットフォームはアメリカのオレンジブックの中国版と言えます。

パテントリンケージ制度でのプロセスは以下の通りです。

①新薬の特許情報の提供

新薬の特許情報の登録

新薬を開発した企業はNMPAに上市承認の申請をし審査を受けた結果として承認を取得した場合には、当該新薬をカバーする特許(新薬特許)を特許情報プラットフォームに入力します。この入力は新薬の上市承認を取得した者(新薬承認取得者)が承認取得後30日以内に行う必要があります。登録すべき事項には下記が含まれます。

新薬の名称、剤型、規格、新薬承認取得者、関連特許番号、特許名称、特許権者、ライセンシー、特許成立日、特許満了日、成立状態、特許の類型(物質、用途、製剤等)、承認対象の新薬と当該新薬をカバーする特許クレーム(新薬特許クレーム)との関係、連絡先・その住所、連絡方法等。

パテントリンケージシステムの実施弁法 §4

前述の通り、特許情報プラットフォームの管理責任はCDEが負いますが、登録された情報の正確性や完全性等は申請人の新薬承認取得者が責任を負いますパテントリンケージシステムの実施弁法 §4)。内容に変更があった場合には30日以内に特許情報プラットフォームに登録しなければなりませんパテントリンケージシステムの実施弁法 §4)。

このように登録された情報は、公衆に公開されます。 

登録・公開された情報について第三者は下記の点で異議を申し立てることができ、新薬承認取得者は必要に応じて特許情報プラットフォームの情報を修正し、その修正理由についても公表する必要があります。

特許情報プラットフォーム掲載された情報と特許簿、特許公報、販売承認書の情報の不一致

新薬特許に含まれる用途特許と新薬承認対象の能書の適用症が不一致

新薬特許クレームが上市承認対象の新薬の対応技術をカバーしていない

パテントリンケージシステムの実施弁法 §4

対象となる新薬特許の類型(パテントリンケージシステムの実施弁法 §5,12)

中国のパテントリンケージ制度の対象となる新薬の特許の類型は下記の通りです。

  • 低分子医薬:物質特許、製剤特許、医薬用途特許
  • バイオ医薬:配列特許、医薬用途特許
  • 漢方薬:組成物・製剤特許、抽出物特許、用途特許

したがって本パテントリンケージ制度の下で審理の対象になるのは、新薬について上記の類型の特許であり、特許情報プラットフォームに登録されている特許に基づいてなされる提訴・請求のみです(パテントリンケージシステムの実施弁法 §2、最高裁規定 §2、特許局弁法 §4(4))。

上記以外の特許の類型(例えば化合物の製造方法)はパテントリンケージ制度の対象特許とはなりません。ですから対象外の類型の特許に基づいてパテントリンケージ制度の下で提訴しても、裁判所はこれを却下します(特許法 §76)。認められていない類型の特許に基づくジェネリック薬に対する差し止め訴訟は、通常の侵害訴訟等の枠組みでの解決となります。

低分子医薬とそれ以外では対象として認められている類型の特許が異なるだけでなく、パテントリンケージ制度の下での取り扱いも異なるので(次号で説明)要注意です。

②ジェネリック申請の際の声明

特許で保護された新薬が承認され市場に出て時が経って、次はジェネリック薬の出番です。ジェネリック薬を販売するための承認を求めて薬事当局(NMPA)に申請(ジェネリック申請)する際、ジェネリック企業は当該ジェネリック薬に対応する特許情報プラットフォームに登録されている先発の新薬特許に関して声明を登録しなければなりません。それらの声明は、特許情報プラットフォームに登録されている新薬の特許が自己の申請するジェネリック薬とどのような関係にあるのかについての声明です。ジェネリック企業が提出することが求められている声明は下記の4種類です。(米国のPatent Linkage制度におけるParagraph IVの声明は、下記の声明IVに該当します。)

  • 声明I:特許情報プラットフォームに関連する特許は存在しない。
  • 声明II:特許情報プラットフォームに関連する特許は存在するが、すでに特許満了している、もしくは特許無効宣言されている。
  • 声明III:特許情報プラットフォームに関連する特許は存在するが、ジェネリック企業はジェネリック薬が承認されたとしても当該特許が満了するまではジェネリック薬を上市しない。
  • 声明IV:特許情報プラットフォームに関連する特許は存在するが、当該関連特許は特許無効が宣言されるべき、もしくはジェネリック薬は当該特許クレームの範囲には入らない。

ジェネリック企業が声明I~IIIを出した場合、申請に係るジェネリック薬に対応した新薬(先発品)をカバーする特許(新薬特許)が存在しないか、満了しているか、満了していなくても満了を待ってからジェネリック品を発売するということです。新薬の特許権者との間では特に特許の侵害問題は発生しません。

ところが、ジェネリック企業が声明IVを出した場合、ジェネリック薬をカバーする新薬特許が存在することは認めつつも新薬特許に挑戦(チャレンジ)するということです。これには新薬特許は無効だと主張する場合と、新薬特許がたとえ無効でなかったとしても(有効であったとしても)ジェネリック薬は新薬特許のクレームの範囲外にあると主張する場合が含まれます。もし声明IVが出されるような状況でNMPAがそのままジェネリック薬を承認して上市された場合には、上市後に特許侵害紛争が勃発するのは必至となります。かかる特許侵害紛争の勃発を事前に防ぐためにパテントリンケージ制度において、ジェネリック薬の申請段階で下記のメカニズムに従ってジェネリック薬の特許侵害問題の有無を判断し、もし発売したら特許侵害になるような場合には当該ジェネリック薬には上市の承認を付与しないというものです。

この声明はジェネリック申請が受理されてから10日以内に特許情報プラットフォームで公開されます(パテントリンケージシステムの実施弁法 §6)。 

なお本制度の原案の段階では、ジェネリック企業が声明IVをNMPAに提出した際に対応する新薬承認取得者に対してこの声明IVの写しの送付を求めていませんでした。したがって新薬承認取得者はジェネリック申請を常にウォッチしておかなければならず、彼らの負担となることから問題視されていました。ところが今回の施行版では、ジェネリック企業は声明およびその根拠となる資料を新薬承認取得者に通知すること(その上で、新薬承認取得者が特許権者でない場合は新薬承認取得者は声明等を特許権者に通知すること)と規定されています。またジェネリック企業の声明が声明IVに該当する「ジェネリック薬は新薬特許クレームの範囲には入らない」である場合には、ジェネリック企業は声明の根拠となる資料としてジェネリック薬の技術と新薬特許のクレームの関係についての対比表、およびその関連資料の提出が必要となります(パテントリンケージシステムの実施弁法 §6)。

③裁判所・特許局への訴え

特許権者側によるジェネリック薬に対する45日以内の訴え提起

特許権者側はジェネリック企業が提出した声明IVの内容に異議がある場合、NMPAの審査部門(CDE)がジェネリック薬の申請がされたことを公示した日から45日以内に裁判所または特許庁に訴え出て、ジェネリック申請に含まれる技術内容(ジェネリック薬の物質、用途、製剤等の技術内容)が特許情報プラットフォームに掲載されている新薬特許クレームの範囲に入るか否かの判断を求めることができます(パテントリンケージシステムの実施弁法 §7)。

ここで訴え出ることができる特許権者側は特許権者に加えて利害関係人―当該特許権者から販売権等のライセンスを受けたライセンシーで、当該特許がカバーする新薬の上市の承認を取得している企業(新薬承認取得者) ― も同様に訴え出ることができます(最高裁規定 §2、特許庁弁法 §4(1))。

そして特許権者側は裁判所・特許庁が訴えを受理した日から15日以内にCDEとジェネリック薬の上市申請人に通知する必要があります(パテントリンケージシステムの実施弁法 §7)。

上記の期限内に裁判所・特許庁へ訴えが出されなかった場合CDEはジェネリック企業が提出した声明の内容に依拠して、ジェネリック薬の上市を承認するか否かを決定します(パテントリンケージシステムの実施弁法 §7)。

訴え出る先は裁判所か特許庁

訴え出る先が裁判所だけではなく、特許庁に対しても訴え出ることができることに違和感があるかもしれません。日本と違って中国の特許庁は特許侵害事件で侵害の行政裁定をする権限を有しています(特許法 §65、参照:特許行政 / 北京政府 VS 地方政府 知的財産権の侵害と行政救済)。一般の特許侵害訴訟で特許庁に訴え出る場合には当該特許局には地方政府の特許局も含まれますが、パテントリンケージ制度の下で訴え出ることができるのは国家知的財産局(北京の特許庁)です。特許庁は、担当部局として医薬品特許紛争早期解決システム行政裁決委員会を編成します(特許庁弁法 §2)。

裁判所に訴え出る場合は、北京の知的財産裁判所です(最高裁規定§1)。 

裁判所への訴え

裁判所は特許権者側が先に特許庁に訴え出ていたとしても、並行して裁判所に訴え出ることを許容しています(最高裁規則 §5)。さらに裁判所は新薬特許の無効審判の請求が特許庁で受理されていることを理由に訴訟の中断の申し立てがなされたとしても、原則これを認めないとしています(最高裁規則 §6)。 

また、裁判所において、被告のジェネリック企業が特許の無効を抗弁として主張はできませんが、被告が、①ジェネリック薬の技術は新薬特許の特許出願時に存在していた公知技術に含まれてる(公知技術の抗弁/特許法§67)又は、②ジネリック薬は新薬特許の出願時に既に事業化の準備等を進めていた(先使用権の抗弁/特許法§75②)との主張が認められ、裁判所は、かかる認定をした場合には、「ジェネリック薬は新薬特許のクレームに入らない」と判決を下すことが出来ます(最高裁規則 §7)。

特許権者等が保全の目的で、新薬特許の期間中、ジェネリック薬の製造・使用・販売・輸入の禁止を求めた場合、裁判所はかかる請求を審理の対象とするとしています。 然しながら、ジェネリック薬に関するNMPAへの申請行為・審査承認行為の禁止を求めたとしても、裁判所はこれを認めないとしています(最高裁規則 §10)。

尚、特許権者側が上記の45日以内に裁判所に訴え出なかった場合、ジェネリック申請者は、裁判所に対して「ジェネリック薬は、特許のクレームの範囲に入らない」ことの確認を求める訴訟を提起できます(最高裁規則§4)。

特許庁への訴え

特許庁に訴えることができるのは、特許権者、利害関係人(上記参照)、およびジェネリック薬の上市申請人です(特許庁弁法 §4(1))。

当事者がすでに裁判所に訴え出ている場合には特許庁への訴えは受理されません(特許庁弁法 §4(5),(6)、§10(9))。したがって裁判所と特許庁の両方に判断を仰ぐ場合には先に特許庁に裁定を求めていく必要があります。その後裁判所に訴え出ることは許容されています(裁判所規則 §5)。

また当事者が調停を望めば調停により解決を図ります。調停書が成立しない場合には特許庁は裁決に入ります(特許庁弁法 §15)。

裁決書にはジェネリック薬が新薬特許の保護範囲に入るか否かの認定、その理由・根拠が記載されます。そして裁決書はNMPAに回覧されると同時に公表されます(特許庁弁法 §18)。

当事者がかかる裁決に不服の場合には裁判所に訴えることが可能です(パテントリンケージシステムの実施弁法 §7、特許庁弁法 §19)。

その他

訴え出る際の必要な書類等についてですが、裁判所に訴える場合には最高裁規定§3に列挙、特許庁に訴える場合の書類は特許庁弁法§7,8に明示されています。もし書類不備等で不受理になった場合(特許庁弁法 §10)訴え出る45日の期限を過ぎてしまうと申し立ての機会を失うことになるので留意が必要です。特許庁で口頭審理がされる場合には5日前に場所・時間が通知されますが(特許庁弁法 §13)、短期間の事前通知なので対応の体制づくりが必要です。

特許権者側が特許庁と裁判所のどちらに訴え出るかは自由ですが、どちらが有利かそのプロス・コンスは別途に論じる予定です。

特許権者側が訴え出たとしてもCDAはジェネリック申請の審査を継続します。審査の結果技術的要件等を備えており承認できる状態になったとしても、訴え出た日からある一定期間ジェネリック承認が付与されません。この期間を待機期間と呼びます。次回はこの待機期間を中心に説明します。

④ 待機期間(化学医薬品)

⑤ 裁判所・特許庁の判断結果と薬事審査プロセスの関係(化学医薬品)

⑥ 声明IV以外のジェネリック申請(声明I, II、III)の取り扱い(化学医薬品)

⑦ チャレンジした最初のジェネリック薬⇒市場独占期間の付与(化学医薬品)

⑧ 化学医薬品以外(バイオ医薬、漢方)の取り扱い

⑨ ジェネリック薬の上市後の特許侵害訴訟

⑩ 法的責任:虚偽情報等の提出

抗癌剤の開発が中国でも注目を浴びており、短いregulatory process期間内に外資の新薬のみならず内資の新薬も承認が下り、早期に市場投入されています。その背景には、政策の大転換があります。(「中国国産のPD-1免疫チェックポイント阻害剤(抗癌剤)と医療保険」、「「双通道」と医療保険(医薬品の保険適用の促進)」も参照)

中国では2015年から始まった薬事制度改革の下、承認審査関係においては、当時ジェネリック申請も含めて数千件あった上市承認の申請の滞貨に対し、滞貨圧縮の大ナタが振られました。同時に、中国にとって臨床上の必要性に緊急を要する新薬について他の申請と区別し、早期に審査承認を付与する旨の方向性が打ち出されました。2017年以降、各種の制度が公表され、それを踏まえて2020年3月に「医薬品登録管理弁法」に集大成されました。現在、下記の5つの早期上市承認プロセスが運用されています。

①「優先審査制度」(医薬品登録管理弁法§68-71)

臨床上の価値が高い薬剤(抗癌剤も含まれる)に対して、上市承認の申請の際の申し立てによって70日~130日の審査期間で承認が下りる。

②「条件付き承認制度」(同§63-67)

重篤な疾病等の治療薬で、Ph IIIの最終結果を待たずに早期臨床開発段階のデータをベースにして上市の承認申請が可能であり、上市後に実施する試験・期間等の条件を付けて承認を付与する。

③「革新治療薬プロセス」(同§59-62)

革新的な治療薬については、IND申請段階から当局との緊密な連携(プロトコール内容も含めて)が可能。

④「特別承認制度」(同§72-75)

公衆衛生上で重要な薬剤についての制度。

⑤「海外データ直接申請制度」(NMPA公告2018年79号

重篤な疾病等の治療剤であって、米欧日で過去10年内に発売済みの特定の新薬について、人種差がないことを前提に、海外データをベースに直接、上市承認の申請を認めるとして、対象新薬がリスト化・公表されました。

次に、上記のうち3つのタイプの「早期上市承認プロセス」を利用して承認に至った、抗癌剤の新薬について、具体的に開発・審査期間がどの程度短縮されたかを見て行きます。

早期上市承認プロセスのタイプ 下記表中の略号
「優先審査制度」PR
「条件付き承認」CA
「海外データ承認制度」UNOD

表a:各タイプの利用の内訳

2016年~2020年の間に52種の抗癌剤の承認が下りましたが、38種が外国で開発(imported)された薬剤、14種が中国の開発(domestic)による製品です。その内44件が上述の「早期上市承認プロセス」の下での承認です。そしてimported・domestic別に、それぞれどのタイプの「早期上市承認プロセス」が利用されたかが示されています。

表b:条件付き承認の短縮効果

各タイプの「早期上市承認プロセス」の期間短縮効果によって、開発+承認審査の「全体の期間」の長さがどれくらいになったのかを示しています。「条件付き承認(+優先審査)」の対象になった10件の新薬の平均の「全体の期間」は4.3年です。これに対して「優先審査」対象のみの、国内開発による薬剤の「全体の期間」は4件の平均で11.3年でした。このように、「条件付き承認(+優先審査)」の場合は半分以上の期間短縮となっています。

表c:承認申請の審査期間

海外開発(輸入承認)の薬剤について、「条件付き承認」、「優先審査」、「早期上市承認プロセス」の適用を受けない一般の審査の期間比較を示しています。審査の期間とは、上市のための承認申請の日から最初の癌の適応症の承認が付与された日を意味します。

表d:ドラッグ・ラグ

「米国での上市の承認」から「中国での上市の承認」までの遅れの期間を3つの期間に区切って(2006-2010年、2011-2015年、2016-2020年)示しています。ドラッグ・ラグの期間は、時を追って短縮されているのが分かります。直近の5年間は、8つの新薬のドラッグ・ラグの中間値が2.7年となっています。

「早期上市承認プロセス」の適用を受けない一般の処理による審査期間が19.4ヵ月であるのに対し、「優先審査」では12.2ヵ月、「海外データ直接申請」では6.4ヵ月と審査期間が短縮されています。 欧米の企業は従来、欧米で上市の承認を取得してから中国での開発を開始してきたのが、過去十年で様変わりしており、欧・米・中の同時開発の時代に入って来ています。

最後に、「革新治療薬プロセス」ですが、2020年7月に開始以降27件の抗癌剤が対象として認められています。その中で、国内企業の開発は18件です。中国企業の研究開発による新薬が年を追って件数が増えており、やがてグローバル品が排出されるであろうと大きな期待が寄せられています。

6月1日から改正特許法が施行されました。中国の医薬品業界に大きな影響を与える二つの制度が盛り込まれています。「特許期間の延長」、および「パテントリンケージ」です。今回は特許期間の延長について解説します。 

  1. 延長制度改正の経緯・現状
  2. 特許延長の細則案
  3. 2021年6月1日より以前に上市承認済みの新薬の取り扱い

なお、もう一つの柱である「データ保護制度」については、2018年に中国の薬事当局(NMPA)が「薬品試験データ保護の実施弁法(暫定)」「データ保護弁法(案)」を公表して以来、具体的な検討状況等が公表されていません。(詳細は「新薬データ保護期間の新法案と動向のまとめ」を参照ください)

1.延長制度改正の経緯・現状

2017年に国務院が「医薬品等の承認審査制度の改革及び医薬品等のイノベーション推進に関する政策文書」(42号文書)において特許期間の延長制度の導入を発表してから制度設計の議論が本格化しました。

中国の医薬品市場の9割以上はジェネリック品が占めているため、ジェネリックの市場参入を遅らせることに繋がる特許期間延長の政策は中国国内の旧勢力から大きな抵抗にあいました。一方で、中国では国を挙げてイノベーション推進、ジェネリックから新薬への転換の大きな流れができあがっている中で、中国のベンチャーも含めた内資の新薬の研究開発に巨額の資本が積極投入されており、新薬に対する特許期間延長の制度を推進する国内勢力も台頭してきています。

そういった中で、米国のトランプ政権時代である2020年1月「米中貿易協議書」が成立し、中国は特許延長制度を導入し、新薬の物質、用途、製造方法の発明に関する特許を延長の対象にする旨、アメリカに対してコミットしました(経緯については「特許法の第四次改正」でくわしく解説しています)。

その後、2020年10月に特許法の改正が成立(2021年6月1日に施行)、新薬の特許期間は5年を限度に(但し、新薬の上市後14年を越えない)延長されることが確定しました。

その延長制度の細則案については、2020年11月に公表された「特許法実施細則改正案专利法实施细则修改建议》」の§85の4~8で公表されています。そして改正特許法が施行される6月1日までに上記の特許法実施細則が最終化され施行されることが期待されていましたが、結局調整つかずで、下記の暫定措置が発表されました。今の時点では、特許法実施細則は1か月~半年以内に最終化される予定です。

このように、特許法実施細則の最終化までの暫定措置について、特許局は5月24日に「改正特許法の施行に当たっての関連審査業務の暫定処理の弁法关于施行修改后专利法的相关审查业务处理暂行办法》」を公表しました(6月1日施行。以下「暫定弁法」)を公表しました。その§6で、新薬の上市承認を取得した者は「3か月以内に特許局に特許期間の延長を申請すること」、「当該申請に対する審査は上記の特許法実施細則が施行されてから開始する」としています。

2.特許延長の細則案

上記の通り、特許期間の延長の細則についてはまだ最終稿が確定してない段階ですが、現状では前記の特許法実施細則の改正作業の中で、下記を中心に検討がされています。なお、下記の説明のうち、特許法の規定を引用している場合は確定している内容です。

1)延長対象の特許 

・化学医薬品、バイオ医薬品、漢方薬であって、NMPAが新薬の上市承認を付与した新規活性成分に関連する「物質特許」、「製造法特許」、「用途特許」が延長の対象になります(特許法実施細則(案)§85-4)。  

・特許実施細則が最終化の過程で、結晶型特許等の取り扱いが明確化されると想定しています。

2)延長期間の計算式

・延長期間=「新薬の上市承認日」ー「特許の申請日」ー「5年」(特許法実施細則(案)§85-5)

・ただし、延長期間は「5年」を越えず、かつ延長後の期間は新薬の上市承認日から「14年」を越えない(特許法§42)。 

当初は、米国型の計算式が採用されると言われていましたが、それは特許法に盛り込まれた5年と14年のそれぞれの足切り制限のみで、計算式は欧州型のシンプルな計算式を採用しています。なお、特許法実施細則の最終化の過程で、上記の計算式に新たな条件の付加等の微調整がされる予定です。

3)延長される特許権の効力の範囲

・NMPAが上市を認めた新薬であって、承認の対象となった適応症の範囲に限定される(特許法実施細則(案)§85-6)。

4)延長される特許の数

・NMPAが上市を認めた新薬の対応特許が複数あったとしても、延長が認められるのは、「一件」の特許のみ。かつ、延長は「一回」のみ(特許法実施細則(案)§85-7)。

これは日本のように新薬承認に対して複数の特許を延長したり、追加の適応症の承認毎に何回でも延長したりできるわけではなく、欧米型で、一特許・一回のみです。なお、最初の適応症の新薬の上市承認に際して、ある特許、例えば物質特許が延長され、その延長された有効特許期間内に追加適応症の上市承認が得られた場合の取扱い等は、今後明らかにされる予定です。

・延長申請は、NMPAが新薬の上市承認をした日から3か月以内に特許局に対して行う必要があります(特許法実施細則(案)§85-7)。

5)延長申請の審査手続き、不服手続き

特許権者から延長請求があった場合は、特許局が審査して、拒絶の理由があれば却下決定。拒絶の理由がなければ、延長決定・登録・公告します。この決定に不服の場合、3か月以内に裁判所に訴えることができます(特許法実施細則(案)§85-8)。

3.2021年6月1日より以前に上市承認済みの新薬の取り扱い

改正特許法の施行日2021年6月1日以前に上市承認が付与されている新薬であって、それをカバーする特許が満了していない場合に、当該特許は期間延長の対象になるのか否かが議論を呼んでいました。その背景は下記の通りです。

1)外資の圧力

(1)2021年6月1日時点、中国で新薬をカバーする特許権者は下記の通り(アメリカのオレンジブック掲載の米国特許の中国対応特許をベース)とされています。新薬に関連する特許を5件以上所有している可能性がある企業14社の内、米国(美国)系が9社です。トランプが米中貿易協議のなかで、知財のアメリカ利権をあれだけ強調した背景が浮かび上がってきます。

(2)延長の対象となりえる適応症(外資)

癌の適応症が73件とトップです。次いで、神経系28件、CV系25件、皮膚25件、エイズ16件となっています。

(3)特許延長申請の対象となり得る新薬(外資)

特許延長の対象となりうる新薬を一番多く有しているのはメルク社で、エイズ薬・肝炎薬等(最大13品目)、次いでノバルティスが制癌剤を中心に最大11品目を有しているとされます。なお、帝人の開発したFabuxostatは中国ではアステラスが販売していますが、下記の表は、前記のようにオレンジブック・ベースでの中国へ情報移送しているため、武田と表示されています。

上記の外資の新薬は、6月1日の時点で有効な特許が存在し、その多くは中国で既に新薬の上市承認は取得済みです。

2)内資新薬の圧力(2020年以降の中国企業によるIND・新薬承認件数に注目)

中国内資企業のIND申請数は、2018年以降急激に伸び、2020年には386件に上っています。

上記のIND申請数の推移から、今後中国の内資企業による新薬の上市承認の件数はさらに増加することが想定されます。直近の具体的な新薬の上市承認の取得数ですが、中国企業は2020年に11件の上市承認、2021年第一四半期(3月まで)に19件の上市承認を取得しています。このように中国国内企業の新薬の上市承認の数も無視できない数になっており、これら新薬のほとんどは、改正特許法の施行日(2021年6月)には対象の特許が有効に存続しています。

3) 2021年6月1日より以前に上市承認済みの新薬は対象外

改正特許法の施行日前に既に新薬の上市承認を取得していた外資企業、及び内資企業から、当該上市済の新薬の特許も特許期間の延長対象として欲しい(即ち、6月1日に施行される特許延長の改正法を施行日より以前の上市承認の新薬に遡及)と、政府に対して大きな圧力をかけていました。内資企業が上市承認を取得し始めたのはここ数年の出来事であって、新薬をカバーする現存特許の多くはまだ10年前後の存続期間があるのに対し、外資の新薬に関する特許は、特許満了切れが真近なものも含まれていることから、過去の承認済の新薬に遡及するか否かは、内資、外資の両方に影響があるものの、後者にとってより危急の課題となっていました。

しかしながら、前記の「暫定弁法」を特許局が発表した際の、質疑応答の席において特許局担当官は、延長申請の対象は施行日(6月1日)以降に新薬承認が下りたものに限定すると答えたことから、一応、終止符が打たれたことになっています。 

今後、1か月~半年以内に特許法実施細則が最終化されることが想定されています。それを踏まえて、延長条件の詳細を説明の予定です。

中国が導入を予定しているパテントリンケージ制度をシリーズで説明します。<前回の記事はこちら
いまだ、制度の規則・弁法の最終化がされていない状況に鑑み、第二回目は、中国における制度導入前の新薬特許の無効問題について。

パテントリンケージ 制度 – 特許無効 / 新薬企業 vs ジェネリック企業、それぞれのアメ

パテントリンケージシステムは、研究開発により新薬を見出し最初の承認を取得し上市した「新薬企業」の立場に立てば下記の様なメリットがあります。

i) 新薬企業は、ジェネリック薬に対して薬事当局(NMPA)での上市の申請段階で当該ジェネリック薬が特許の権利範囲内に入ると判断する場合には、それを専門機関(裁判所又は特許庁)に申立てて、審理(ジェネリック申請段階の特許侵害審理)を求めることが可能となります。

ii) もしその申立てが認められれば、新薬特許が満了するまでジェネリック薬は上市の承認が与えられず、したがって市場に出現しません。

中国は新薬の研究開発を推進するための様々な施策を打っており、国内に新薬の研究開発型の企業が勃興しています。しかしながら、いまだにジェネリック薬が医薬品市場でガリバーの地位を占めています。ただし、ジェネリック薬市場の競争はますます激しくなり、淘汰の時代に入っており、ジェネリック企業の産業環境は厳しいものになって来ています。

そういった中で、 パテントリンケージ制度の導入にあたって、ジェネリック企業に対してアメを与えています。新薬の特許が満了する前に、当該新薬特許は無効であると主張してジェネリック薬の上市の承認を求める申請(ジェネリック申請)を行い、実際に上記の「ジェネリック申請段階の特許侵害審理」で特許無効の主張が認められ、かつNMPAでの審査でジェネリック申請が認められて「最初」の上市の許可が付与された場合、当該「最初」のジェネリック薬に対して、1年間の独占販売権が与えられます(2020年9月、NMPA及び特許庁の連名による「医薬品の特許紛争の早期解決システムの実施規則(パテントリンケージ システムの実施規則)(試行)」(案)§11)。したがって、この1年の独占期間中は新薬と最初に承認されたジェネリック薬の二剤のみしか市場に出ないことになり、最初のジェネリック薬に営業上大きなメリットをもたらします。この機会を求めて、中国のジェネリック企業は特許部門を強化して、熾烈なる競争に勝とうと動いています。

アメリカのPatent Linkage制度では、特許無効を主張してこれが認められた最初のジェネリック薬に対しては、半年の独占権が与えられます。これに対して、中国では1年の独占権が与えられることが予定されており、特にジェネリック薬も含めて政府による一括集中買付制度が進んでいる中で、最初の一社となって相当期間の独占権が与えられるのは、その一社にとっては大きなメリットとなりえます。

新薬特許の無効の申立 / 特許庁

前記の通りPatent Linkage制度の下では、新薬特許の有効期間中に当該新薬特許が無効である等の主張をして上市のための許可申請をし、それが認められた場合にはジェネリック薬が承認されるわけです。そこで、従来(Patent Linkage制度が導入される以前)の中国では、特許庁での審査によって付与された新薬特許に対してジェネリック企業が新薬特許の無効を特許庁・裁判所に申立てた場合に、どの程度無効と認定されたかを見てみたいと思います。

多国籍企業(MNC)等を含む新薬企業が中国で新薬の臨床試験を終え、NMPAで新薬承認を取得して上市するまでには、その研究開始から10数年を経過しているのが一般的です。当該新薬をカバーしている特許(新薬特許)は、研究開始の数年後に特許出願を終えているので、当該新薬の中国での上市時にはすでに特許として成立しています。そのような新薬特許に対して、ジェネリック企業は特許満了日を睨みながらジェネリック薬の開発を始めて、先発の新薬とのBE同等性の臨床試験を終えてからジェネリック申請をします。 ただし、新薬特許を無効にすることができるような事由がある場合には、ジェネリック企業は自己のジェネリック申請に先立って新薬特許の無効を特許庁に申立てます(特許法§45)。特許が無効となれば、ジェネリック薬は特許侵害問題を起こさずに市場に出ることができるからです。なお、特許の無効の申立てはジェネリック企業に限らず、何人も申立てることができます(特許法§45)。

新薬特許の無効リスク

パテントリンケージ制度の導入前の数字を見てみましょう。2017年~2019年の間に中国のジェネリック企業が新薬特許の無効を特許庁に申立てた件数は、60件です。この60件は、36品目の新薬に対するもので、対応する特許権は53件です(一つの新薬をカバーしており係争になり得る特許は、物質、結晶型、用途等を含めて複数ありうる)。無効審判の対象になった特許に対応する新薬を疾患別に分類すると、そのトップ3は、下記の通りです。

・糖尿病薬:7品目の新薬

・抗ウイルス薬:5品目の新薬

・抗がん剤:5品目の新薬

そして、特許庁での無効審判の結果は、特許が全部無効と判断されたのが55%(33件)、部分無効が33%(20件)、特許の有効性を認める特許維持決定は7件です。年度別の統計は下記の通りです。

2017年~2019年の3年間の実績は下記の通りです。

かなりの高い確率で、新薬の特許が特許庁の段階で無効と判断されていると言えます。ただし、新薬企業は特許無効の判断が不服の場合は、裁判所(北京知財法院)に訴えることが可能です。そこで覆るケースも当然あります。無効とされた特許類型の内訳(物質、用途、結晶型、製剤等)については、上記の数字からは不明ですが、重要な物質特許については無効とされた特許の10%程度であり、多くは用途等の特許であるとされています。

特許無効の決定によるジェネリック参入の具体例

(1)ファイザー / 新薬 tofacitinib(JAK阻害剤/抗リウマチ薬)

中国のジェネリック企業2社、正大天晴と齐鲁は、2018年-2019年に新薬をカバーする2件の特許(物質特許及び結晶型特許)に対して無効の申立てをしました。特許庁は2018年8月に物質特許の無効、2019年11月には結晶型特許の無効を決定しました。その後、2019年後半にNMPAは、ジェネリック2社に対して上市の承認を付与しました。

(2)アステラス / 新薬 enzalutamide(癌免疫)

ジェネリック企業の2社、海納と复星は、新薬特許の無効を申立てました。海納は2018年3月に「特許明細書の開示が不十分・不明確」を理由に申立て。これに対し特許権者はクレームを修正することによって対抗し、特許庁はこれを認めて、2018年9月に「特許維持」が決定されました(無効の申立ては認められず)。

复星は2017年12月に「進歩性なし」を理由に申立て、特許庁はこれを認めて、2018年10月に全部無効の決定をしました。この新薬は中国へのNMPAへの申請が遅れたことから、先発品の新薬の上市の承認は、特許の無効の決定後の2019年になってからでした。

(3)アストラゼネカ / ticagrelor(血小板凝縮阻害剤)

アストラゼネカの新薬特許の3件は物質特許が2019年12月に満了、結晶型特許及び中間体特許が2021年5月に満了でした。2017-2018年、信立泰が特許庁に特許無効の申立てをします。特許庁はそれを認めて、3件とも全て無効との決定を下しました。アストラゼネカはこの無効の決定を不服として、一番目の特許については2018年1月に北京知財法院に提訴するも認められず。さらにこれを不服として2018年8月に第二審の北京高裁に訴え出て、アストラゼネカの主張(特許は有効)が認められ、特許庁に差し戻し判決を下しました。並行してアストラゼネカは、2番目の特許についての特許庁の無効の決定に対して、今最高裁で争っています。

(4) ノバルティス / imatinib /グリベック

ノバルティスは、画期的な白血病薬を2001年に米国において、翌2002年に中国において上市。中国ではこのグリベックのジェネリックをインドから輸入した患者家族が薬事法違反で摘発された事件が映画化(我不是药神(邦題:薬の神じゃない!))され、2018年に上映されて大ヒットしました。そして、中国のジェネリック薬の質向上、新薬の研究開発の推進の政策的推進の起爆剤となりました。このグリベックの中国の新薬特許は、物質特許が2013年に満了、その後数年にわたって用途特許が存続していました。この物質特許の満了時には、豪森、正大天晴、石薬等がジェネリック承認を取得。その時点で存続していた用途特許について、正大天春はノバルティスと和解しましたが、これを拒否した豪森は2014年9月に用途特許に対して無効の申立てをします。特許庁は当該用途特許は新規性の要件は満たしているが、進歩性がないことを理由に無効と判断。ノバルティスは北京の知財法院に訴えるも却下、更に2017年に北京高等法院に訴えるも特許庁の無効判断が維持されました。2016年以降8社が開発に参入しています。

新薬特許と日本企業の対応

新薬企業は研究段階で新薬の種が見つかると特許を世界各国に出願し、特許の成立を図りますが、その中でも実際に上市にまで辿り着ける新薬をカバーする特許はほんの一部です。しかしながら、たとえ上市に至る新薬をカバーする特許が成立したとしても、ジェネリックから特許無効の攻撃を受け、特許庁・裁判所で争った結果として当該特許は有効であるとの特許維持の審決・判決を獲得していくことは、そう並大抵のことではありません。アメリカでもPatent Linkage制度の下、ジェネリックに対するANDA訴訟やそれに伴う和解では、物質特許はまだしも、それ以外の結晶型、用途特許のジェネリック排除力は万全とは言えないのが現実です。 

中国では、一旦成立した物質特許ですら特許庁の審理(審判)で無効とされるケースも出てきています。その要因として、現状では中国の人口14億人の内、高薬価の新薬が処方されうる生活水準にあるのは一部の人達のみ(それが1億人以上はいらっしゃる?)で、大部分の人達には抗癌剤等の命に係わる薬剤についても手が出ないのが実情でした。したがって、ジェネリック業界が社会の中でいまだ無視できない力を有しているといった背景が影響していると言えます。

他方、新薬市場は従来から欧米が中心でしたから、当然の帰結として、新薬企業側は欧米での権利化、および訴訟防衛を最優先に考えて明細書等を構成し、権利化を図っていき、訴訟を追行していく社内体制にあると思います。特許関連の業務の専門家の方々は、日欧米の特許制度を熟知された上で、新薬特許の権利化のストーリーを描き英語で文書を作成し実務を進めて行くといった環境で仕事を進められているのが現場感覚だと思います。中国特許制度を熟知し、中国語の特許明細書を作成できる人材はまだまだ非常に少ないのが現状です。将来的に中国の新薬市場が世界の中で重要な一角を占めて行く中で、従来のように特許関連業務を欧米流、英語で進めて行くという仕事のやり方を見つめなおす必要があるのではないでしょうか。今後は、徐々に人材・言語も含めて専門的に中国対応ができる体制を作って行く必要があるように思われます。

このシリーズの次号は、中国のパテントリンケージ制度の具体的な規則・弁法等の最終案が公表され次第、解説する予定です。

日本においても昔のいつか我々が通って来た道。病院経営が薬剤費収入に依存、そして過剰処方と薬剤費の上昇。 中国では2000年には、総医療費に対して薬剤費が占める比率(薬剤費比率)が60%を占めていました。その後、薬剤費比率の抑制策が取られ、さらには総医療費が高騰する中で、総額の抑制策が始まります。その一環として、医薬分業により、病院外の薬局での医薬品の購入が一歩一歩広がってきており、今では病院の薬剤費比率は20%代後半にまで下りて来ています。

そういった中で、前回の記事の通り、PD-1等の高価な新薬を含む抗癌剤に対して保険適用がされるようになりました。しかしながら、2018年-2019年に医療保険リストに収載(保険収載)された新薬等が実際に病院で処方されている比率は25%に留まっているという現状があります。保険収載されても処方されない、なぜそうなるのか複数の理由が挙げられていますが、その一つが薬剤費比率の抑制策です。各病院では、ある新薬を採用し処方を開始する場合、まず、それまで処方されていた薬剤の納入を終了する等の措置がされているのが実態ですので、特に高価な新薬の場合は、新規の採用が非常に難しくなります。当該新薬の病院での処方がなかなか進まず、患者からもクレームが出ていました。

そこで、保険収載されている薬剤の中で、臨床上緊急性の高いとされるPD-1抗がん剤を含む一部の指定薬剤について、全国各地で病院と院外薬局の複数を指定して、これら2チャンネル(指定病院、指定薬局)のいずれにおいても、患者は同じレベルの保険適用を受けて、指定薬剤をどこでも同じ薬剤価格で購入できるとして、患者への供給を保障する政策を打ち出しました(注1  医保発[2021]28号:保険収載済の医薬品の2チャンネルの管理システムに関する政策)。新しい政策の下で、各保険基金・病院・薬局の三者の連携を図り、保険適用の薬剤が適時・スムーズに患者の手に届くシステムを構築しようとしています。すなわち、これらの指定薬剤の処方については、指定病院では、総医療費、薬剤費比率の抑制施策の枠外での処理となることから、病院では新薬の採用が促進されます。また、院外薬局でも同じ保険適用・価格で高価な新薬を購入できるよう保障して、医薬分業を推進し、新薬が患者の手に近くなるようにしようとしています。今後、各省・各保険基金を巻き込んで、各地区の具体的な運用内容が明らかになって来ます。

このような背景のもと、中国発のPD-1の薬価収載された製品については、病院での採用までの時間が短縮化され、さらには、患者は院外薬局でも購入することができるようになることから、前回言及の通り、市場が大きく拡大することが見込まれています。

中国が導入を予定しているpatent linkage制度をシリーズで説明します。第一回目は、背景、全体像の流れについて。

新薬特許とジェネリック参入 / パテントリンケージ制度の必要性

中国のサイエンス技術面での躍進は目を見張るものがあります。火星探索を可能にした宇宙技術、米国から圧力を受けるまでになっているHuawei等の技術力。中国では国家戦略として新技術開発を推進しており、火星・Huaweiに関連する「宇宙開発」、「AI/IT通信」を含む8つの重点領域が柱となっています。そして、「バイオ・新薬」の領域もその内の一つです。ところが、「バイオ・新薬」に関連して、中国の医薬品ビジネスでは過去にはジェネリックが圧倒的な市場支配力を持っていました。「バイオ・新薬」の新技術は海外で発展し、欧米の多国籍の医薬品企業(MNC)が中国で新薬市場を開拓してきた歴史があります。

MNCは自社で開発した新薬について中国で臨床試験を実施し、承認申請、中国の薬事当局(NMPA)の審査を経て、販売承認が付与され、そして上市へ。その後、時が経って当該新薬の特許が満了すれば、ジェネリック薬が場合によっては数十のジェネリックが一度に市場に参入していました。ただ、新薬をカバーする特許といっても様々な特許がありえて、物質特許に留まらず、用途、製剤、製法等々、そしてそれらが時の経過とともに五月雨式に満了して行きます。従来、中国の薬事法上は、先に承認を受けて市場に出ている先発新薬の特許満了後、ジェネリック薬に対して承認を付与するとのルールが存在していました。しかしながら、先発新薬の特許と言っても前記の通り、様々な類型の特許があり五月雨式に満了して行く、更には特許庁が誤って付与した特許(無効原因を含む特許)等もあります。そのような特許の満了が近づいてくると、申請されたジェネリック薬に対して上市の承認を付与するのか否か、そして、承認するとした場合にもいつ承認するのか、この点に対して、NMPAに様々な圧力がかかっていたのは想像に難くありません。MNCにとってはジェネリックが一旦出現すると新薬の利益に大きな影響を受けますし、ジェネリック企業は、新薬に対していち早く上市することができれば、大きな利益を手にすることができます。特にそれがブロックバスター新薬であれば、ジェネリック薬への承認の付与に対して、大きな注目が集まります、様々な類型の「特許」の満了日との関係においてもそうです。

中国でのパテントリンケージ制度の導入

そういった背景の下、先発の新薬をカバーする特許(一般に当該新薬を開発した企業が所有する特許:新薬特許)の満了後、NMPAはジェネリック薬に承認を与えるという原則の下、NMPAの審査・判断により透明性を持たせ、さらには「新薬特許」の特許権者、ジェネリック薬の申請者等の間で「新薬特許」の有効性、侵害・非侵害について争いのある場合に、どのようなルールの下で係争を処理するかについての制度設計が進んでいます。ジェネリックが承認され市場に出てくるまでに特許の侵害・非侵害の問題を早期に解決しようという趣旨です。侵害する(ジェネリック薬が新薬特許の権利範囲に含まれる)と判断された場合には承認がおりず、したがってジェネリック品は上市しないことになります。日本にはこのような明確な制度はないと言えますが、米国ではPatent Linkage制度の下でANDA訴訟により処理されています。

パテントリンケージ制度導入の経緯

「特許情報プラットフォーム」を利用した試行

中国で新薬の開発が終わり、NMPAに承認申請をする際、新薬の開発を行った企業(新薬企業)が当該新薬をカバーする特許(新薬特許)を特許情報プラットフォームに入力し、その特許情報が公衆に公開されます。そして、ジェネリック企業は「新薬特許」の満了日を睨みながらジェネリック薬の開発を進めることになります。しかしながら、ジェネリック企業は「新薬特許」の満了に先立って、「新薬特許」は無効であるとか、ジェネリック薬は新薬特許を侵害しないと主張(声明)し、NMPAに対してジェネリック薬を承認申請することが可能です。この「声明」も同時に「特許情報プラットフォーム」に掲載されます。

中国の国内情勢

patent linkage制度は、MNC等の欧米企業の圧力が契機となって、中国で制度設計が進められ、そして「米中貿易協議」において導入がコミットされました。他方中国では、「バイオ・新薬」領域の科学技術を重点領域として推進する政策の下、新薬の研究開発が大きな進歩を遂げてきています。従来は海外のMNC等が新薬を開発し、NMPAに新薬申請して上市するというのが全てであったのが、最近はそこに中国内資が自主技術で研究開発した新薬がNMPAに新薬申請され、上市という事例が増えてきました。このような情勢の下、新薬の知的財産保護については外資のMNCの利益だけでなく、研究開発を実施している中国内資の利益を守るという強い必要性も生まれてきています。このように米国からの外圧、更には中国国内の新薬の研究開発の趨勢等を背景に、今、制度が立ち上がろうとしています。

なお、patent linkage制度の具体的詳細は、上記の「医薬品の特許紛争の早期解決(Patent Linkage)システムの実施規則」(最終版)等の関連規則が最終化され次第、速報いたします。

中国では現在、4種の国産の「コロナ・ワクチン」が承認され、既に3億5千万回以上の接種が行われているとの事(2021年5月12日)。筆者も、中国で近々接種予定です。接種しましたら、中国ワクチン事情としてレポートする予定です。

一方、抗癌剤は当面、予定がありませんので、今回レポートします。今、ホットなPD-1癌免チェックポイント阻害剤(抗癌剤)、中国は自主R&Dによる新薬が、下記の通り4製品既に承認・上市済です。

 中国企業上市時期
先を切ったのは、 君実生物(Junshi Bio/上海) 2018年末
その10日後信達生物(Innovent/蘇州)同上
翌年に恒瑞医薬(HengRui/江蘇省・連雲港)2019年5月
そして、百済神州(BeiGene/北京)2019年末

ポイントになる保険適用ですが、今年(2021)年3月から適用の医療保険リストには、これら4製品の全てが収載されています。従来は、新薬の承認が下りれば、まず病院に納入され、患者は自己負担で使用します。そして実績を作ってから、その数年後にやっと医療保険リストに収載され、保険償還されていました。日本では新薬の承認と薬価収載はセットでされますが、中国では、近年やっと承認後、短期間で新薬に保険が適用される時代が到来しました。これによって、薬価は大幅に引き下げられましたが、新薬の市場は大きく拡大すると言われています。 

さて、中国発の国産PR-1の売上高、直近四半期(2021年1Q)の数字は、下記の通りです

中国企業4社2021年1Q売上高前年同期比
君実生物(Junshi Bio/上海) 60億円40倍
信達生物(Innovent/蘇州) 120憶円1.8倍
恒瑞医薬(HengRui/江蘇省・連雲港) 400億円2.3倍
百済神州(BeiGene/北京) 50億2.3倍

各製品とも、昨年が発売直後だったことを鑑みても、どれも驚異的な伸びを示しています。

トップのHengRui(恒瑞)は、今年2021年通年の売上高を1500億円~1700憶円とはじいており、中国のPD-1市場(BMS、MSD等の外資を含む)の25%を占めるとしています。HengRui製品の医療保険の年額治療費は85万円とされていますが、昨年実績によると、医療保険適用の病院機構の一括購入が占める割合は低く、大部分が院外での取引で納入されています。

医療保険リストに収載されたにもかかわらず、実態として当該新薬の使用がされない、または保険償還されない医薬品が多数存在しており、それを打破するために、病院、薬局の「双通道」を保険機構と結びつける制度改革が2021年5月に公表されています(次回レポートを参照)。この政策がさらに、国産PD-1の市場を拡大して行くことになると言われています。

そういった中で4社の競争は熾烈を極め、トップのHengRuiはPD-1製品にMR2000人を投入、その他3社もMRを増強しています。最初に市場参入したJunshiは、アストラゼネカとの連携により活路を見出そうとしています。

4製品の医療保険適用後の薬剤費が平均100万円(年間)とした場合、PD-1の市場は5,000億円強にまで拡大するとしています。しかし、将来、薬剤費の切り下げに見舞われ、薬剤費は半額にまでカットされることも想定されています。その意味で、各社にとって、病院市場で如何に早く浸透させるかが非常に重要になって来ています。

その拡大路線を走る為には、PD-1の自社品の適応症の追加承認をいかに先行させるかが決め手となっています。肺癌、胃癌、肝癌、食道癌が4大固形癌ですが、現に、各社は適応症の追加承認を相次いで受けつつあります。

上記4社が先行し着々と地固めをしている中、後続の国内発PD-1は適応症で新機軸を打ち出してunmet medical needsを満たす特別の戦略が必要とされています。

前回の「国家戦略地域として新たな発展を遂げる海南省」では、 国家戦略地域に指定された海南省において、中国本土では実施されていない多くの優遇政策が実施されていることを取り上げました。

海南省において経済成長の柱は、医療、旅行・バケーションとして、低炭素/生態系保存の社会体系を構築し、国際的な機関が集結する地域を目指すとしています。

「医療」の目玉の一つが、新薬・医療機器の承認・市販後調査に関し、海南島を起点として中国全土に展開する、RWD(Real World Data:リアルワールドデータ)のプラットフォームを構築するというものです。

RWD(Real World Data)ですが、プロトコールで制御された臨床試験により得られるデータに限定されず、医療の現場で実際に医薬品・医療機器が患者に使われた際に生まれるデータを意味します。そういったデータを新薬等の承認審査に利用していこうという構想です。 

中国では元々、漢方薬の世界でこのような考え方が導入されました。米国では、オバマ時代の2016年に21世紀治療法案(21st Century Cures Act)が公表され、その中で、このRWDを利用して、まず、新薬等の市販後調査、上市済みの薬剤の適応拡大等の承認申請への適用、その上で、新薬等の承認のスピード加速化に繋げて行くという方向性が打ち出されました。この流れを受けて、中国では2018年に「RWS (Real World Study) ガイドライン(真实世界研究指南)」、次いで、2020年には「RWDにより医薬品の研究開発・承認審査を促進するガイドライン(真实世界证据支持药物研发与审评的指导原则)」、さらに2021年4月に「根拠として用いられるRWDのガイドライン(用于产生真实世界证据的真实世界数据指导原则(试行))」が公表されています。

そして2020年に海南省においてRWDの導入が開始し成果も出始めています。例えば、RET阻害薬のGavreto™ (pralsetinib) は、2020年9月4日米国FDAによって承認されましたが、これが海南島においてリアルワールドデータの対象として使用承認(1.5日間で承認されたとのこと)され、米国外では第一例目として9月29日に海南島で処方されました。そしてRWDの枠組みで引き続きデータが取得され、2020年3月にはNMPA(中国のFDA)から上市の承認が下りています。これはRWDを利用した上市承認の中国第一号となります。(ニュースリリースはこちら

一般に、海外でPh IIIが終わっている又は承認されている医薬品・医療機器については、海南省・RWDを利用して承認申請すれば、従来の臨床試験ルートの半分の期間、1/4のコストで上市申請に繋げることができると言われています。

尚、RWDの枠組みは、前記の新適応症、新製剤、児童薬、オーファンドラッグ等の臨床開発への利用に加え、医療保険・付保との連携等、将来的に大きな展開が見込まれています。

日本では、高度成長時代ならまだしも、今、「国家戦略」という言葉を聞くと少し、白けた雰囲気が漂ってしまうかもしれません。 一方、戦略の欠如が社会の停滞感を引き起こしているようにも思います。日本では、個人が戦略を練って生活、仕事をしていく(そうすることができる)、一歩進んだ時代に入っているのかもしれません。

中国は、まだまだ若い社会、国家戦略によって社会が期待されるべき方向に動いて行き、それが人々の大きな活力に繋がっているように感じます。対外的にインパクトのある中国の国家戦略はシルクロード計画(一带一路)です。他方、対内的に重要なのは、重点地域をピックアップして重点的に投資して波及効果を狙うというもので、具体的には、「北京・天津・新首都」、「揚子江流域(上海~上流の成都・重慶)」、「揚子江の下流域(上海、南京、蘇州、杭州等)」、「広州・深圳・香港・マカオ」の4地域内での一体化を進めて経済発展を促すというものです。そして、近年、これに「海南島」が加わりました。海南島は、中国の最南端にある中国最大の島で、面積は台湾とほぼ同じ、そして、政治的に注目を浴びている南海に向かって浮かんでいます。従来の印象としては、新婚旅行で行く美しい海岸、それと、欧州のダボス会議に対抗してボアオアジア会議が開催される所、くらいの印象でした。ところが、2020年に「海南島」が国家戦略地域に指定され、自由貿易地区を展開すると宣言されてから、俄然、経済的にも注目される地域となってきました。

例えば、国内で唯一の免税地域として、本土から来る人は約150万円まで免税で買い物ができるようになりました。また関税をゼロにし、法人税や所得税も優遇することで外資企業を誘致し、ビザなし渡航も広げます。カジノや競馬も海南島においてのみ解禁されます。(香港やマカオの実質的な価値を下げ、海南島に代替させる思惑があるとも言われています。)さらに博鳌乐城(ボアオ ホープシティ)という医療ツーリズムの中心も建設します。

そして、我々の医薬バイオ分野でも、この国家戦略地域の「海南島」で大きな動きがあります。それは、RWD(Real World Data)関連の政策推進です。(明日の記事「海南省でRWD開始、 海外上市済薬剤の承認申請が加速」に続きます。

科創板(The Science and Technology Innovation Board; STAR Market)がこの6月に創設2周年を迎えます。3月末までに、IC集積回路、医薬バイオ、新素材、ハイエンド製造等の分野の251社がIPOに成功しました。内56社が医薬バイオ関係会社です。全体の中で医薬バイオ関連企業が占める割合は22%です。従来、香港、アメリカに向かっていたベンチャー企業等が上海のIPO市場に向かう流れとなっています。一方で、これまでに95社がIPO申請を取り下げており、内11社が医薬バイオ関連企業です。特に直近の3か月にIPO申請の取り下げは、57社と相次ぎました。

科創板への上場を中止した件数の推移

科創板の上場中止が相次いだ原因

こうしたIPOの中止や取り下げは、科創板(Star Market)の「上場基準(IPO)」の変更、厳格化に起因しています。

2021年4月、科创板(Star Market)の「サイエンス本質のイノベーション評価」等の規則(注1)が改正となりIPO基準が厳格化されました。IPOを目指す企業が有しているサイエンス(科学)の本質がどれだけイノベーティブ・創造性を秘めているか、形式面に加えて実質面を重視して証券取引委員会がIPO可否の評価をするというものです。従来、中国の医薬バイオベンチャー企業は、海外、特に米国から新技術のライセンス導入を活発化していました。そして、投資会社から資金を集めて臨床開発を進めることにより自分で中国での上市を目指すか、または、プロジェクト価値を上げてから他の中国企業にサブライセンスを付与して、その利ザヤを稼ぐ、といったビジネスモデルが数多くみられ、そういった企業が実際にIPOを実現していました。しかしながら、今回のIPO基準の変更等により、上記のビジネスモデルの企業もイノベーションの視点から実質評価されることになり、上場が難しくなった結果として上場中止が相次いだというわけです。

これまで、中国企業がIPO狙いで日本から新技術を買うということも行われてきました。 しかしながら、単にその目的で買うということは、今後難しくなってくると思われます。

「サイエンス本質のイノベーション評価」に関連して、具体的に挙げられているIPO基準(改正後)の指標は、① 研究開発費(R&D費用)の金額、② 研究開発要員の人員数、③取得している特許の数、について、一定の数的・量的な基準を設定し、その要件を満たしている事としています。

それに加えて、① IPO申請企業のコア技術の先端度、② コア技術者のレベル、③ 中国の国家重要科学技術プロジェクトの一端を担っているか、④ コア技術により生まれる新製品等が国家の推進している重点領域に入っていて、従来の輸入品を置き換えることが出来るか、⑤ 特許発明が合計50件以上であること等の要素を加味して総合判断するというものです。

今回のIPO基準の改正によって、IPO申請の審査時間が長くなる一方、本質的な技術力を持っていると評価された企業のみIPOを成功できるようになります。

注1:「サイエンス本質のイノベーション評価」 等の規則 :

  • 中国証券監督管理委員会《科创属性评价指标》(2021年4月16日):全文PDFはこちら
  • 上海証券取引所《科创板企业发行上市申报及推荐暂行规定》(2021年4月16日):全文PDFはこちら

これは、科創板(Star Market)の「上場基準(IPO)」の変更、厳格化に起因している面があります。

「六保、六穏」とは、2018年に中国政府が打ち出した政策で、国民の就業機会および生活の基本等を「確保」することによって、企業が事業を行うビジネス環境の整備・「穏健」化を図り、投資の推進に結び付けようというものです。この政策実施の一環として、2021年4月15日に国務院が新たに政策文書を発表しました。

「六穏」「六保」の基本政策概念を更に進めて行政管理の簡素化を推進する為の指針(关于服务“六稳”“六保”进一步做好“放管服”改革有关工作的意见)国办发〔2021〕10号

行政管理の簡素化に並行して、8つの柱からなる重要政策が挙げられており、例えば、「就業機会の確保」関係では、電子商取引関連の就業機会を増やす等の政策がうたわれています。そして、医薬・医療分野に関連する事項としては、「生活関連の行政サービスの向上」の政策の一つとして、「処方薬(一部の指定医薬を除く)の電子商取引」を認めるとしています。

これまで、処方薬の電子商取引については多くの議論がなされてきましたが、今回、政府がそのシステム構築に向かうことを正式に決定し、実行に移すことになりました。

中国の医薬品関連産業は、目下、制度・システム改革の嵐に晒されています。医薬品の製造企業に対しては、政府部門による購入数量保証による一括買付が既に実行に移されています。今回は、更に、流通末端で患者が処方箋に基づいて、ネット上で処方薬を購入できるというもので、医薬品・処方薬の流通業界に大きなインパクトを与える政策です。また、医療の情報化との連動によって、医療・医薬流通に大きな変革をもたらす第一歩になると言われています。なお、処方薬のネット販売に伴って発生するであろう不正等に対し、どの様に監視体制を組んでいくのか、今後の課題です。

「六穏」「六保」の基本政策概念を更に進めて行政管理の簡素化を推進する為の指針(关于服务“六稳”“六保”进一步做好“放管服”改革有关工作的意见)は こちら から全文をご覧いただけます。

1.医薬品の知財制度の改革の全体像

1)改革の背景

「過去の中国」では「化学工場」から出荷されたジェネリック品が「賄賂に満ちた流通網」を経て、病院、患者さんに届けられるという流れの中で、知財保護は出来るだけ狭く・弱くという考え方でした。中国の医薬品産業に対しては、日本の業界人の多くの方々の脳裏には、そういった過去の印象が深く刻印されているように思います。

日本的な感覚に立てば、我々の過去2‐30年の流れを振り返りますと、旧利権を壊して、新しい経済社会を作って行くというのは考えづらい事ですので、今、中国で、進んでいる変化を想像するのも容易ではないと言えるかもしれません。 一般論として、世界のサプライチェーンにおける中国のビジネスモデルは、外国企業が研究開発・設計した商品を中国で“製造”、そして海外へ“輸出”、国内の消費市場へ“販売”する、というモデルでした。しかしながら、それは、環境に負荷がかかり過ぎ、且つ、利幅の薄いビジネスでした。 

今、現在において、米中間で、通信・ITの先端技術の覇権が政治問題化していることから見て取れるように、中国は、重点産業分野において、「研究開発」による新技術の開拓・獲得、そういった方向への「舵切」が明確にされており、経済社会が大きく変革しています。そういった中で、医薬品の研究開発は重点分野の一つですが、今回のコロナウイスルで直面している状況が、中国による医薬品の「研究開発力」の強化への政策転換を更に、強く後押ししており、現に中国国内では新薬の研究開発型の企業が勃興してきており成果が上がりつつあります。かかる背景の下で、研究開発の促進の為の制度として、知財の強化が叫ばれています。

医薬品の分野が、米中間で政治問題化している通信・IT分野と異なっている所は、中国が医療分野で大きな国内問題を抱えていており、その制度改革と表裏一体の関係にあることです。医薬品の流通、薬価、保険、製品の品質等の問題がそれです。研究開発の成果はグローバルにインパクトを与えますし、その成果を保護する知財制度の整備は日本がかつて歩んできた道ですので、日本人にも分かりやすい筈ですが、研究開発の成果としての新薬の知財保護は、同時並行的にすすんでいる流通等の国内問題の解決の為の制度改革・法改正とも密接にかかわっていることから、問題が複雑化しており、分かりにくくなっていると思います。特に、これまで中国の医薬品産業のガリバーだったジェネリック企業が自己の存続をかけて利益主張をしている中、過去数年にわたる欧米から「外圧」が加わり、そして、今、米中協議の渦中にあればそれは尚更です。

上記では、医薬品の知財を「研究開発」の推進という発想で捉えましたが、新薬の研究開発型の企業の立場に立てば、自社が投資した成果として得られる新薬が市場に於いて安価なジェネリック薬からの攻撃に立ち向かっていくに際して、中国の知財制度は、どのように保護してくれるのか、といった視点で捉えていくことになると思います。

2)改革の方向性

(1) 外圧

過去、中国での医薬品の知財強化の進展は、自国内の医薬品企業の育成、強化という視点のみならず、中国で製造した消費財等の製品の巨大な輸出市場である欧米から、その反射として中国に対する圧力によって進められてきたと言ってもいいと思います。その典型例が、医薬品の物質特許制度の導入です。日本では1976年に導入されましたが、当時の日本は、日系の各社が中央研究所を設立し、自社研究を本格化していた時期に当たります。日本の医薬品産業の育成政策に合致するタイミングでの導入でした。他方、中国は、1992年の米国との知財保護に関する合意(米中知財保護忘備録)に基づき、同年に中国特許法が改正され、それ以前は不特許事由とされていた医薬品に初めて物質特許が認められるようになりました。ところが、この物質特許導入がされた1990年代当時、中国の国内企業で自前の新薬の研究所を持って研究開発をやっていた企業は皆無と言ってもよい時代でした。従って、当時の日米欧の外資が中国市場でジェネリック薬に対抗して新薬ビジネスの収益を上げることが出来るようにする為に物質特許が導入されたといってもよいかも知れません。中国で新薬の研究が本格的に立ち上がったのは、それから10年後の21世紀に入ってから、先ず、外資企業が上海等に研究所を設立、その後、中国の内資が追従する形で、今日に至っています。

今現在でも中国で製造した消費財等の製品の輸出先である欧米から中国に対して知財面での制度の改正圧力が続いており、今年1月に成立した米中貿易協議書の中に、後述するような中国の「医薬品」の知財制度の強化を求める条項が盛り込まれています。

(2) 医薬品の知財制度改正のポイント

そういった、背景の下で、今、新薬に関する中国の知財制度の改革は、主として次の3つのポイントに絞られています。

  1. 新薬の特許期間の延長
  2. パテントリンケージ(Patent linkage)
  3. 新薬データの保護

法律的には、上記(1)は、特許法の下で、特許庁の守備範囲、他方、上記(3)は、薬事法の下で薬事当局の守備範囲です。そして、上記(2)は、薬事当局、特許庁、裁判所の三者がlinkageによって繋がっています。

旧制度において医薬品の知財保護は、特許法の下での特許保護(出願から20年間の保護)、および薬事法の下での新薬に対する「監測期」の設定による保護でした。

特許による保護については、特許期間は現行では20年ですが、新制度の下では日米欧の制度に倣って特許期間を延長し、長い期間保護を与えるというものです。2020年7月6日に公表された「(第4次)特許法改正案」に該当条文が盛り込まれています。なお、patent linkageについても、同様に条文が新たに追加されました。

薬事法による保護については、旧制度の下で、新薬に対して5年間の「監測期」が設定されて、その間はジェネリック薬に対して承認が与えられないというものでした。しかしながら、日本の再審査制度(8年間の保護)と比べて、当該期間中であっても、ある条件を満たせば、ジェネリックが承認されるという穴抜けがありました。それを新制度の下では、ジェネリックが出現しない期間としての「監測期間」の制度を撤廃し、新たに「データ保護」制度を設けて、薬事法の下で、ある一定期間、日本の再審査期間中と同様にジェネリック承認を与えないという制度の導入が予定されています。尚、昨年末に発効した「薬事法」及び7月1日の「医薬品登録管理弁法」には、旧法下にあった「ジェネリックが出現しない期間としての監測期間」の規定が削除されましたが、他方、「データ保護」に関する新しい規定は入っていません。この「データ保護」については、「薬事法」と「医薬品登録管理弁法」の中間に位置する「医薬品管理実施条例」を含むその他の法律で規定される方向で検討されています。

本稿では、先ず、「新薬の特許期間の延長」について、解説致します。

2.「新薬の特許期間の延長」

1)新薬の特許期間の延長制度の検討経緯

(1)2017年、政策文書

特許期間の延長制度の導入の方向性が正式に公表されたのは、2017年の国務院による「医薬品等の承認審査制度の改革及び医薬品等のイノベーション推進に関する政策文書」でした。その中で、新薬のイノベーション推進の為として、「データ保護」、「patent linkage」と並んで、「特許期間の延長」制度を導入するとしていました。概念が述べられているだけで、具体的な延長の条件・期間・手続き等については、言及されていませんでした。

(2)2019年1月、特許法改正案(「2019年特許法改正案」)

特許期間の延長制度の骨格が初めて具体化したのは、特許法改正案が2019年1月に公表された時でした。その中で、「中国の国内及び国外で同時期に上市の承認申請をするイノベーション薬をカバーする特許は、その特許期間が最長5年延長される。但し、上市後の特許の存続期間は14年を越えない。」と規定していました。この案については、下記の点が議論の対象となりました。

i)「中国の国内と国外で同時期にNDA申請」

中国では経済的に中間層が厚くなり、新薬へのアクセスに対する社会的な要求も膨らんでいるなか、所謂、ドラッグラグが社会的な問題となっていました。海外企業の開発にかかる新薬が欧米に比べて、中国への上市が大幅に遅れていて、中国国内の患者に新薬のアクセルが与えられない状況が続いていました。かかる状況を踏まえ、中国政府は、「外圧」に対して、海外企業の有する中国特許の延長を認める見返りとして、延長の対象となる新薬が、中国の国内及び国外で同時期に上市の承認申請(即ち、NDA申請)をするとの条件を付けました。
ところが、この要件は、中国の国内企業の立場に立った場合、国内に加えて、海外でもNDA申請する必要性が出てくるので、国際化の進んでいない中国企業にとって不公平である。また、海外企業の立場に立った場合、中国の特許延長が認められる為には、海外と同時期に中国での開発を進めて中国でNDA申請をせねばならず、かかる要件が課されていない欧米日韓等の諸外国の制度の下で中国企業が延長の利益を享受できるのと比べて、公平性に欠けると。

ii) 「上市後の存続期間の制限」

欧米とも延長期間は最長5年ということで同じであるが、上市後の存続期間の足切りは、米国は14年であるが、他方、欧州は15年であり、その点、再検討の余地があるのではないか。

尚、具体的な、延長期間の計算式は、特許法より下のレベルの細則等で処理されることになると思われますが、日本方式(特許成立日から新薬承認日までの期間)ではなく、米国方式(臨床試験期間×50%+承認審査期間)をベースに検討がされています。

(3)2020年1月、「米中貿易協議書」

その後、米中貿易協議書が今年の1月に発効となりました。協議書は、知的財産、農産物輸出、金融サービス問題が柱となっています。その第一章が知的財産に関するもので、営業機密保護、医薬品に関する知財問題が扱われています。医薬品に関する知財問題としては、具体的には、特許期間の延長、及びpatent linkageに関連する規定が盛り込まれています。

尚、この米中貿易協議書の規定と「2019年特許法改正案」との違いのポイントは次の通りです。
i)「2019年特許法改正案」で延長の条件とされていた「中国の国内及び国外の同時期のNDA申請」との要件が米中貿易協議書には盛り込まれていないこと。
ii)特許期間延長の対象となる発明の種類について、米中貿易協議書では、上市の承認の対象となった医薬品及びその使用方法に対応する物質、用途、製造方法の発明に関する特許が延長の対象になる、と明記されていること。

この米中貿易協議書では、米国は、中国に対して医薬品の知財保護の改正を求めると同時に、米国が自国内で既に与えている知財保護のレベルは、中国に求めているレベルと同等又はそれ以上であるとの宣言もされています。その意味で、中国が米国からの外圧をベースになされる改正については、米国の制度の下で与えられる知財保護レベルが中国で与えられる保護の上限になりうるとも言えます。

2)2020年7月の特許法改正法案

先週、公表された「2020年特許法改正案」では、前回の「2019年特許法改正案」から下記の点について修正が加えられました。
i) 特許期間の延長の対象となる医薬品の範囲が、「2019年特許法改正案」では、「イノベーション新薬」をカバーする特許が延長されるとしていたのに対し、今回の改正法案では、「新薬」をカバーする特許としており、延長対象の医薬品の範囲が拡大したこと。
ii)「2020年米中協議」での合意文言を踏まえて、特許期間延長の要件とされていた「中国の国内及び国外の同時期のNDA申請」との要件が外されたこと。

上記i)の変更点の背景として、中国での医薬品の分類(新薬、ジェネリック等)が、今回の「2020年特許法改正案」の公表に先立って、中国の薬事法の下で施行される「医薬品登録管理弁法」(7月1日)の改正によって、分類の編成替えがなされ、下記の通りとなりました。この分類の趣旨ですが、NDA承認申請の対象の医薬品がどの範疇に分類されるかによって、申請するに際して必要とされるデータ・資料の範囲が決定されます。

第1分類:イノベーション薬(国内外未上市の新薬)
第2分類:改良型新薬(新製剤、新適用症等の新薬)
第3分類:海外で上市されているが中国で未上市の医薬品のジェネリックを中国で製造する医薬品
第4分類:ジェネリック薬
第5分類:海外で上市されているが中国で未上市の医薬品のオリジナルメーカーが中国へ輸入若しくは中国で製造する医薬品。

上記i)の特許延長の対象となる医薬品の範囲が拡大したというのは、「2019年特許法改正案」では、第1分類の医薬品が対象であったのが、今回の「2020年特許法改正案」では、第2分類も明確にその範疇に入ったということです。なお、日本の医薬品企業が日本で上市済の製品を中国に導入する場合、日本での上市の承認取得前に中国でNDA申請すれば、第1分類となりますが、そうでない場合には、第5分類の範疇に入ってきます(尚、第5分類の場合、NDA申請時に必要とされるデータ・資料は少なくて済むようになる)。その場合に「医薬品登録管理弁法」上は「新薬」の扱いにはなりませんので、そのような医薬品が延長の対象になるか疑問が残ります。しかしながら、そもそも、「2019年特許法改正案」の延長要件とされていた「中国の国内及び国外の同時期のNDA申請」における「同時期」とは、海外で上市の承認がされてから1-2年内に中国でNDA申請することを意味するとされていたので、多少の余地がありそうな状況です。 尚、今後、特許法の下で、公表される細則等の中で、「新薬」の範囲が規定されて行くことになる見込みです。また、上記で述べた、延長の計算式、延長の対象となる発明の種類等についても同様です。

3) 日本企業の検討課題

新薬の中国特許の期間延長を得る為の要件として、「2020年特許法改正案」では、「2019年特許法改正案」で規定されていた「中国内及び国外の同時期のNDA申請」との要件が外されました。しかしながら「新薬」であるとの要件が残っており、その「新薬」の範疇に入る為に、前記のような形を変えた同様の「要件」が課されることが想定されます。

欧米の多国籍企業は、中国の医薬品市場の将来の規模拡大を見据えて、15年以上前から上海、北京等の主要都市に研究開発施設を開設し、数千人の研究開発要員を抱えているところもあります。それらの企業の多くは、自社の新薬の開発については、欧米との同時開発体制を既に敷いており、品目によっては欧米に先駆けて、中国で最初に上市の承認を取得する例も出て来ています。従って、そのような多国籍企業にとっては、たとえ、特許の延長が得られる要件に「中国の国内及び国外の同時期のNDA申請」が加わったとしても、彼らの現状のビジネス・開発モデルから大きく逸脱することにはならないとも言えます。

これに対して、日系の医薬品企業各社は、欧米の多国籍企業と比べると、将来の中国市場の成長に対する考え方が異なっているからだと思いますが、中国でのグローバル同時開発体制については、出遅れ感は否めないとも言えます。そういった現状を踏まえ、自社の中国での開発体制を整えるのと同時に、中国への巨額の開発投資(インフラ整備も含め)を短期間で実行に移すことが難しい場合には、開発の早期の段階から、信頼できる中国企業との連繫も視野に入れて行くべき時代に入ってきていると思います。

(つづく)

12月5日、李克強総理は国務院常務会議を司会、《中華人民共和国特許法改正案(草案)》(中国語:中华人民共和国专利法修正案)を可決し、草案を2018年12月23日〜29日に開催予定の全国人民代表大会常務委員会に提出することを決定しました。
改正案では、知的財産権の侵害に対する罰則強化に焦点を当てています。国際慣行に沿って、故意侵害・模倣に対する賠償・罰金を大幅に増やし、権利侵害のコストを大幅に増加させることで、違法行為の抑止を目指しています。
さらに、権利侵害者が関連する情報を提供する責任を明確にし、ネットワーク サービス プロバイダの共同責任も明確にしています。
また、職務発明に関し、発明者・設計者が職務上創出した発明によって生まれた利益を享受できる報奨体制を奨励し、特許を受ける権利の発明者から所属する企業への承継システムを改善しています。

今回国務院を通過したこの特許法改正案には3つの注目点があります。

  1. 特許侵害に対して懲罰的損害賠償制度を導入した。
  2. 関連資料を侵害者が提供する責任があることを明確にした。
  3. ネットワーク サービス プロバイダの共同責任を明確にした。

特許侵害に対する懲罰的損害賠償制度

懲罰的損害賠償は、知的財産権を故意に侵害した場合、得られた利益を賠償するだけでなく、その上にさらに2倍~3倍の懲罰を加えることにより、故意の侵害をなくすことを目指すのもです。

現行の特許法の損害賠償規定(§65)において、特許権の侵害に対する補償額は以下の優先順位で決定するとしています。

  1. 権利侵害によって被った特許権者の実際の損失に応じて決定されます。そして、特許権者の実際の損失が立証できない場合には、
  2. 侵害者によって得られた利益に応じて決定されます。そして、特許権者の損失、侵害者の利益のどちらも立証が困難である場合は、
  3. その特許の特許ライセンス料を勘案し、その倍数を合理的に決定するとしています。特許権者の損失、侵害者の利益、特許ライセンス料のいずれも決定が困難である場合、
  4. 裁判所は、特許権の種類・侵害の性質・状況に応じて、10,000元から100万元以下で賠償額(法定損害賠償額)を決定することになっています。

実際のケースにおいては、特許権者の製品等の売上の減少は多くの要因の影響を受けるため、権利侵害に絞った売り上げの喪失を計算することは非常に困難です。また、侵害者の利益の計算は、関連する販売数量のデータに依存しますが、その正確なデータを権利者側が立証することは非常に困難です。さらに、権利侵害に関わる特許について、特許権者が第三者にライセンスを提供していな場合には、合理的なライセンス料も論争の的になります。従って、中国における特許訴訟のほとんどは、法定損害賠償の範囲内で決定されています。この結果、特許権者はしばしば、訴訟に勝利しても金銭的には損失となり、受け取った賠償額では弁護士費用を支払うにも不十分というのが現状です。

また特許侵害の損害賠償は、主に損失補填を原則としています。そのため、賠償額は損失の補償または利益を吐き出させることに留まります。しかしこの原則では、結果として、侵害者の多くが利益を上げてしまう事態を招きます。即ち、最悪でも利益を取り上げられるだけですので、競合他社が最新の製品を売り出すと、特許侵害の有無などは考えず、直ちに追随し、訴えられても裁判を長引かせる作戦に出ます。そして特許訴訟が終了する頃には関係する商品はすでに次の代に換わっているのです。タオバオやアマゾンで次々に新しい商品が生み出されていますが、多くの企業はそのようなヒット商品をウォッチしており、すぐに模倣品を投入し、訴えられるまでに少しでも稼ごうとしています。

このような状況を変えるため、改正案では特許侵害に懲罰的損害賠償制度を導入し、侵害者は故意に特許を侵害した場合には、取得した利益を大きく超える賠償を払うことになります。この制度が導入されれば、現在の「窃盗的商法」は致命的な打撃を受けることになります。多くの特許権者が損害賠償の額を少しでも高額にしようとするでしょうから、侵害が故意であったと追求することになるでしょう。特に、特許権者が関連する特許について前もって警告等の注意喚起を促していた場合には、侵害者が通常の2〜3倍の損害賠償責任を負う可能性が高くなります。

侵害者の証拠提出責任

改正案では侵害者が関連する情報を提供する責任があることを明確にしました。現在、侵害者が関連する販売データを提供しようとしない場合、特許侵害による特許権者の補償額、侵害者の利益の額等の立証は非常に難しく、多くの場合に法定損害賠償額で決着しているのが実情です。改正後は侵害者が協力して関連する証拠を提供しなければ、自己にとって不利に働くことになりますので、侵害に対する抑止力となります。

ネットワーク サービス プロバイダの共同責任

現状の関連法規を整理しておきましょう。

《侵権責任法》第三十六条第二項の規定によれば、『ネットワーク利用者がネットワーク サービスを通じて権利侵害行為を行った場合、権利者はネットワーク サービス プロバイダにその旨を通知し、削除・遮断・切断など必要な措置を講じさせる権利を有する。ネットワーク サービス プロバイダが通知を受け取った後に必要な措置を取らなかった場合、損害が拡大した部分において、ネットワーク ユーザーと共同責任を負うものとする。』としています。 

これに対して、著作権侵害の処理の規定は比較的整備されているとも言えます。《情報ネットワーク伝達権保護条例》第十四条および第十五条によれば、『権利者は、何かの作品・パフォーマンス・音声・映像が自分の情報ネットワーク伝達権に関わっているか、削除・改変されたと判断した場合、情報保存領域・検索・リンクサービスのネットワーク サービス プロバイダに書面で通知、情報やリンクの削除を要求することができる。権利者からの通知を受けた後、ネットワーク サービス プロバイダは、著作権を侵害している作品・パフォーマンス・音声・映像情報を即座に削除するか、リンクを削除し、同時に権利者からの通知を送信者に転送しなければならない。送信者の住所が不明などで転送できない場合、それをインターネット上に表示する。』としています。

つまりネットワーク サービス プロバイダは侵害の存在を知った後すぐにリンクを削除することで、免責されることになり、実際には著作権の「抜け穴」となっています。商標権侵害の条項には同じような抜け穴はないものの、タオバオに関する裁判所の判例を見ると状況は基本的に同じです。ネットワーク サービス プロバイダが侵害通報窓口を設置していれば、商標権侵害の通報後すぐにリンクを削除することで、責任を逃れることができます。

通報・確認・削除プロセスには一定の時間がかかります。そして「Pinduoduo」のような共同購入サービスにおいては、短時間で一つの製品を大量に売り切ることができるようになりました。この場合、商標権を侵害している商品へのリンク削除は、すでに意味を持ちません。商標権でこの状況であれば、特許権侵害の処理はさらに複雑であり、共同購入サービス プラットフォームは権利を侵害した違法商品にとって最も良い販売方法となっています。

今回の特許法でも、ネットワーク サービス プロバイダの即時の措置がなければ連帯責任を負うことを明確にしており、措置が遅れることで拡大した部分に対して連帯責任を持たせるとしています 。言い換えれば、特許権者がプロバイダに通報して削除させることが容易にできるようになったと言えます。

2018年5月に非臨床・臨床の試験データの保護制度に関する法案が公表されています(cFDAより)。新薬の開発が終わって販売承認がおりた後、ある一定期間中、当該新薬の開発・承認取得者に対し市場独占の権利を享受させる制度としては、先ず、特許制度が挙げられますが、それ以外にも薬事制度の下でも保護制度が構築されています。先ず、中国に於ける新薬販売の独占期間を担保する制度の全体像を探り、その上で、データ保護制度(案)の内容を検討します。

1.中国の市場独占性と法制度の整備動向

「新薬の研究開発投資の促進」と「ジェネリック薬の適時の市場参入」の両面での政策目的の実現を図りつつ、その両者の利害を調整する為に、中国では、ここ1-2年の間に、「新薬の独占販売期間」の設定に関し、特許法及び薬事法を中心に様々な制度整備が図られています。

1)特許法

(1)「特許侵害の抑止」

先発の新薬をカバーする特許の有効期間中にジェネリック薬が市場参入した場合には、特許侵害問題が発生します。中国では、今、知財保護の強化の観点から、特許侵害行為の発生を抑止する為の諸規定を盛り込んだ特許法の改正(第4次改正)作業が進んでいます。

(2)特許期間の延長

更には、医薬品の特許保護期間(20年)を延長する為の新制度の導入についても具体的な検討がされています。(関連記事

2)薬事法

(1)「再審査期間」

日本の新薬に関する再審査期間に該当するのが、中国では、「監測期間」と呼ばれているものです。先発品としての新薬が承認された後、この期間中は、ジェネリックに対して承認が与えられない制度です。従来から各分類毎に、例えば新薬(新規薬効成分NCE)について5年、その他新製剤・新投与ルートについても夫々の期間が付与されていました。2016年3月に「低分子化合物医薬の分類改正」が行われ、NCE、新製剤・新投与ルート等の類を組み換えた上、夫々の類別に承認日から3〜5年の期間を設定し、その間、ジェネリックの承認が付与されないという制度が敷かれています。

(2)「Patent Linkage」

Patent Linkageの制度導入が検討されています。即ち、① 新薬の販売承認の申請者に当該新薬をカバーする特許情報の提出を求め、cFDAが当該特許情報を公開することを前提に、ジェネリック申請者が、当該特許が無効である等の理由がある場合には、当該事情を説明・表明することにより、特許の有効期間中であってもジェネリック申請が可能となり(「特許チャレンジ薬」の申請)、② 当該説明・声明がなされた場合、特許権者に回覧され、特許権者に対して裁判所に特許侵害訴訟を提起する機会が与えられ、他方、訴訟が提起されない等の場合には、ジェネリックに承認が付与されるとの新制度の導入検討がされています。検討中の案については、2017年5月のcFDAからの通知によって概要が示されています。

(3)「データ保護」

新薬の販売承認の申請者が自分で実施した試験から取得した臨床・非臨床の試験データについては、これを承認申請時に提出した範囲で、当該データの第三者による使用が禁止されるという「データ保護」制度の具体化が検討されています。

新薬の開発者は上記の特許法上及び薬事法上の保護制度を重層的に活用して、より長い市場独占を図ることが必要となってきます。

2.データ保護制度

現行の薬事関連法(「薬品管理実施条例」及び、「薬品登録管理弁法」)には、非臨床・臨床の試験データ保護に関する規定が存在していますが、その具体的な実施に関する細則が制定されていなかったことから、法律上はデータ保護がうたわれているにも拘らず、実際には試験データに対して保護が付与されていませんでした。日本では馴染みのない制度ですが、中国がWTOに加盟するに際して、TRIPS協定を順守する必要があり、その39条3項に、加盟国は新規化合物を含有する医薬品に対して販売承認申請に用いられたデータを保護の為の施策をとる必要があると規定されていることから、中国が、上記の薬事関連法に盛り込んだ経緯があります。

従来、データ保護は、絵に描いた餅の状態だったのですが、昨年(2017年)10月に中国の党中央・国務院が「医薬品・医療機器の承認申請制度の改革の強化及びイノベーションの推進に関する政策」を公表し、その中でデータ保護制度の構築(第18条)が宣言されたことを踏まえ、今年(2018年)5月にcFDAが「薬品試験データ保護の実施弁法(暫定)」(「データ保護弁法(案)」)として草案を公表し、パブリックコメントを求めました。その内容に基づき、近い将来、正式に細則が定められ、実質的に具体的なデータ保護が与えられることになるとされています。未だ、案の段階ですが、次にその概要を見て行きたいと思います。

1)保護の対象となる「医薬品」及び「試験データ」(「データ保護弁法(案)」§3、4)

新薬(NCE)、バイオ新薬、オーファンドラック、小児用薬及び「特許チャレンジ薬」について、自己が実施した試験によって取得した臨床・非臨床の試験データであって、承認申請にあたって申請データとして用いられた有効性等に関する未公開データに対して保護が与えられます。尚、安全性に関するデータについては、保護対象外とされています。

尚、今後、データ保護制度の細則を決めて行く段階で詰めなければならない点としては、
① 医薬品の申請データに関し、日本の情報公開法、米国のFOI法の下で、政府当局による公表の対象外となっているCMCデータの一部を含む商業機密データに対する保護をどの範囲で与えて行くのか。
②「特許チャレンジ薬」については、前記の通り、ジェネリック申請者が、先発品の特許が有効期間中に、当該特許が無効である等の主張(チャレンジ)をして、これが認められて、販売承認が付与されるジェネリック薬ですが、特許無効が最終的に裁判所で認定される必要があるのか否かも含めて、その条件は、Patent Linkage制度に関する細則の制定とセットで処理されることになります。

2)データ保護の保護内容(「データ保護弁法(案)」§8)

データ保護を受けている事業者(先発品の先発企業)の事前の同意を得ずに第三者(ジェネリック・企業を含む)が保護対象となっている試験データを使用して申請した場合、cFDAは当該ジェネリック申請に対して、下記の「保護期間」中は承認を与えない、との趣旨で規定されていることから、その範囲で、試験データに対して保護が与えられることになります。ここでいう試験データに対する保護の意味ですが、比較の意味で、例えば、不正競争防止法の下では、価値ある秘密データに対して保護が与えられますが、具体的には、秘密データの保有者は、第三者に対して、その不正使用があった場合には、裁判所に訴訟を提起することによって、その差止を求め及び損害の賠償を請求できるということです。他方、薬事関連法の下では、保護が与えられた「試験データ」をジェネリック企業が勝手に使用して、「保護期間中」にジェネリック申請をした場合、当該申請は承認されないという意味での保護が与えられます。

3)保護期間(「データ保護弁法(案)」§5)

新規有効成分含有(NCE)の新薬に対しては、当該新薬の試験データに対して、販売承認日から6年間のデータ保護期間が与えらます。これも含め、リスト化すると下記の通りとなります。

類別 保護期間 条文番号
NCE新薬 6年 §5
バイオ新薬 以下の場合を除く 12年 §5
① 中国が参加した国際共同治験の試験データであって、中国での申請が他国より遅れた場合(6年以上遅延の場合、保護は与えられない) 1〜5年
② 中国で実施した臨床試験データを用いず、海外の試験データのみを用いて申請の場合 上記期間の1/4
③ 中国の臨床試験データを補充して申請の場合 上記期間の1/2
オーファンドラッグ 6年 §6
小児薬 6年 §6

尚、「特許チャレンジ薬」については、今回の法案では「保護期間」について明示されておらず、Patent Linkageの制度と並行して、その「保護期間」が検討されていると思われます。

4)データ保護を求める申請手続き(「データ保護弁法(案)」§9,10,11)

データ保護を求める為には、対象の医薬品の承認申請時に、同時に、当該医薬品の試験データについて保護を求める理由及び求める「保護期間」を記載の上、データ保護の申請をする必要があります。CDE(審査機関)は、対象医薬品の承認審査と並行して、データ保護の審査を実施し、承認の付与時に、データ保護についての結果を通知します。「保護期間」等の情報は、公示されます。

5)保護されるデータの公表(「データ保護弁法(案)」§17)

データ保護を認められた者(即ち、新薬等の承認取得者)は、自主的に、保護対象となったデータを公開する必要があるとされています。これは、公表させることによって、公衆の監督監視下に置き、データの捏造等の不正行為を未然に防ぐとともに、試験の重複実施による資源の浪費を回避するのが目的とされています。

6)第三者による「保護データ」の使用(「データ保護弁法(案)」§14、17)

「保護期間」中であっても、ジェネリック企業等の第三者は、自分で試験を実施して、データを取得した場合、又は、「データ保護」を受けている先発の企業から同意を得た場合は、当該データを用いて、承認申請することが出来ます。

第三者から当該申請があった場合には、cFDAは、「データ保護」を受けている先発の企業に通知をして、異議を申し立てる機会を与えます。尚、かかる紛争は、最終的に行政訴訟によって、解決されるとされています。

前記の通り、当局は、今年5月に上記の制度案を公表し、パブリック・コメントを求めました。各団体等から出された意見・コメントを踏まえて、当局が検討中と思われます。本件につき、動きがあり次第、報告の予定です。
以上

4月12日、国務院常務会議において李克強総理は抗がん剤の関税をなくすという発表を行ない、これは中国国民に大きな反響をもたらしました。
この発表の背景にあるものは何でしょうか。

国務院(内閣)常務会議における重要決定項目

2018年4月12日に開かれた国務院常務会議にて、医薬品に関連したいくつかの重要な政策が李克強(首相)により発表されました。
① 5月1日より、抗がん剤の輸入関税をなくす
② 抗がん剤を政府によって調達することにより、中間のコストをなくす
③ 輸入新薬の上市を早めるため、臨床試験開始のためのIND申請制度、および医薬品輸入手続き制度の改正
④ 新薬に最長6年のデータ保護期間、中国と海外で同時上市の新薬について、最長5年の特許保護期間の補充(関連記事はこちら
今回は項目①と②を取り上げます。

5月1日から抗がん剤の関税をゼロに

中国はWTOに加盟した2001年以降、医薬品に対する関税を徐々に低減させてきました。直近でも昨年12月より、抗がん剤の輸入関税を2%まで下げています。
現状2%という低水準の関税ですから、それが0%になったとしても経済上のインパクトはほとんどありません。しかし、「すべての医薬品で関税撤廃」というワードは十分なインパクトがあります。

輸入国産を問わず、消費税が大幅低減

4月12日の国務院常務会議において、関税撤廃と同時に、増値税(消費税に相当)も低減させるとの発言がありました。この時に税率には触れていません。
そして4月27日、財務部は「抗がん剤の増値税政策について(財税(2018) 47号)」という通知を出し、これまで17%だった増値税を3%に減税すると発表しました。こちらは販売価格に影響を与える減税額になっています。しかし、元々輸入抗がん剤は価格が非常に高いため、たとえ20%価格が安くなったとしても中国の庶民にとってはとても買える物ではありません。
そこで続く第三の政策、最も実効性の大きな政策に注目してみましょう。

抗がん剤の一括調達による中間コストの低減

4月の重要決定事項の2番目に挙げましたが、政府は一括調達、保険の適用リストの見直し、各企業との価格交渉、電子商取引の活用によって販売価格を低減させることを発表しました。
この一括調達、保険適用、価格交渉、電子商取引はそれぞれ密接な関係があります。
もし新薬が中国の保険適用になれば、一気に販売量が増えることになります。そこで政府は保険適用をするに際し、各企業と価格交渉をしたり入札を実施することによって、調達価格を圧縮します。2017年の実績で平均50%も値段を下げることができたとのことです。
一括して購入した新薬は、電子商取引によって全国に販売することになります。
2017年の実績では、価格交渉で700億円、保険適用を含めると1000億円以上も患者負担を減らせたとのことですから、この政策は最も効果的です。しかし諸外国にとってはあまり良いニュースではないため、これら3つの政策を一度に発表したようです。

がん患者負担の社会問題

こうした決定の背景にあるのは、医療費に対する国民の不満が高まっているということです。
ここ数年「看病难」(診療を受けたくても受けられない)という言葉が流行しています。病院に行っても人が多く待ち時間が長い、専門の医者がいない、医療費が高い、ベッドが足りないというわけです。このうち医療費の問題は「看病贵」と言われ特に注目されています。
中国では年間429万人が新たにがんが見つかっており、日本の4倍です。しかし、抗がん剤の市場規模は2兆円を超えくらいで、この市場規模は日本の2倍程度でしかありません。多くの国民に抗がん剤は高すぎるのです。その結果、5年生存率は日本の半分しかありません。(癌の種類が異なることも関係していますが。)
今年になってがんにり患した子供を歩道橋から突き落として死なせた父親の事件が中国で話題になりました。また、高齢化社会が日本以上の速度で進み、毎年がんにり患する患者数も年10%で増え続けており、社会問題になっています。

考察

今回中国政府は、諸外国と国内世論の両面に歓迎される、とてもうまい組み合わせの政策を発表しました。
諸外国は中国の関税の不公平感を重く見ていますし、世界最大の市場として市場開放を強く望んでいます。特にトランプによる圧力が高まった4月、関税撤廃の発表は大きなインパクトがありました。アメリカとの正面対立を望んでいないことがわかります。
一方で一党体制とはいえ、安全保障上、国民の世論についても無視することはできません。あまりアメリカに対して弱腰な対応をしたとの印象を自国民に与えるわけにはいかないのです。
そこで今回、国民の「看病难」を解決するという名目のもと、貿易戦争を避ける絶妙な政策を送り出しました。

世界の抗がん剤開発企業にとってこれは千載一遇のチャンスですが、すでに対象になる医薬品のリストが公開されています。このリストの分析は別記事をご確認ください。

関連記事

関税が撤廃される抗がん剤一覧(執筆中)
医薬品特許保護期間を上市から5年認める、データ保護期間も延長
新薬に最長12年のデータ保護期間を与える法案が公開

中国、薬の特許期間を延長 5年間、先進国並みに」とのタイトルで「中国が5月から医薬品の特許期間を今の20年から最長25年間に延長し、先進国と足並みをそろえた」との報道がありました。(日本経済新聞、5月15日)

医薬品業界にとりましては、インパクトのあるニュースですので、本件の関連情報も含めて状況を報告いたします。

 

国務院(内閣)常務会議における重要決定項目

2018年4月12日に開かれた国務院常務会議にて、医薬品に関連したいくつかの重要な政策が李克強(首相)により発表されました。
① 5月1日より、抗がん剤の輸入関税をなくす(関連記事はこちら
② 抗がん剤を政府によって調達することにより、中間のコストをなくす(関連記事はこちら
③ 輸入新薬の上市を早めるため、臨床試験開始のためのIND申請制度、および医薬品輸入手続き制度の改正
④ 新薬に最長6年のデータ保護期間、中国と海外で同時上市の新薬について、最長5年の特許保護期間の補充
今回は項目④を取り上げます。

 

新薬に最長6年のデータ保護期間

新薬の販売申請にあたり、申請人は当局に当該新薬について動物試験、CMC、臨床試験などの様々なデータを提出します。このデータの保護期間を最長6年間認めるとしており、この間、cFDAはジェネリック申請に対し、新薬のオリジネーターが提出したデータの引用を認めないというものです。従って当該期間中は、ジェネリック申請に対して承認が与えられないということになります。
この案は昨年5月および10月に出された国務院の意見書に既に示されており、今回はさらに具体化され発表されたものです。しかし施行に当たっては各法律を調整する必要があります。実際、4月25日に国家薬品監督管理局は「薬品試験データ保護に関する実施弁法」の法案を公開し、パブリックコメントを求めています。(関連記事

 

最長5年の特許保護期間の補充

新薬NDA申請、上市を中国の国内外で同時に行なう場合、当該新薬に対して最大5年間の特許保護期間を補充するとしています。
中国は従来、先進国と比較すると医薬品承認審査の時間が比較的長く、開発者にとって経済的損失がありましたが、これを補償するものとなります。
こちらも試行するにあたっては法整備が必要ですが、具体的な動きは確認できておりません。5月から実施されたと日本では報道されましたが、誤報と思われます。前述の4月の発表の冒頭に「5月1日から」とありますが、これは第一項にかかるものであり、他の項目はこの限りではありません。現在、特許法の年内改正に向けて作業が進んでいますが、当該改正法の中で特許期間の補充制度が盛り込まれると見込まれます。

 

考察

データ保護期間の延長も、特許保護期間の延長も、中国政府がジェネリック開発よりも新薬開発を協力に後押しするとの意図の現れです。
しかし、中国の医薬品開発はいまだにジェネリックが多くを占めているという現実があります。このように早いタイミングで知的財産権の保護強化を首相の立場から明言したのにはどのような理由があるのでしょうか。特に特許保護期間の延長はこれまで当局から言及はされていたものの、首相によりいきなりの発表となったのは、それなりの理由があります。

3月1日、トランプ大統領がアルミ輸入制限を発動すると表明して以来、中国とアメリカの間で貿易戦争が始まりそうな状況にありました。しかし中国は輸出に依存した経済であるため、貿易戦争が無用に拡大することは避けたいとの立場です。そこでアメリカをある程度納得させるため、国内事情的にはやや時期尚早な政策を打ち出したのでしょう。
しかしこれだけでは国民の不満が高まることになります。中国医薬品メーカーの開発対象はまだまだジェネリックの割合が高く、ジェネリックの上市時期が遅くなることは医療費の負担として国民にも影響があるからです。そのため、抗がん剤の関税撤廃(関連記事はこちら)や政府調達による薬価低減も同時に打ち出したとみられます。

確かに今回の報道は、各国関係者にサプライズをもって歓迎されました。今後新薬を最初に上市する国として、必ず中国を含めるという流れになっていくはずです。
またデータ保護の推進によって、中国における新薬開発を大きく後押しすることにもなります。この点は関連記事「新薬に最長6-12年のデータ保護期間を与える法案が公開(執筆中)」をご覧ください。

 

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1.始めに

中国の医薬品の承認審査の制度改革に関連して、今、医薬品の監督官庁である国家食品薬品監督管理局(SFDA)によって「医薬品の承認審査(登録)に関する管理弁法」の改正作業が進んでいます。今回の「中国医薬品ビジネス レポートNo.4」では、かかる制度改革に焦点を当てて、解説したいと思います。

2.薬事行政の政府組織の変遷

中国では、過去二十年、医薬品の薬事行政を司る組織は、幾度かの変遷を経て今日に至っています。当初、国家薬品監督管理局(SDA)と呼ばれていましたが、その後、国家食品薬品監督管理局(SFDA)に変わり、次いで、国家食品薬品監督管理総局(CFDA)となりました。現在では、この略称、CFDAで呼ばれています。
このような変遷の中で、中央政府による薬事行政の本格的な幕開けは、1998年3月に国家薬品監督管理局(SDA)が国務院の直轄部門として誕生した時に始まったと言えます。2003年には国家食品薬品監督管理局(SFDA)と改称し、「副部級」(副省庁ランク)の国務院の直轄部門になりました。2008年には衛生部(日本の省)の管轄下に置かれ、「国家局」に格下げとなりました。現在の姿であるCFDAは、2013年の行政組織改革の際に「正部級」(省庁ランク)の国務院の直轄機構に昇格されて出来上がりました。このように、医薬品行政の監督官庁は、汚職等の社会問題にも巻き込まれながら紆余曲折を経て今の姿になっていると言えます。

3.医薬品の承認審査(登録)制度の発展

1)黎明期

医薬品の承認審査(登録)制度の基本となる法規は「医薬品の承認審査(登録)管理弁法」です。その前身である「新薬審査弁法」が制定された1999年当時には、まだ「医薬品の承認審査(登録)」の概念が明確に提唱されておらず、「医薬品審査」という行政用語が一般的に使われていた程度でした。2001年に改正された「医薬品管理法」(日本の薬事法に該当)の公布・施行、及び2002年の「医薬品管理法実施条例」の施行等を背景に、「医薬品の承認審査(「登録」管理弁法(試行)」が誕生しました。ここで初めて「医薬品の承認審査(登録)」という概念が中国で樹立されました。これをもって医薬品の承認審査を統一的に規制する法規が正式に立ち上がったことになります。

2)新薬R&Dの立ち上がり期

初代SFDA局長である鄭篠萸が署名した2005年第17号局令により、「医薬品の承認審査(登録)管理弁法」が正式に公布され、その際、同時にそれまでの「医薬品の承認審査(登録)管理弁法(試行)」が廃止されました。これはSFDAが「行政許可法」に基づき改正した最初の省令でした。2007年7月10日、鄭局長は、約649万人民元の収賄罪及び職務怠慢罪により北京で死刑執行。その当日、新任局長の邵明立が第28号局令を署名、その新令の公布と同時に旧法を廃止しました。正に、「人亡政息 」(人が死に、その政策も廃止される)を目のあたりにすることとなりました。当時のこのような「大火事の後の火の用心」とも言える法改正は、国家による医薬品の監督体制についてのイメージ回復という政治使命の達成を目的としていたとも言えます。

3)イノベーションを視野に

2013年、新設置の国家食品医薬品監督総局(CFDA)の初代局長に張勇が任命されることとなりました。彼には、社会の期待も厚く、特に国務院総理の李克強の願望に応えて、最も厳しい食品・医薬品の安全監督体制を構築しようとしました。CFDA設置後、「医薬品の承認審査(登録)管理弁法」の改正について、2013年と2014年の2回にわたって意見徴収稿(パブリック・コメントを求める草案)を公布したものの、その内容は現行規制の範囲内で改善を追求するといった手法に留まっていました。一方、地方の薬事に関する行政監督体制の改革が遅れ、そして現場の監督執行力も弱いため、薬事行政改革の不徹底に対して、社会から様々な非難が浴びせられました。結局、局長の張勇は1年10か月の短い任期で退任せざるを得ませんでした。当時の改正草案も草案のままで、遂に、正式に公布・施行までには至りませんでした。

4.2015年 / 薬事制度改革の幕開け

2015年に医薬品の監督・管理体制には巨大なうねりが巻き起こりました。承認審査制度に関して、非常に重要な新政策が相次いで発表されました。即ち、国務院が2015年8月18日に発表した「医薬品・医療機器の承認審査制度の改革に関する意見」(国発(2015)44号),及びCFDAが公布した「医薬品の承認申請の滞貨問題を速やかに解決する為の政策意見の徴取についての公告」(2015年第140号通達)、という2つの通達です。
この2つの通達を比較すると、国発44号とCFDA第140号通達が共通する内容は、主として次の通りです。
(i) ジェネリックの品質と先発医薬品の品質との一致性
(ii) 臨床的な価値を有する医薬品を創出する為のイノベーションの奨励、及び臨床的に緊急度の高いイノベーション新薬の承認・審査の期間の短縮化、
(iii) 承認申請における虚偽・不正行為を厳しく取り締まること。

国発44号通達にはなく、CFDA第140号通達にのみ規定された内容については、例えば、先発医薬品とジェネリックの参入時期に関連して、「特許期限満了の6年前にジェネリックの臨床試験申請の受理を開始すること」と規定されています。即ち、第140号第7条には次の通り定められています。

「特許法の保護を受け、カバーする特許の有効期間内の医薬品について、国家食品薬品監督管理総局は当該特許満了6年前よりジェネリックの臨床試験申請の受理を開始し、特許満了2年前から生産申請の受理を開始すること。この条件を満たさない場合、承認申請を受理しないこと。既に受理したものについては、却下の対象となり、企業は改めて申請すること。」

5.中国 / 複雑な法律体系

1)中央政府の法律体系

中国での医薬品を規制する法体系は、法的効力の優越性の順に、法律、行政法規、部門規則、規範性文書の4種類の法律に分類されます。
(i) 法律:医薬品の規制に密接な関係のある法律は「中華人民共和国 医薬品管理法」です。これは、日本の薬事法(医薬品医療機器等法)に該当。
(ii) 行政法規:国務院が制定・公布した医薬品を規制する行政法規は「医薬品の管理法実施条例」等10本あります。日本の薬事法施行令に該当。
(iii) 部門規則:医薬品の規制に関し、現在有効な主要規則は20本余りあり、「医薬品の承認審査に関する管理弁法」、「薬物の非臨床研究の品質管理に関する規範」等が挙げられます。日本の薬事法施行規則に該当。」
(iv) 規範性文書。日本での通知等(局長、課長)に該当。

例えば、医薬品の承認に関し、現在の制度である、製造工場を有する企業に対して医薬品の承認を与える製造承認制度から、今後は、製造工場の所有を要件としない医薬品上市許可保有者制度(所謂、販売承認制度)の導入を図るとしています。従来、関連の法規定が存在しなかった為、まず国務院の弁公庁(内閣官房に該当)が「医薬品の上市許可保有者制度(販売承認制度)試行法案の公表に関する通知」を発表し、次いでCFDAが国務院の当該通知に基づいて「医薬品の上市許可保有者制度(販売承認)試行関係業務の円滑実施に関する通知」を発表しました。このようにして、上部機関による法規制の改正の方向性に関する通知等の公表に基づいて、下部機関が具体的な規制内容を公表するといった手法により行政の執行目的を達成していると言えます。
特に注意が必要なことは、法的効力の優越性の順番でいうと、国務院が制定する「通知」(通達)は行政法規でありますが、CFDAの「医薬品承認管理弁法」は部門規則です。法体系の中で、法的効力の優越性において、行政法規>部門規則>業務文書という順番になります。中国には特有の各種通達がありますが、それが、国務院が発したものであるのか、CFDAによるものなのかによって、夫々、法的効力が違うことに留意する必要があります。

2)中央政府と地方政府

また、中国では、中央に対する地方という意味で、各省及び北京・上海等の直轄地にはいわゆる「地方性法規」と「地方政府規則」という条例が制定されています。例えば、江蘇省が制定し、江蘇省内の企業等に適用される「江蘇省/医薬品監督条例」は地方性法規であり、これは、法律である「医薬品管理法」及び行政法規である「医薬品管理法実施条例」に基づき、江蘇省の地方政府が自ら制定したものです。この様な条例の下に制定されるのが地方政府規則であり、例えば、「浙江省医療機構医薬品・医療器械使用監督管理弁法」等が挙げられます。

3)「意見徴収稿」(パブリック・コメント)

そのほか、様々な「意見徴収稿」(パブリック・コメントを求める草案)が政府によって公表されています。例えば、最近では、CFDAが公布した「医薬品承認申請の滞貨問題を速めて解決する為の政策意見徴収公告」が挙げられます。この公告は、国務院の部門規則の制定手続きに関して定めている「立法法」及び「規則制定手続条例」の定めに従って、公表されています。即ち、意見徴収(パブリックコメントを求める)とは、この「立法法」及び「規則制定手続条例」に定められえいる法律・規則等の制定手続きの1つと言えます。「意見徴収」は政府が企業との間で意思疎通を図るといった目的で公表されるものですが、意見徴収稿によって業界内で習慣的に実務上行われているやり方を立法化するという趣旨で条文化するケースもあります。但し、意見徴収は、あくまでも改正草案ですから、執行できるという意味での法的効力を有していません。

6.2016年「医薬品の承認審査(登録)に関する管理弁法(修正案)」

2016年は、医薬品の承認審査(登録)に関する制度改革の重要な年であると言えます。「化学医薬品の承認分類についての改革業務に関する法案」の正式公布、「化学医薬品の新承認分類の下での申告資料の要求(試行)稿」及び「上市許可人の制度」の公表に続き、国務院による「医薬品・医療機器の承認審査制度改革に関する意見」(国発(2015)44号)等で示された改正の方向性を具現化するために9年間の長きにわたり改正されていなかった「医薬品承認審査(登録)管理弁法」がいよいよ改正の最終段階に入っています。そのような流れの中で、7月25日に「医薬品の承認審査(登録)管理弁法(改正案)」(以下は改正案と略す)が公表されました。
今回の改正案は現行法である2007年「医薬品の承認審査(登録)管理弁法」と比較すると、イノベーション薬に関連して大きな変革方針が明示されており、その主要なポイントは下記の通りです。

1)特許問題

現行の「医薬品の承認審査管理弁法」には、「第三者(先発品)がすでに中国において特許権を取得している医薬品の場合、申請人(ジェネリック)が承認申請を行うことができる期間は、当該医薬品の特許期間満了前 2 年以内とする」旨の規定があります。改正案では、その時間的な制限を撤廃しています。即ち、「第三者(先発品)が既に中国において特許権を取得している医薬品の場合であっても、申請人(ジェネリック)が承認申請を行うことができる。食品薬品監督管理総局(CFDA)は本弁法に照らして審査を行い、要件を満たすものについては、医薬品の承認証を交付する」という内容に修正するとしています。特許問題については、特許法の下での解決に委ね、CFDAの審査の対象から外すということを意味しています。

2)上市許可人制度(販売承認制度)

医薬品の承認制度は、従来の製造工場を主体とした制度から、医薬品の上市許可保有者制度(販売承認制度)に移行します。この上市許可人制度(販売承認制度)は、上市(販売)承認と製造許可を分離して管理する制度設計となっています。この制度の下では、上市(販売)承認と製造許可とはそれぞれ独立して存在し、上市(販売)承認の保有者は、自ら製造することも出来るし、又、他の製造者に委託して製造することもできます。医薬品産業を単純な製造業として捉える従来の考え方から日米欧の考え方に一歩近づき、医薬品の研究開発によるイノベーションを奨励する意味合いが強いとされています。そして、製薬企業の生産設備の低レベルでの重複を抑制することが出来と考えられており、中国の医薬品産業の高レベルでの発展を更に促すことになると期待されています。

3)新薬イノベーション

監測期間(販売独占期間)が付与される新薬について、再定義することにより「臨床的な価値を有する医薬品の創生・イノベーションを奨励する」との法目的を明確にしました。
その新薬を二つの種類に分類して、第70条に「「イノベーション医薬品」は、明確な臨床的な価値を有しているものをいう。「改良型新薬」は、従来の医薬品より明らかに臨床上優れた点を有している物をいう」と規定しています。このようにして、不必要な偽のイノベーションを避けることを目指し、また承認申請の審査滞貨の原因となっている簡易な改良剤や酸・塩基の変更などの薬剤に対する申請を減らすことに繋がるとされています。今回の改正では、臨床的に価値があるか否か及び優れているか否かを基準にして、イノベーション精神溢れる研究開発の意欲を引き出すことに腐心していることが窺えます。

4)ジェネリック薬の基準

ジェネリック薬及びバイオシミラーの審査基準を「先発薬の品質及び治療効果と一致又は類似すること」と明確化しました。中国はジェネリック薬の大国で、歴史的な経緯もあり、従来、参照用製剤の選択について厳格な規定がなかったため、上市されている一部のジェネリック薬の品質・治療効果には多くの問題があるとされていました。今回の新基準により高品質のジェネリック薬が市場に提供されることになると期待されています。

5)優先審査制度

改正案は、臨床上の必要性及び医薬品の特徴に応じて優先審査制度を設置する旨、言及しています。この制度の直接的な意味は、優先審資の対象となる医薬品の創生を奨励すると同時に、そのような医薬品の上市までの期間を短縮し、研究開発コストの回収を加速させることです。中国では、この制度の実施によって、上述の要件を満たす医薬品を早期に上市し、より多くの患者を救い、または患者の生活の質を高めることに繋がると期待されています。

6)臨床試験実施の柔軟性

臨床試験の実施に関して、第30条に規定されていますが、これは、新しい意味合いがあります。臨床試験をⅠ、Ⅱ、Ⅲ期の順に実施することも、また、一部同時並行して実施することが出来るとされ、得られた臨床試験データーに基づいて、より柔軟に臨床試験を展開することも可能となります。

かかる方向性をもって、「医薬品の承認審査(登録)に関する管理弁法」の改正作業が進められており、遠からず、改正案の最終化がされるものと期待されています。

以上

1. 改正の方向性とその準備状況:

1-1) 改正の方向性 / 特許権の強化

昨年 2015 年 4 月に中国特許庁より公表され、パブリックコメントを募った改正法案に基づき、その改正の方向性について、中国特許法の第四次改正案(前半)にて説明致しました。近年、中国の政府及び国内企業が研究開発の投資を積極化していることを受けて、中国国内の研究機関に於いて、自主技術、自主知財の蓄積が大幅に進んでいます。更には、中国経済が「新常態」に入り、従来の労働・資源集約型の重厚長大産業を中心とした産業構造からの脱却、その為のイノベーションの推進政策に力点が移されています。そのような中国の経済環境の大きな変革の下、特許法の改正準備作業が進んでいると言えます。

このように中国の国内に於ける、自主イノベーション創出の能力が一定水準に達しつつあることから、前回の論説では、中国の国内で生まれたイノベーション・発明の保護を強化する必要性があるとして、主として、知財保護の強化策の具体的な改正の内容について説明致しました。従来、特に、特許の侵害訴訟の局面で、原告の特許権者にとっては、訴訟に時間とコストがかかり、また、侵害・損害の立証に多大なる重荷が背負わされているにも拘らず、裁判所で認定される損害賠償額が低いこと等の問題点がありました。そのような問題点があることから、特許の侵害行為が絶えないといった社会を形成してしまったとも言えることから、これらを改善し、特許の保護レベルを引き上げることにより特許権者の権益を守ることが大きな改正のポイントであるとされています。

1-2) 改正の準備状況

その後、前記のパブリックコメントを求めた法案に基づく議論を踏まえ、更に、修正が加えられ法案が 2015 年 12 年 2 日、再度、バプリックコメントにかけられ、改正法案成立の為の最終プロセスに入っています。尚、昨年末に公表された法案では、前回説明した法律改正の方向性については、大きな変更点はありません。

1-3) 改正の方向性 / 権利の濫用

さて、特許法の改正により特許権の強化が図られれば、イノベーションを促進する効果が期待されますが、他方、特許権の強化による負の効果として、特許権者による特許権の濫用行為が出現することにも備えていく必要があります。日本での事例ですが、筆者は、医薬品の先端技術について、米国企業が日本で有する特許権に基づき、日本企業に対し、特許権の濫用ともいえるライセンス・ビジネス行為が行ったことから、その対応に苦慮し、非常に苦い思いをした経験があります。これは、ある特定の技術分野に関し、日米間に技術格差が存在しており、その格差の実態に直面したことを意味するわけですが、中国と日米欧の間には、それを遥かに超えたレベルで広い範囲において格差が存在しており、特に、知的財産の蓄積の程度については、大きな隔たりがあるとも言えます。中国では、先端技術分野に於いて、多国籍企業がその圧倒的な優位性を生かして、特許権の濫用とも言える行為が過去から数多くあったとされています。それへの対応として、特許のすり抜け行為、重複する侵害行為がなされてきたという面も否定できないようにも思われます。また、前述の通り、中国の国内企業等のイノベーション力がある一定レベルに達し、知財保護強化が必要な社会情勢になっているという背景がある一方で、中国の国内企業同士による特許侵害の訴訟合戦も多発するようになりました。このことは、社会コストの浪費につながります。このような背景の下で、改正法案では、特許権者が特許権の濫用に該当する行為をなすことを禁止する規定が追加されました。

知財強化を図ると同時に、その負の側面としての特許権者による特許権の濫用に該当する行為を、特許法上、明確に禁止することにより、両者のバランスを図ろうとしていると言えると思います。

2. 特許権の濫用とは:

特許権の濫用とは、特許制度の趣旨、即ち、科学技術・イノベーションの推進という制度の趣旨を逸脱して、特許権に基づいて、特許権者が不公正な権利行使をすることです。一般論として言えば、例えば、本来は無効であるような特許権に基づいて特許権の権利行使をすること、パテントトロール(特許侵害訴訟を提起すると脅して、許諾料・ロイヤルティーを漁る行為)、自己は実施しないにも拘らず、第三者がライセンスの許諾を求めてきた時にこれを拒絶する行為、更には、ライセンス契約において、特許権者が優越的な地位をむさぼって、ライセンシーに不公正な契約条件を押し付けること(グラントバック、最低ロイヤルティー支払い義務等)、特許独占(基本特許をベースに広範な特許網を取得・買い漁る)行為等が挙げられます。

では、具体的にどのような要件を満たせば、特許権の濫用に該当して、その場合、どのような法的な効果をもたらすのかについて、先ず、日本の制度と比較しながら現行の中国の法律(特許法の改正前)の全体構成を見ていきたいと思います。

3. 特許権の濫用に関する中国の現行の法的枠組み:

特許権の濫用を規制している法律としては、契約法、独禁法、特許法がありますが、夫々、どの様な観点から規制しているのかを見ていきたいと思います。

3-1) 契約法

「不法に技術を独占し、技術の進歩を阻害- – – – – する技術契約は無効」(契約法§329)としており、具体的に、どのような契約条項が「不法に技術を独占し、技術の進歩を阻害する」に該当するのかは、「技術契約の紛争の審理に関する司法解釈」§10 に、六類型が挙げられており、グラントバック、競合技術の採用制限、不合理な生産量・価格等の制限、原料購入義務、不争義務等が含まれます。

特許権者がその優越的な地位を乱用して、特許ライセンス契約に前記のような不公正な条項を盛り込み、ライセンシーにその履行を求めることは、特許権の濫用の一形態として捉えられますが、そのような契約は無効であり、特許権者は当該ライセンス契約で取得したロイヤルティーの返還義務を負い、また、過失ある場合には、損害賠償の責めを負います(契約法§58)。

3-2) 独禁法

「知的財産権を濫用して、競争を排除・制限する行為には、独禁法が適用される」(独禁法§55)として、特許権の濫用については、濫用行為の内、競争を排除・制限に至る行為についてのみが、独禁法の適用対象に入ってくるとしています。具体的には、「独禁法ガイドライン」に、上記で説明した契約法の下で無効とされている契約条項、行為の類型以外に、ライセンス拒絶、抱き合わせ、競争を排除するパテントプール・技術標準等について、ある一定の要件を満たした場合には、該当行為にあたるとして、当局による、停止命令、罰金刑の処罰の対象になるとしています。(詳しくは、日中の視点 / 知的財産権法 No.10 参照)尚、日本でも独禁法のガイドラインの下で、これに相当する考え方が示されています。

3-3) 特許法
① 独占行為と強制実施権

独禁法の下で、特許権の濫用であって、独占行為の対象と認定された特許権については、中国の特許庁は、特許法の規定に従って、第三者の請求に基づいて、強制実施権を設定することが出来るとされています(中国特許法§49)。従って、上記の独禁法の項で述べたように、特許権を濫用し、そのことによって競争を排除・制限する行為の基礎となった特許権については、第三者は、特許庁に申し立てることにより、特許権者の意向に拘らず、合理的なロイヤルティーを支払う等を条件としてライセンスが許諾されることを求めることが出来ます。中国では、この規定に基づいて、強制実施権が特許庁によって発動された事例はないとされますが、特許権者による特許権の濫用行為に対する法的制裁措置が準備されていると言えます。尚、日本の特許法上には、このような規定はありません。

② 特許権の効力が及ばない範囲

中国特許法§69 には、特許権の効力が及ばない範囲が示されています。
例えば、特許権者が中国国外で販売した製品が中国国内に入って来た場合、当該製品(並行輸入品)に対しては、中国特許権の効力は及ばないと規定されています(中国特許法§69-1)。更には、試験研究行為、ジェネリック品の医薬品としての許認可を取得する為に開発行為に対しても同様に特許権の効力が及ばないとされています。概念的には、このような特許権の効力が及ばないとされる範囲に入っているにも拘らず、特許権者がそれに対して特許権を行使したような場合には、特許権の濫用行為に該当することになるとも言えます。尚、日本の特許法においても、特許権の効力が及ばない範囲についての規定があり、更には、最高裁の判例に基づいて、中国特許法に列挙される該当行為については、特許権の効力が及ばないとされています。

③ 無効の特許権に基づく権利行使

日本では、無効であることが明らかな特許権に基づいて、特許権者が第三者に対し特許侵害訴訟を提起するような場合、被告側の当該第三者は、裁判所で特許が無効である旨の抗弁を主張することが出来ます(日本特許法§104の三)。権利の濫用は許さないという考え方が基本にあります。一方、中国では、裁判所でそのような主張をすることは許されず、被告は特許庁に対して、特許の無効審判を申し立てする必要があります。そのような場合、裁判所では、特許庁での無効審判の結果が出るまで、裁判官の裁量で審理の中止の決定が可能です。尚、被告側は、特許権の無効を主張(例えば、当該特許の出願時に特許発明は既に公知であったとして特許の無効を主張)できない代わりに、自己の実施している技術が当該特許の出願時に既に公知であった技術であることを証明することによって、侵害の成立を免れることは可能です(中国特許法§62)。

また、ある特許権に基づいて、侵害訴訟を提起する等の権利行使がされ、その後、特許庁(最終的には裁判所)によって当該特許の無効が確定したような場合、特許権者に悪意がある場合には、特許権者は損害賠償義務を負わねばならないとされています(中国特許法§47)。

4. 特許権の濫用に関する特許法改正後の法的な枠組み

上記で述べた通り、特許権の濫用については、既に、契約法及び独占禁止の下で、要件は異なるものの、夫々、該当契約は無効であること及び濫用行為の停止命令等の対象になるとされています。他方、特許法には、特許権者が特許権の濫用に該当する行為をしたような場合には、特許庁が強制実施権を設定できる等の措置を講じることが出来ますが、直接的にこれを禁止する原則的な規定はありませんでした。

今回、特許法の改正法案の§14 には新設規定として、下記が盛り込まれています。

「特許の申請、特許権の権利行使は、信義誠実の原則に基づかねばならない。特許権を濫用し、公共の利益を損なうこと、または、不合理に競争を排除・制限してはならない。」

独占権としての特許権に基づいて特許権者が権利行使する場合には、たとえ、それが特許権の権利範囲に入っていたとしても、どの様な場合にも権利行使が出来るというわけではありません。自ずと、制限がかかります。改正法では、特許権の権利行使は、信義誠実の原則に基づかなければならない、そして、特許権を濫用することによって、公共の利益を損なう行為、更には、特許権を濫用することによって不合理に競争を排除・制限することは禁止すると、その大原則が規定されています。

法改正後は、例えば、特許侵害訴訟の場面に於いても、被告側は、侵害の成立を免れるために、§14 に基づく抗弁を主張することが可能となります。ここで、特許権の濫用であって、§14 の要件を満たす特許権者の行為とは、具体的にはどのような行為をさすのかが問題となります。少なくとも、上記3で説明した行為が含まれることになると思いますが、更にどの範囲まで拡張されうるのか、現時点では定かではありません。但し、ここで注意が必要なことは、この抗弁が成立する為には、「特許権の濫用」だけでは要件を満たさず、条文にある通り、「公共の利益を損なう」こと、または、「不合理に競争を排除・制限する」ことの要件を満たす必要があります。その意味では、被告が§14 に基づく抗弁が認められるためのハードルは低くはないとも言えます。

尚、昨年末、国務院は、「知的財産権の濫用に関する独禁法ガイドライン」(案)を公表して、パブリックコメントを求める手続きに入っています。このガイドライン(案)では、独禁法の観点で、知的財産権の濫用(特許権の濫用を含む)について、特に、競合関係にある企業間に於ける共同研究の実施・パテントプール、技術標準、及び競合関係にない企業間でのライセンス契約に含まれる不当な契約条件等(グラントバック、不争義務等)に関連しこのように、特許法の改正により、特許権の強化を図る為の政策が推進されている一方で、それに並行して、特許権の権利行使に対して、社会公共の利益を確保し、また、市場での各技術間の競争が損なわれないよう、特許権の濫用を防止する為の施策も打ち出されてきており、制度面で権利強化との間で両者間のバランスを図ろうとしていると言えます。

以上

1.実施行為(特許侵害)と研究開発行為

特許権者は特許発明を「実施」する権利を占有する、という日本特許法の規定(§68)、これをどう理解するのか、僕の特許の売り買いの仕事の中では、一番重要な事です。ここで、「実施」とは、ですが、特許発明が新規の医薬品であれば、その新規特許医薬品を製造、「使用」、販売、輸出・輸入—-することを指します(§2③)。この実施行為の一つに挙げられている「使用」とは、広い概念であって、新規特許医薬品を使用すること、即ち、新規医薬品を用いて研究すること、開発することが含まれています。一方で、特にアカデミア・サイドの研究を企業の特許の権利行使から保護する為に、特許法は、特許権の効力の及ばない範囲の規定の中に、特許権は試験研究の実施には及ばない、と盛り込んでいます(§69①)。即ち、原則、所謂、研究による「使用」は、非侵害行為とされます。

2.医薬品の臨床開発行為と特許侵害

次に、開発(臨床開発を含む)による「使用」ですが、例えば、ジェネリック企業が第三者の有する特許でカバーされる新規特許医薬品をその有効期間中に開発(実施)することは、特許権者の特許発明を「実施」する権利を侵害することになるのか? これについては、米国では、特許法271(e)(Bokar条項)により、非侵害行為、日本では、特許法に明文の規定はないものの最高裁の判例により非侵害行為と考えられています。 そして、この非侵害のコンセプトは、特許権者には一方的に不利に働くので、新医薬品の特許期間の延長(20年を25年間に延長)規定とセットで制度に導入された経緯があります。さて、中国では。

中国では、特許発明の「実施」行為の範囲については、専利法§11に規定されており、日本のそれと同じと考えて問題ないです。そして、日本と条文番号が全く同じなのですが、専利法§69に、特許権の効力が及ばない範囲の規定があり、非侵害行為が列挙されており、その(5)に、Bolar条項が盛り込まれています。即ち

「行政当局への承認申請の為に必要なデータを提出する目的で、特許医薬品–を製造、使用、輸入する行為、及び専ら、その為に特許医薬品–を製造し、輸入する行為は、特許権の侵害行為とはみなされない。」

後段の所で、特許医薬品の治験薬等の製造行為自体が非侵害行為であると明記していますので、製造受託企業(CMO)は、申請目的である限り、ジェネリック企業からの製造受託を請け負っても侵害問題は発生しないことになります。
前記の通り、米日では、このボーラー条項は特許期間の延長とセットで制度に組み込まれましたが、中国では、前者だけの導入であり、片手落ちの状況です。現時点では、新規医薬品の特許権者は殆どが外資ですが、今、中国の内資による特許出願が急速に膨張していますので、特許期間の延長制度がいつかは議論の俎上に挙がってきてもいいよう思います。ただ、日米と違って、ジェネリックがこれだけ市場を押さえている現状はそう早くは変わらないでしょうから、中国国内の両グループのせめぎ合い、日米とはまったく違った視点からの解決にならざるを得ないように思います。