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中国で「医薬品管理法実施条例」(「新条例」)の改正版が公布されました(2026年1月16日公布、2026年5月15日施行)。今回の改正は2002年の施行以来、23年ぶりの全面刷新となります 。その中では新薬のデータ保護・希少薬・小児薬の販売独占権(「保護制度」)の付与が盛り込まれています。

先ず、「新条例」の改正のポイント、続いて「保護制度」の概要を解説します。

1.「新条例」の改正のポイント

1) 医薬品のR&D・承認制度の充実(イノベーションの促進)

新薬開発を加速させ、病院の臨床現場のニーズに応えるための制度が下記の通り強化されました。

  1. 「臨床価値」の重視:患者さんへのメリット(臨床価値)を軸とした研究開発を推進し、臨床現場で使用されることの奨励。「臨床価値」のある新薬の開発促進の為に、➁の「ファーストトラック」制度の実行。(新条例§3、15)
  2. 販売承認審査の「ファーストトラック」法制化:突破的治療薬、条件付き承認、優先審査、特別承認の4つの迅速審査ルートが行政法规として明文化。(新条例§15)
  3. データ保護&販売(市場)独占期間の新設(新条例§21):後述
  4. 海外データの活用:条件を満たす海外の研究データを中国での販売承認申請に使用することを認め、海外新薬の中国への導入を加速 。(新条例§10)

2) 製造・委託管理の柔軟化と厳格化

  1. 「分段委託生産」の解禁:従来の単一工場での生産モデルから脱却し、新薬の工程別委託生産(CMOでの分段生産)を容認 。(新条例§32)
  2. 先行生産の容認:販売承認取得前に製造された製品について、承認取得後の販売を認める方針 。(新条例§36)

3) 経営・ネット販売の適正化

  1. オンライン販売の規制:販売承認保持者(MAH)が最終責任を負うことを前提に、オンラインのプラットフォーム側が門番となり全行程をコントロールする管理責任を負う。(新条例§45)
  2. 処方薬の厳守:薬局・小売りにおける「処方箋に基づく処方薬販売」の厳格化 。(新条例§43)

4) 監督管理と法的責任

  1. 責任主体の転換:管理の重点を従来の「生産・販売企業」から「販売承認保持者(MAH)」へ移し、全ライフサイクルにわたる主体責任を強化 。(新条例§64、 68)
  2. 厳格な罰則:違法行為に対しては厳格な法的責任を設定し、抜き打ち検査や再検査の手順も細分化。(新条例§63、79等)

2.データ保護&販売(市場)独占期間について

1)低分子医薬の新薬(一類)のデータ保護(新条例§22)

(i) 新規有効化学成分(低分子)の新薬(1類)及びその他の条件に合致する医薬品(「それ以外の医薬品」)については販売承認付与日から「6年を超えない期間」、販売承認保持者が自身で実施取得したデータ(未公開)であって販売承認申請時に薬事当局(NMPA)に提出したデータは保護されます。従って、当該保護期間中は、ジェネリック企業等の第三者は、当該販売承認保持者の同意を得ずに当該データを引用して販売承認申請(ジェネリック申請)することが出来ません。

(ii) 然しながら、具体的な期間の計算方法、保護対象となる「それ以外の医薬品」の範囲等については、現段階では明定されておらず、今後、公表される関連「細則」で明確化される見通しです。この「細則」は、「新条例」が施行される2026年5月15日以前には、公布されると考えるのが順当ですが、多少のタイムラグが発生することもあり得ます。

(iii) 尚、保護対象となる新規有効成分の新薬以外の「それ以外の医薬品」とは、例えば、新規の剤型・適用症・投与経路等の医薬品が含まれ、当該医薬品に関するデータも保護されることが想定されています。

2) 希少疾患用薬・小児薬の販売(市場)独占期間の付与(新条例§21)

2-1) 希少疾患用薬

販売承認保持者が市場に商品の供給を保証することを条件に、「7年を超えない期間」の販売独占期間が付与されます。上記の新薬のデータ保護は、第三者(例えば、ジェネリック企業)が自身で新薬の販売承認取得に必要なデータ(フル・データ)を取得して申請した場合は、当該第三者は販売承認を取得できます。これに対して、希少薬の場合は、上記の販売独占期間はいずれの場合であっても、第三者には販売承認はおりません。但し、販売承認保持者が商品の供給を怠った場合には、独占期間は終了します。

2-2) 小児用薬

小児用薬であって、新剤型・規格の薬剤及び小児への適用拡大の薬剤は、「2年を超えない期間」の販売独占期間が付与されます。

尚、希少疾患用薬・小児用薬の独占期間付与に対する条件等は将来公布される細則で公表される予定です。

3)保護の纏め

新薬(一類)、新適用症等希少疾患用薬小児用薬
保護制度データ保護販売独占期間販売独占期間
保護対象未公開データ対象薬剤の市場対象薬剤の市場
保護方式第三者のデータ引用を禁止第三者に販売承認を付与せず第三者に販売承認を付与せず
保護期間最大6年最大7年最大2年

保護期間の計算方式・付与条件等を規定する「細則」が公表され次第、改めて報告致します。


1.中国での新薬等の知財保護制度の現状の概略(as of 2022年5月)

中国の新薬知財保護の改革の二本柱のうち、特許期間の延長に関しては、改正された特許法(2021年6月発効)で明文化されました。「医薬品特許期間の延長制度について全人代・両会で議論される」で述べているように、細部の議論(重要な)は残されていますが、延長制度は実務上、動き出しています。

中国の新薬知財保護の改革の二本柱のうち、もう一つの柱であるデータ保護とは、NMPA(薬事当局)が対象となる新薬等に対して、特許の有無に関わらず一定期間の保護を与え、その期間はジェネリック薬の承認を原則として下ろさないというものです。日本では新薬等の承認後の「再審査期間/先発権」、米国では「販売独占権」、欧州では「データ保護制度」と呼ばれていますが、中国では「データ保護」の名の下で制度化が進められています。

中国での新薬イノベーション推進政策の流れの中で、2017年10月に党中央・国務院が「医薬品・医療機器の承認申請制度の改革の強化及びイノベーションの推進に関する政策」を公表し、その中でデータ保護制度を創設する方向性が示されました。それを踏まえて、翌2018年5月に「データ保護弁法(案)」弁法が公表されました(「新薬データ保護期間の新法案と動向のまとめ」を参照)。ところが、いまだ制度として運用されていないのが現状です。そのデータ保護に関して、中国で新たな動きがありました。

2.薬事法実施条例(案)の公表(2022年5月9日)

2019年に全人大常務委員会の承認を経て発効した改正「医薬品管理法」および2020年7月のNMPAによる「医薬品登録管理弁法」には、データ保護制度についての言及がありませんでした。その後待たれていましたが、最近公表された「中華人民共和国医薬品管理法実施条例改正案(パブリックコメント募集稿)药品管理法实施条例(修订草案征求意见稿))」にデータ保護の規定が盛り込まれました。それに加えて、小児薬、オーファン薬の開発推進を目的として、データ保護の枠組みとは別建てで販売独占保護制度に関する規定が新設されています。なお「医薬品管理実施条例」は、「医薬品管理法」の下で定められる行政法規であって、最終化された場合国務院の批准を経て、正式に発布されることになります。

3.データ保護

「実施条例(案)」の第2章(医薬品の研究開発と許可・登録制度)第5節(医薬品の知財保護)中の第40条に、販売承認された医薬品の一部については、販売承認申請に含まれた未公開データ等についてデータ保護し、その後、6年間、第三者(ジェネリック企業を含む)が販売承認取得人の同意を得ずに、当該データを申請に使用できないとの趣旨で規定されています。

第四十条【数据保护】  国家对获批上市部分药品的未披露试验数据和其他数据实施保护,药品上市许可持有人以外的其他人不得对该未披露试验数据和其他数据进行不正当的商业利用。

自药品上市许可持有人获得药品注册证书之日起6年内,其他申请人未经药品上市许可持有人同意,使用前款数据申请药品上市许可的,国务院药品监督管理部门不予许可;其他申请人提交自行取得数据的除外。

中华人民共和国药品管理法实施条例(修订草案征求意见稿)

前記の「データ保護弁法(案)」では、新薬の保護期間は原則6年としながら、例えば、海外データのみで申請した場合、その期間が1/4に短縮される等の制限がありました。しかしながら今回の「実施条例(案)」には、承認された一部の医薬品が6年のデータ保護対象になるとしているだけで、短縮の要件等に関する記載はありません。なお、販売承認が付与されている新薬等について、第三者(ジェネリック企業等)が申請データを自前で開発・取得して、ジェネリック薬を申請した場合には、たとえ、保護期間中であったとしても申請は認められます。その点は、日本の再審査制度による新薬保護の制度と同様です。

前述した通り、新薬保護に関して特許法の改正は曲がりなりにも前進しているものの、医薬品管理法の下でのデータ保護制度の新設改正は牛歩となっています。中国の大きな流れは新薬のイノベーションの推進ですが、特許法に比べて医薬品管理法の下での制度改革は、既得権益グループたるジェネリック企業の圧力に強くさらされる環境にあるということです。

4.小児薬、オーファン薬の販売独占保護制度

小児薬、オーファン薬の開発促進を目的として、「実施条例(案)」の第2章(医薬品の研究開発と承認・登録制度)第3節(医薬品の販売許可)に下記の趣旨で規定が新設されています。

1)小児薬

小児医薬品の新製品・新剤型・新規格等に対して、NMPAは、開発・申請期間中に開発会社と意思疎通を図りサポートするとともに、優先審査制度の下で、短期間の審査で、早期に販売承認の付与を図るとしています(「実施条例(案)」第28条1号)。

さらには、小児薬の新製品・新剤型・新規格・小児の適用症もしくは用法用量の追加に対して、12か月を超えない期間の販売独占権を付与し、当該期間中は、同種の製品について第三者(ジェネリック薬を含む)に販売許可を付与しないとしています(第28条2号)。

二十八条【儿童用药】  国家鼓励儿童用药品的研制和创新,支持药品上市许可持有人开发符合儿童生理特征的儿童用药品新品种、新剂型、新规格,对儿童用药品予以优先审评审批。在药物研制和注册申报期间,加强与申办者沟通交流,促进儿童用药品加快上市,满足儿童患者临床用药需求。

对首个批准上市的儿童专用新品种、剂型和规格,以及增加儿童适应症或者用法用量的,给予最长不超过12个月的市场独占期,期间内不再批准相同品种上市。

鼓励申请人在提交药品上市许可申请时提交儿童剂型、规格和用法用量等的研发计划。

中华人民共和国药品管理法实施条例(修订草案征求意见稿)

2)オーファンドラッグ

NMPAは、臨床上差し迫った必要性のあるオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)の販売承認申請に対して、開発・申請期間中に開発会社と意思疎通を図りサポートするとともに、優先審査制度の下で、短期間の審査で早期に販売承認の付与を図るとしています(「実施条例(案)」第29条1号)。

さらには、オーファン薬の新薬について、販売承認取得人が供給の保証を約することを前提に7年を超えない期間の販売独占権を付与し、当該期間中は同種の製品について第三者(ジェネリック薬を含む)に販売許可を付与しないとしています(第29条2号)。

第二十九条【罕见病】  国家鼓励罕见病药品的研制和创新,支持药品上市许可持有人开展罕见病药品研制,鼓励开展已上市药品针对罕见病的新适应症开发,对临床急需的罕见病药品予以优先审评审批。在药物研制和注册申报期间,加强与申办者沟通交流,促进罕见病用药加快上市,满足罕见病患者临床用药需求。

对批准上市的罕见病新药,在药品上市许可持有人承诺保障药品供应情况下,给予最长不超过7年的市场独占期,期间不再批准相同品种上市。药品上市许可持有人不履行供应保障承诺的,终止市场独占期。

中华人民共和国药品管理法实施条例(修订草案征求意见稿)

5.今後について

過去、医薬品市場におけるジェネリック薬の存在感が非常に強い中国では、新薬の知財保護が十分に与えられていなかったのが実情でした。ところが、2015年来の薬事制度改革を経て、中国の医薬品企業による新薬の研究開発が更に推進され、例えば2021年、中国で付与された新薬の販売承認83件の内、中国の医薬品企業の新薬が51件を占めました。中国のdomesticな新薬(グローバルには通用しない)が含まれているとしても過去と比べて飛躍的な増加です。中国の国内で豊富に育ってきている「人材」、さらには力強い研究開発「投資」に裏付けされた医薬品企業のイノベーション推進力は著しいものを感じます。その結果として得られた知的財産の保護の必要性が今後、益々、重要性を帯びてきているのが現状です。その意味でも、新薬のデータ保護制度の具体的な導入も、いよいよ具体化してくるものと思われます。