Entries by 呉 晨

本気で取り組む / データねつ造で刑事罰

中国の臨床試験に対するイメージを日本の医薬関係者に聞くと、おそらく今でも多くの方は、「ねつ造、でたらめ」の言葉が出てくるのではないのでしょうか。しかし、最近の日米中の臨床試験に詳しい専門家によると、今の中国の臨床試験のデータのクオリティーはほかの国に全く劣っていない。むしろ、優っている可能性もあるくらいにまで向上しているようです。 その背景としては、2017年の「ICH加盟」及び同年に導入された医薬品・医療機器申請資料のねつ造に「刑事罰」が適用されることになったことが大きなインパクトを与えている思われます。 2017年に発表された最高人民法院・最高人民検察院の共同法律解釈によると、被験動物情報・被験者情報など医薬品の非臨床研究データ・臨床試験データをねつ造により、医薬の安全性・有効性評価結果に影響を与えた場合、「虚偽の証明文書を故意に提供」したことになり、最高5年の刑事罰が科されうることになりました。 具体的には、非臨床研究機関・臨床研究機関・CROのスタッフは、虚偽の非臨床研究報告書・臨床試験報告書及び関連資料を故意に提供し、以下の6つのケースの1つに該当する場合、虚偽証明書類を提供した罪で5年以下の懲役又は拘留に処し、罰金を科すとしています。 1) 非臨床研究・臨床試験中において、故意に虚偽の試験用薬品を使用した場合2) 臨床試験用医薬品に関連する重篤な有害事象の隠蔽3) 非臨床研究・臨床試験の生データを故意に破壊する場合4) 被験動物情報・被験者情報・主要試験過程記録・研究データ・検査データなどの非臨床研究データ・臨床試験データをねつ造し、医薬品の安全性、有効性評価結果に影響を与える場合5) 医薬品・医療機器の登録申請の過程で虚偽の証明資料を提供したことで刑事処罰を受けたことがあり、または2年以内に行政処罰を受けたことがあり、また虚偽の証明資料を提供したことがある場合6) 他に行為が深刻な場合 この数年間、中国では医薬品の研究開発が華々しい成果を挙げている裏で、単なる政府補助金や資本の投入という「飴」だけでなく、刑事罰導入のような「鞭」もきちんと用意されていることが注目すべき点だと考えられます。

【華海薬業】米国で製剤に力を入れたことで中国国内で想定外の大成功

近年、中国で実施されてきたジェネリック医薬品に対する一致性評価は、中国の医薬品業界にとって突然降ってわいた大嵐のようなものでした。そういった環境下でも、ほぼ最高利益を上げてきたのは浙江省に本社を置く華海薬業(HuaHai / 株式コード:600521;上海)です。なぜ、華海薬業は大成功を収めることができているのか、おそらく自身も予想だにしなかったことだと思います。 華海薬業はAPI領域でのリーディングカンパニーとして知られてきました。特に降圧薬系ACE阻害薬及びARB薬APIの主要供給メーカーでもあります。他方、華海薬業が製剤メーカーとして中国国内で名を知られるようになったのは、2016年から始まったジェネリック医薬品に対する厳格な一致性評価を契機とします。一致性評価をパスするには、生物同等性試験(BE)のほか、CMC(薬学)の再研究も必要となり、たとえすべて順調でも、審査期間を考慮しなくとも一年以上の期間がかかります。当時、多くのジェネリック企業は、製品の許認可の取り下げ、試験の再実施等、辛酸をなめました。にもかかわらず、華海薬業は、スタートから2年後の2018年12月時点で、11品目というダントツ・トップの通過数を誇り、業界を震撼させました。 実は、遡ること12年前の2004年当時から、華海薬業は米国に子会社を設立し、米国向けに製剤の輸出業務を展開させていました。これらの製剤はFDAの承認を受けるべく、すでに厳格なCMC研究とBE試験を行っていたため、今回の中国の一致性評価においては、試験の再実施をすることなく、ほぼ申請するのみで良いという状況でした。 ただし、華海薬業のリスクの1つは大株主の不和とされています。一般的に、中国の民営製薬企業の会長は創業者あるいは一族が着くのが普通です。ところが、華海薬業は外部からトップを招聘するケースが長く続きました。現在の会長李宏氏も華海薬業に入社してから日が浅く、さらに他の経営陣とのつながりが薄いとされています。華海薬業の会長の職は、最大株主と二番目の大株主との不和から、繰り返し外部からの招聘となっています。華海薬業は1989年設立、当時の共同創業者である陳保華氏と周明華氏の両氏は大学の同級生でした。ところが、会社が大きくなるにつれ、二人の意見は調整不能になっていきました。最終的に、二番目の株主の周明華氏は取締役会から外され、最大株主である陳保華氏も2013年会長職を退き、取締役・社長となりました。中国では、会長の権限は社長より強大で、会社経営に対する影響力が大きいことから、このポジションに外部の者が入ってくると、大株主との軋轢を生むことになり、経営の不安定化を招きます。 華海薬業のケースのように、近年の中国製薬企業は、新薬メーカーだけでなくジェネリックメーカーでも、中国国内の政策転換によってのみならず、米国等の海外要因によっても、業界での地位は目まぐるしく変化しています。

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【恒瑞医薬】収益鈍化―新薬の医療保険収録が影響

中国の医薬品業界のリーディング・カンパニーともいえる恒瑞医薬(Hengrui Medicine、600276.SHA)が2021年第三四半期(7月~9月)の決算を発表、純利益は2000年上場後としては初めての減少となりました。 2021年第三四半期の売上高は69億元(通期は202億元)で前年同期比14.84%減(同4.05%増)、純利益は15.4億元(同42.1億元)で前年同期比3.57%減(同1.21%減)となった。 多くの中国製薬企業と同様に恒瑞医薬もジェネリック・メーカーからスタート。いち早く新薬のR&Dを手掛け、今まで数多くの新薬を市場に送ってきた。ジェネリック薬から新薬への転換といった近年の大きな流れの中で恒瑞医薬は先駆的な役割を演じてきたことから中国製薬企業の模範ともされ、株式時価総額もトップとなっている。ここ数年、中国では医薬品の集中購買制度が実施され、この制度改革によって恒瑞医薬も例外とはならず大きな影響を受けた。2020年11月開始の第3期集中購買で六つの品目が対象となり、今年度の売上高にネガティブな影響を及ぼした。さらに新薬のPD-1抗体camrelizumab(SHR-1210)は医療保険の収載対象となるための価格交渉で85%も値引きされ、影響は更に拡大した。 これらの要因から、今年恒瑞医薬の株価も反落し、時価総額ベースで2021年10月29日現在3150億元となり、これは年初来高値の5929億元から47%ダウンの数字である。 この困難な状況に対処するため、今年7月に創業者の孫飘揚氏が会長に復帰し、陣頭指揮を執ることになった。 今後の動向としては、将来を占うことになりうる研究開発費が今年度の第三四半期まで41.4億元であり、前年同期の33.4億元に比べて24%増となった。これに対して管理費は15.4億元であり、前年同期の18.8億元より減少となった。これからの業績に注目したい。 分析 PD-1新薬の医療保険の収載に伴った85%薬価ダウンですが、中国では後続に多数のPD-1抗体の開発が目白押しであり、政府はこれを受けて強気に出てきたという背景があります。広く一般に新薬がこのような扱いを受けるという事ではありません。医療保険の収載後の薬価ダウンを見越して、あえて上市承認取得後、高薬価で市場に参入するといった例も見受けられます。

2021年版国家医療保険償還医薬品リスト

2021年12月3日、中国国家医療保障局は2021版国家医療保険償還医薬品リストを正式発表した。新たに74品目が収載された一方、11品目が除外され、同リスト収載品目は2860品目となった。同リストの実施は2022年1月1日。 中国国家医療保障局によると、今回、当局と医薬品メーカー等との直接交渉で医薬品の全国統一価格を決定する「国家談判制度」のプロセスを踏んだ品目は94品目。リスト外から採用された67品目の薬価の引き下げ率は平均で61.71%に達した。 同リスト新規収載品目の内訳は、高血圧、糖尿病、高脂血症、精神疾患などの慢性疾患用薬は20品目、抗腫瘍薬は18品目、C型肝炎、エイズなどへの抗感染薬は15品目、オーファンドラッグ7品目、新型コロナウィルス治療薬は2品目、その他領域の薬は12品目となった。業界内外で関心の高い抗腫瘍薬の薬価引き下げ率は64.88%だった。オーファンドラッグでは、武田薬品工業の遺伝性血管性浮腫治療薬(HAE)「フィラジル」とファブリー病治療薬「リプレガル」)の2品目が新規収載品目となった。