臨床段階にあるCOVID-19の中国国産mRNAワクチン一覧


最終更新日: 2022/05/26

中国では6剤の新型コロナワクチンが販売承認を得ています。不活化ワクチンが4剤、組み換えたんぱくワクチンが1剤、アデノウイルスベクターワクチンが1剤です。しかしながら、ファイザーとBioNtechが2020年末に世に出したようなmRNAワクチンは、中国ではいまだに上市されていません(复星(Fosun)が販売権を取得)。しかし、中国企業が自主開発しているmRNAの臨床開発は着々と進んでいます。下記がプロジェクトのリストです(IND許可取得の順に掲載)

開発企業プロジェクト名称IND承認時期開発段階
艾博生物(Abogen)
沃森生物(Walvax)
軍医学研究院
ARCoVax2020年6月Ph III終了(データ整理中)
斯微生物(Stemirna)SW01232021年1月
2022年4月
Ph I
艾美ワクチン(AIM)LVRNA0092021年3月Ph II/III
鋭博生物(RiboBio)
阿格納生物(広州呼吸疾病研究所)
2021年11月Ph I
石薬集団(CSPC)SYS60062022年4月Ph I
康希諾生物(CanSinoBIO)2022年4月Ph I/II

<石薬集団(CSPC)と康希諾生物(CanSinoBIO)については、https://www.kawamotobbp.jp/articles/1717 を参照>

1. 艾博生物(Abogen)・沃森生物(Walvax)/ ARCoVaX

中国国産のトップバッターはARCoVaXです。脂質ナノカプセル剤で、スパイク蛋白RBD領域をターゲットにして中和抗体を誘導します。艾博生物(Abogen)が軍医学研究院との共同研究によって創生したワクチンです。艾博生物(Abogen)は、2020年5月、沃森生物(Walvax)と共同ワクチン開発契約を締結しています。当該契約下で、沃森生物は契約金(アップフロント・マイルストーン・ロイヤルティ)を艾博生物に支払い、臨床開発・事業化の責任を負っています。

2020年6月に臨床試験の開始申請(IND)を当局(NMPA)が許可、その後、2021年7月に中国でPh IIIを開始、さらには同9月に国際共同治験(Ph III)が立ちあがっています。同11月には、沃森生物が製造許可を取得。そして、2022年3月に中国のPh IIIが終了し、現在データの収集中です。なお、2022年1月24日に、Ph Iの臨床試験の結果がLancet Microbeに公表されています。

艾博生物(Abogen)は、mRNAと脂質ナノ粒子(LNP)の技術をベースに2019年に設立されたベンチャーです。資金調達面でも突出しており、昨年一年間でB, C 及びC+シリーズの調達で計1300億円相当の資金を獲得しています。

2. 斯微生物(Stemirna)

二番目は、斯微生物が開発したSW0123(DF104B1)です。2021年1月に中国で臨床試験の開始申請(IND)が許可され、同3月にPh Iが開始。その後、変異株対応のワクチンを開発し、2022年4月に中国で臨床試験の開始申請(IND)を行っています。

斯微生物(Stemirna)はmRNA企業として、ナノ脂質DDS技術をベースに、2016年に上海で設立されたベンチャー企業です。

3. 艾美ワクチン(AIM)/ LVRNA009

三番目は、艾美ワクチン社が開発したLVRNA009で、2021年3月に中国で臨床試験の開始申請(IND)が認められ、現在Ph II/IIIを実施しています。

艾美ワクチン社は、2011年に設立された会社ですが、その後、ワクチン製造会社等の買収を重ねており、現在は各種ワクチン(肝炎、狂犬病等)を製造・販売するに至っています。

4. 鋭博生物(RiboBio)/ 阿格納生物

広州呼吸器疾病研究所の参画によって立ち上がったブロジェクトで、鋭博生物(RiboBio)/阿格納生物が2021年11月に中国で臨床試験の開始申請(IND)の許可を取得、2022年1月にPh Iが開始しました。

鋭博生物 (RiboBio) は2004年に核酸合成等のCDMOとして広州に設立され、遺伝子編集を含む各種のCROサービスも提供してきました。阿格納生物2021年に広州で設立されたRNA医薬の研究開発企業です。

5. 石薬集団(CSPC)/ SYS600

6. 康希諾生物(CanSinoBIO)

この他に、10の前臨床研究が進められています。

日本との関係

日本企業は、これまでベンチャーも含めてRNA医薬の研究開発に取り組んできましたが、mRNAコロナ・ワクチンについては開発の戦列に参加できていません。中国では、mRNAコロナ・ワクチンはPD-1抗体ほどのR&D大競争状態にはなっていませんが、少なからずの企業がその開発に向けて鞭を打っています。この技術蓄積によって、来るべき次のウイルスからの攻撃に対しR&D体制の準備が整いつつあると言えます。そういった意味で、今後日中間の技術連携の必要性が増してくるのではと思います。

Author Profile

川本 敬二
弁理士 (川本バイオビジネス弁理士事務所(日本)所長、大邦律師事務所(上海)高級顧問)

藤沢薬品(現アステラス製薬)で知財の権利化・侵害問題処理、国際ビジネス法務分野で25年間(この間、3年の米国駐在)勤務。2005年に独立し、川本バイオビジネス弁理士事務所を開設(東京)。バイオベンチャーの知財政策の立案、ビジネス交渉代理(ビジネススキームの構築、契約条件交渉、契約書等の起案を含む)を主業務。また3社の社外役員として経営にも参画。2012年より、上海大邦律師事務所の高級顧問。現在、日中間のライフサイエンス分野でのビジネスの構築・交渉代理を専門。仕事・生活のベースは中国が主体、日本には年間2-3か月滞在。
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