【動きあり!】医薬品データ保護制度 & 販売独占保護制度の具体化

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最終更新日: 2022/05/25

1.中国での新薬等の知財保護制度の現状の概略(as of 2022年5月)

中国の新薬知財保護の改革の二本柱のうち、特許期間の延長に関しては、改正された特許法(2021年6月発効)で明文化されました。「医薬品特許期間の延長制度について全人代・両会で議論される」で述べているように、細部の議論(重要な)は残されていますが、延長制度は実務上、動き出しています。

中国の新薬知財保護の改革の二本柱のうち、もう一つの柱であるデータ保護とは、NMPA(薬事当局)が対象となる新薬等に対して、特許の有無に関わらず一定期間の保護を与え、その期間はジェネリック薬の承認を原則として下ろさないというものです。日本では新薬等の承認後の「再審査期間/先発権」、米国では「販売独占権」、欧州では「データ保護制度」と呼ばれていますが、中国では「データ保護」の名の下で制度化が進められています。

中国での新薬イノベーション推進政策の流れの中で、2017年10月に党中央・国務院が「医薬品・医療機器の承認申請制度の改革の強化及びイノベーションの推進に関する政策」を公表し、その中でデータ保護制度を創設する方向性が示されました。それを踏まえて、翌2018年5月に「データ保護弁法(案)」弁法が公表されました(「新薬データ保護期間の新法案と動向のまとめ」を参照)。ところが、いまだ制度として運用されていないのが現状です。そのデータ保護に関して、中国で新たな動きがありました。

2.薬事法実施条例(案)の公表(2022年5月9日)

2019年に全人大常務委員会の承認を経て発効した改正「医薬品管理法」および2020年7月のNMPAによる「医薬品登録管理弁法」には、データ保護制度についての言及がありませんでした。その後待たれていましたが、最近公表された「中華人民共和国医薬品管理法実施条例改正案(パブリックコメント募集稿)药品管理法实施条例(修订草案征求意见稿))」にデータ保護の規定が盛り込まれました。それに加えて、小児薬、オーファン薬の開発推進を目的として、データ保護の枠組みとは別建てで販売独占保護制度に関する規定が新設されています。なお「医薬品管理実施条例」は、「医薬品管理法」の下で定められる行政法規であって、最終化された場合国務院の批准を経て、正式に発布されることになります。

3.データ保護

「実施条例(案)」の第2章(医薬品の研究開発と許可・登録制度)第5節(医薬品の知財保護)中の第40条に、販売承認された医薬品の一部については、販売承認申請に含まれた未公開データ等についてデータ保護し、その後、6年間、第三者(ジェネリック企業を含む)が販売承認取得人の同意を得ずに、当該データを申請に使用できないとの趣旨で規定されています。

第四十条【数据保护】  国家对获批上市部分药品的未披露试验数据和其他数据实施保护,药品上市许可持有人以外的其他人不得对该未披露试验数据和其他数据进行不正当的商业利用。

自药品上市许可持有人获得药品注册证书之日起6年内,其他申请人未经药品上市许可持有人同意,使用前款数据申请药品上市许可的,国务院药品监督管理部门不予许可;其他申请人提交自行取得数据的除外。

中华人民共和国药品管理法实施条例(修订草案征求意见稿)

前記の「データ保護弁法(案)」では、新薬の保護期間は原則6年としながら、例えば、海外データのみで申請した場合、その期間が1/4に短縮される等の制限がありました。しかしながら今回の「実施条例(案)」には、承認された一部の医薬品が6年のデータ保護対象になるとしているだけで、短縮の要件等に関する記載はありません。なお、販売承認が付与されている新薬等について、第三者(ジェネリック企業等)が申請データを自前で開発・取得して、ジェネリック薬を申請した場合には、たとえ、保護期間中であったとしても申請は認められます。その点は、日本の再審査制度による新薬保護の制度と同様です。

前述した通り、新薬保護に関して特許法の改正は曲がりなりにも前進しているものの、医薬品管理法の下でのデータ保護制度の新設改正は牛歩となっています。中国の大きな流れは新薬のイノベーションの推進ですが、特許法に比べて医薬品管理法の下での制度改革は、既得権益グループたるジェネリック企業の圧力に強くさらされる環境にあるということです。

4.小児薬、オーファン薬の販売独占保護制度

小児薬、オーファン薬の開発促進を目的として、「実施条例(案)」の第2章(医薬品の研究開発と承認・登録制度)第3節(医薬品の販売許可)に下記の趣旨で規定が新設されています。

1)小児薬

小児医薬品の新製品・新剤型・新規格等に対して、NMPAは、開発・申請期間中に開発会社と意思疎通を図りサポートするとともに、優先審査制度の下で、短期間の審査で、早期に販売承認の付与を図るとしています(「実施条例(案)」第28条1号)。

さらには、小児薬の新製品・新剤型・新規格・小児の適用症もしくは用法用量の追加に対して、12か月を超えない期間の販売独占権を付与し、当該期間中は、同種の製品について第三者(ジェネリック薬を含む)に販売許可を付与しないとしています(第28条2号)。

二十八条【儿童用药】  国家鼓励儿童用药品的研制和创新,支持药品上市许可持有人开发符合儿童生理特征的儿童用药品新品种、新剂型、新规格,对儿童用药品予以优先审评审批。在药物研制和注册申报期间,加强与申办者沟通交流,促进儿童用药品加快上市,满足儿童患者临床用药需求。

对首个批准上市的儿童专用新品种、剂型和规格,以及增加儿童适应症或者用法用量的,给予最长不超过12个月的市场独占期,期间内不再批准相同品种上市。

鼓励申请人在提交药品上市许可申请时提交儿童剂型、规格和用法用量等的研发计划。

中华人民共和国药品管理法实施条例(修订草案征求意见稿)

2)オーファンドラッグ

NMPAは、臨床上差し迫った必要性のあるオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の販売承認申請に対して、開発・申請期間中に開発会社と意思疎通を図りサポートするとともに、優先審査制度の下で、短期間の審査で早期に販売承認の付与を図るとしています(「実施条例(案)」第29条1号)。

さらには、オーファン薬の新薬について、販売承認取得人が供給の保証を約することを前提に7年を超えない期間の販売独占権を付与し、当該期間中は同種の製品について第三者(ジェネリック薬を含む)に販売許可を付与しないとしています(第29条2号)。

第二十九条【罕见病】  国家鼓励罕见病药品的研制和创新,支持药品上市许可持有人开展罕见病药品研制,鼓励开展已上市药品针对罕见病的新适应症开发,对临床急需的罕见病药品予以优先审评审批。在药物研制和注册申报期间,加强与申办者沟通交流,促进罕见病用药加快上市,满足罕见病患者临床用药需求。

对批准上市的罕见病新药,在药品上市许可持有人承诺保障药品供应情况下,给予最长不超过7年的市场独占期,期间不再批准相同品种上市。药品上市许可持有人不履行供应保障承诺的,终止市场独占期。

中华人民共和国药品管理法实施条例(修订草案征求意见稿)

5.今後について

過去、医薬品市場におけるジェネリック薬の存在感が非常に強い中国では、新薬の知財保護が十分に与えられていなかったのが実情でした。ところが、2015年来の薬事制度改革を経て、中国の医薬品企業による新薬の研究開発が更に推進され、例えば2021年、中国で付与された新薬の販売承認83件の内、中国の医薬品企業の新薬が51件を占めました。中国のdomesticな新薬(グローバルには通用しない)が含まれているとしても過去と比べて飛躍的な増加です。中国の国内で豊富に育ってきている「人材」、さらには力強い研究開発「投資」に裏付けされた医薬品企業のイノベーション推進力は著しいものを感じます。その結果として得られた知的財産の保護の必要性が今後、益々、重要性を帯びてきているのが現状です。その意味でも、新薬のデータ保護制度の具体的な導入も、いよいよ具体化してくるものと思われます。

Author Profile

川本 敬二
弁理士 (川本バイオビジネス弁理士事務所(日本)所長、大邦律師事務所(上海)高級顧問)

藤沢薬品(現アステラス製薬)で知財の権利化・侵害問題処理、国際ビジネス法務分野で25年間(この間、3年の米国駐在)勤務。2005年に独立し、川本バイオビジネス弁理士事務所を開設(東京)。バイオベンチャーの知財政策の立案、ビジネス交渉代理(ビジネススキームの構築、契約条件交渉、契約書等の起案を含む)を主業務。また3社の社外役員として経営にも参画。2012年より、上海大邦律師事務所の高級顧問。現在、日中間のライフサイエンス分野でのビジネスの構築・交渉代理を専門。仕事・生活のベースは中国が主体、日本には年間2-3か月滞在。
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