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2022年5月18日、恒瑞医薬はR&D事業の国際化を推進することを目的として、「Luzsana」を子会社として設立すると発表しました。

恒瑞医薬の2021年海外R&D費用は約235億円であり、全体のR&D費用の20%弱を海外に投入していることになります。人員面では、海外R&D要員は170人、そのうち米国が104人、欧州が50人となっています。臨床開発中のプロジェクトとしては、自社開発の抗がん剤2品目のCamrelizumab(PD-1抗体)とApatinib(抗VEGFR2阻害剤)の併用に関する国際共同治験PhaseIIIが終了し、主要エンドポイントを達成したと公表(5月12日)。この国際共同治験には13か国、95センターが参加した恒瑞医薬の最初の本格的プロジェクトでした。中国では申請が受理され、米国では当局と折衝中とされています。。

今回新設立されたLuzsana社は、11プロジェクト(うち8品目ががん領域)のグローバル開発の推進を担い、拠点としては、アメリカ・プリンストンに本社を、欧州(スイス)と東京にオフィスを構えるとしています。

中国の医薬品企業の研究開発部門の本格的な国際化、そして、日本への本格進出のための第一歩が記されたと言えます。

中国社会は、政府の号令下に各分野でイノベーション推進にうなされていると言ってもいいような状況にあります。新薬の研究開発分野もご多分に漏れず、ここ数年の間に大きな進展を見ています。

2021年、中国の内資企業の新薬(新規有効成分NCEを含む薬剤/一類)のNDA申請(上市の為の承認申請)件数は、16件でした。日本の内資企業の日本へのNDA申請件数、比較データがないのですが、中国企業の数字もそこそこの所に来ているといった印象です。

申請企業 / 癌適応症等

NDA申請がされた薬剤の適応症は、約半分が癌領域です。NDA申請をした企業別の癌適応症は、下記の通りです。

会社癌のdrug target(癌の適応症)
恒瑞医薬(Hengrui)CDK4/6(乳癌)
同上AR(前立腺癌)
倍而達薬業(Beta)EGFR-T790M(非小細胞肺癌)
璎黎药业(Yingli)PI3Kδ(リンパ腫)
銀珠医薬(Yinzhu)(非小細胞肺癌)
斉魯製薬(Qilu)ALK/ROS1(非小細胞肺癌)
奥賽康薬業(Aosaikang)EGFR-T790M(非小細胞肺癌)
2021年にNDA申請されたがん治療薬一覧

なお、癌領域以外では、申請対象の疾患領域は、消化器系(GI)、糖尿病、免疫、肝炎、貧血等です。

特徴

上記の表から見て取れる通り、大部分がme-betterの新薬であって、イノベーション・レベルは未だ低い水準にあると言えます。しかしながら、同じme-betterであっても日本企業に比べると開発のスピードが速いことから先行品との距離感は短くなっています。適応症では、非小細胞肺癌が多くなっていますが、癌の新薬開発のセオリーに従って、希少癌からの臨床開発を先行させています。

中国新薬R&Dの今後

新薬申請を行う中国企業の数は年を追って増えてきています。前述の通り、新薬といってもme-betterに分類され、いわゆるdomestic drug(自国内でしか承認・販売されていない薬剤)が多くを占めているのが現状です。研究段階では、中国企業もようやく高いレベルのイノベーションを追求するようになってきていることから、中国がグローバル品の新薬の産出基地になるのは、時間の問題と理解されています。

中国の医薬品業界のリーディング・カンパニーともいえる恒瑞医薬(Hengrui Medicine、600276.SHA)が2021年第三四半期(7月~9月)の決算を発表、純利益は2000年上場後としては初めての減少となりました。

2021年第三四半期の売上高は69億元(通期は202億元)で前年同期比14.84%減(同4.05%増)、純利益は15.4億元(同42.1億元)で前年同期比3.57%減(同1.21%減)となった。

多くの中国製薬企業と同様に恒瑞医薬もジェネリック・メーカーからスタート。いち早く新薬のR&Dを手掛け、今まで数多くの新薬を市場に送ってきた。ジェネリック薬から新薬への転換といった近年の大きな流れの中で恒瑞医薬は先駆的な役割を演じてきたことから中国製薬企業の模範ともされ、株式時価総額もトップとなっている。ここ数年、中国では医薬品の集中購買制度が実施され、この制度改革によって恒瑞医薬も例外とはならず大きな影響を受けた。2020年11月開始の第3期集中購買で六つの品目が対象となり、今年度の売上高にネガティブな影響を及ぼした。さらに新薬のPD-1抗体camrelizumab(SHR-1210)は医療保険の収載対象となるための価格交渉で85%も値引きされ、影響は更に拡大した。

これらの要因から、今年恒瑞医薬の株価も反落し、時価総額ベースで2021年10月29日現在3150億元となり、これは年初来高値の5929億元から47%ダウンの数字である。

この困難な状況に対処するため、今年7月に創業者の孫飘揚氏が会長に復帰し、陣頭指揮を執ることになった。

今後の動向としては、将来を占うことになりうる研究開発費が今年度の第三四半期まで41.4億元であり、前年同期の33.4億元に比べて24%増となった。これに対して管理費は15.4億元であり、前年同期の18.8億元より減少となった。これからの業績に注目したい。

分析

PD-1新薬の医療保険の収載に伴った85%薬価ダウンですが、中国では後続に多数のPD-1抗体の開発が目白押しであり、政府はこれを受けて強気に出てきたという背景があります。広く一般に新薬がこのような扱いを受けるという事ではありません。医療保険の収載後の薬価ダウンを見越して、あえて上市承認取得後、高薬価で市場に参入するといった例も見受けられます。

中国の医薬品企業(株式公開の企業)のR&D費用の投入額トップ20(2020年度)リストが下記の通り公表されました(Insight社)。

画像元:Insight数据库

中国で研究開発型企業の横綱は、東が百済神州(Beigene)、西が恒瑞(Hengrui)です。トップのBeigeneは昨年度に約1440億円の研究開発費を投入、次いでHengruiは約830億円です。また、研究開発費の対営業収入の比率が100%を上回った企業は三社あり、再鼎(Zai)が450%、百済神州(Beigene)が420%、基石薬業(Cstone)が135%です。

更に、研究開発費の伸びは、信達生物(Innovent)、君実生物(Junshi)が前年比50%を超えています。

中国で臨床試験を開始するための中国企業によるINDの申請件数は、国の新薬奨励策の下で明らかな形で増加しています。化学医薬品のIND申請数は過去7年増加傾向にある中で、2017年以降さらに大きく増加してその年は66%増、その後2020年には1096品目となっています。また2020年の上市承認の件数は20品目です(いずれも中国内資の医薬品企業の数字)。

これらの変化は2015年に始まる国の薬事政策転換に起因しており、優先審査、品目登録分類、MAH(工場を所有せずとも上市承認取得が可能)等に関する新薬優遇政策により、新薬の研究開発、承認審査、製造、保険適用等の分野で新薬を取り巻くビジネス環境が目に見える形で改善されていることによります。そのことが、中国の新薬の研究開発能力の急速な底上げに繋がっています。

医薬品市場面から見ますと、市場の大部分を占めているのはジェネリック薬であり、新薬が占める比率(物量)は10%前後にしかすぎません。逆を言えば、将来の新薬市場の伸びしろは巨大とも言えます。今日の研究開発費の継続的な投入が将来の新薬市場の拡大の基礎になっているのです。ジェネリック薬から新薬へ、そして国内市場から国際市場へ、これが今後の流れの大きな方向性になっていくと思われます。

なお、中国ではあらゆる分野で番付をして公表するのが常態です。学校の成績しかり、各省のGDP番付しかり。しかしながらある中国企業がリストに掲載されているからといって、日本企業がその企業を相手として組む安心材料になるかと言えば必ずしもそうとも言えないことに留意する必要があります。中国はあらゆる分野で玉石混合の状態です。相手の名が通っているからと言ってそこと組むのがいいのか、日本的な感覚は通用しないことが多いので十分に考えてみる必要があります。

2015年からの中国の薬事制度改革で、すでに上市されているジェネリック薬も含めて品質面で先発品との同等性を示すデータの再提出を求める等の措置が断行されて、中国のジェネリック薬は、「品質面」で大きな進歩を見せました。そして、2018年に主要都市(4+7の11都市)にて一部の医薬品で始まった購入量保証付きの一括購入制度が全国に広がりを見せています。政府が購入量を企業に対して保証する見返りとして、大幅な薬価の引下げを求める政策が浸透しています。それに伴って、「製造コスト面」でも構造改革が進んでいます。

このような制度の大改革の中で、中国の医薬品企業(ジェネリック企業)は大変貌を遂げており、品質向上、生産コストの圧縮、そして国際化の道を走っています。ちょうど今、中国では新薬の研究開発推進のための知財保護政策の具体化が進んでいます。政策の中心である「特許期間の延長」、「Patent Linkage」、「データ保護制度」は先発の新薬の開拓者利益と後発のジェネリック薬の廉価な薬剤提供に対する利益配分をどうやってバランスさせるかの課題でもあることから、中国の新薬の知財制度の理解のためにも、中国ジェネリック薬の動向については目を離せません。

ジェネリック薬の開発期間

ジェネリック薬は原薬・製剤の開発からBE試験(臨床試験)を経て上市申請に至りますが、その開発・試験期間は2年半前後とされています。先発の新薬が10数年の研究開発期間が必要と言われているのに比較しますと、ジェネリックの開発コストは格段に低く抑えることができます。

3、4類のジェネリック薬の開発ステージ 期間
準備期2か月
製剤開発9-10か月
原料開発5-8か月
安定性試験、BE試験12か月
合計28-32か月
3、4類のジェネリック薬の開発周期

ジェネリック薬の市場占有率 / 米国との比較

米国では、ジェネリック薬の市場占有率は、数量比で90%、金額費で10%を占めています。これに対して中国では、数量比で90%以上、金額費で70%以上とされています。将来的には、ジェネリック薬の比率は低下を続け、2025年には、その金額比率で50%程度になると予測されています。

中国、アメリカのジェネリック薬、新薬(特許満了薬、特許新薬)の販売高の占有率比較

ジェネリック薬(低分子薬)業界の発展の趨勢

2015年の中国の薬事制度改革によって、ジェネリック業界が淘汰の時期に突入しました。2015年の6千社から翌年には4千社にまで減少しました。しかしながら、中国にはまだ4千社のジェネリック企業(原薬の製造企業、製剤企業)がひしめいています。

中国の原薬メーカー、製剤品メーカー等の企業数

そして、2018年に始まった購入量保証付き一括購入により平均薬価が50%引下げられました。従来、総販売高の40%を占めていた販売経費が一気に吹き飛んでしまったことを意味します。この不透明な金の流れに対して、一括購入制度の対象とする医薬品の品目的、地域的な広がりに加えて、刑事事件が絡む腐敗撲滅運動も並行して進んでいます。そういった中で、ジェネリック企業の収益を生む隙間は、製造コストの低減にしか見当たらなくなってしまいました。製剤企業が製薬(API製造)企業を買収して集約化する動きも見られます。

ジェネリック薬の間の競争 / 最初に市場に出るジェネリック薬

米国で新薬の価格は、特許が満了してジェネリック薬が出現することにより、1年後の下げ率は51%に達します。また、最初に市場に出たジェネリック薬の価格は、特許満了後の新薬の価格に対して94%の価格であるのに対して、2番目のジェネリック薬は52%、そして20番目は6%にまで下がります。

中国ではパテントリンケージ制度の導入によって、最初のジェネリック薬に1年間の独占期間(この間、2番目以降のジェネリック薬は上市承認がされない)が付与されることが予定されています。この最初のジェネリック薬の特典を獲得すべく、中国の優良とされる代表的なジェネリック企業、例えば、恒瑞医药(Hengrui Medicine)、豪森薬業(Hansoh Pharma)、信立泰薬業(Salubris Pharma)、正大天晴薬業( Chiatai Tianqing )、華東医薬(HuaDong Medicine)等が競っており、これらの企業は、すでに病院・臨床家から広く支持を得ており、ジェネリック薬の中でのブランドを確立しています。

中国国産のジェネリック薬の「国際化」と「双循環」

上記の通り政策誘導により企業淘汰が進んだ結果として、中国のジェネリック薬は、品質面・価格面で国際的な競争力を獲得しています。中国企業による米国でのジェネリックの上市承認の為の申請(ANDA)の数は下記の通り、2018年にジャンプしています。

2009-2019年中国企業の米国ANDA申請数

特に、華東医薬(HuaDong Medicie)の海外展開は目覚ましく、2015-2019年に米国で80件のANDAを申請。このような海外展開をベースに中国の本土市場に回帰するという戦略で、中国国内における集中買付の環境下においても品質と価格優位性を武器に優位な立場を占めつつあります。2019年には、双成薬業(Shuangcheng)、正大天晴薬業(Chiatai Tianqing)、博雅生物製薬(Boya)等が米国ANDAの申請数で躍進しています。

このように、中国企業の国際化は、まず原材料である「医薬品の中間体」の製造・輸出から始まって、その後「API原薬」の製造・輸出に発展し、今日では「最終の製剤品」の製造・輸出に大きく踏み出している段階にあります。中国の医薬品を取り巻く政策の大改革を踏まえて、品質向上、コスト圧縮を果たした中国のジェネリック薬は、海外への輸出と同時に国内での集中買付での入札・落札の「双循環」の流れに向かっています。