中国企業の平均年収と医薬品業界の位置づけ / 将来の日本人の職場になり得るか?


最終更新日: 2022/05/19

中国の国家統計局から2020年の業界別の全国平均賃金が発表されました(5月19日)。賃金に何が含まれているか、さらには物価も違いますので、日本のそれと金額を単純に比較するのは難しいと思います。また、中国の方々の収入は上と下の格差が非常に大きいので、そもそも平均値の代表性については日本ほど高くはないのかもしれません。例えば、「上海・北京・深圳」の給料と「瀋陽・武漢・ウルムチ」の給料の間には大きな地域差があります。ただし、中国国内の業界、職位別でその差がどうなっているかの理解の一助にはなると思い紹介します。

会社勤務者の全国平均年収(2020年)は、主要9業種で10万元(180万円)、前年比7.6%増でした。

トップ3は下記の業種です。

1.IT・通信関係:          18万元(300万円)

2.科学研究企業:           14万元(240万円)

3.金融関係:                  13万元(220万)

以前は長らく金融関係が年収トップを保っていましたが、2016年にIT・通信に、2019年に科学研究企業にそれぞれ抜かれて、現在3位に後退しています。 金融の内、証券は良いとして、銀行が苦戦の様相です。ちなみに、農水林牧に関連する業種の年収は、4.8万元(82万)とトップのIT系年収の27%相当です。 

また、上記の数字は全国平均収入ですので、例えば上海等の賃金の高い地域であれば、大卒の初任給に該当するかもしれません。IT・通信分野で言えば、中国ではアリババ(阿里巴巴)、テンセント(騰讯)が両巨頭ですが、そこの新卒で初任給は30万元(510万円)位だそうです。

新薬の研究開発企業、いわゆるバイテク企業は、科学研究企業に属します。そのバイテク企業の内、科創板(NASDQに相当。以前の記事に詳しく解説)に上場している7社(研究開発要員数100~240人)の平均年収は18万元(300万円)とされ、最高額の企業が25万元(425万円)、最低が10万元(170万)です。ちなみにこの7社の研究開発要員の学歴は下記の通りです。社員は20台、30台前半が中心です。(硕士:修士、 本科:学士)

魔医药方より引用

2年前の少し古い数字ですが、2018年の医薬品業界(上記のバイテク企業のみならず、ジェネリック企業も含む)の職位別の全国の給料は下記の通りです。

1.総経理(社長):中央値110万元(1800万円)

2.R&Dトップ: 中央値78万元(1300万円)

3.  臨床開発マネージャー:中央値36万元(610万円)

4.合成・メドケム部長:中央値36万元(610万円)

5.製剤研究員:中央値11万元(180万円)

6.生物系トップ:中央値79万元(1300万円)

7.営業管理トップ:中央値72万元(1200万円)

8.営業部マネージャー:中央値30万元(510万)

中国医薬品企業の営業職は一般的に歩合制を取っており、頑張れば収入が高いとされています。従って、男性の国内の薬学卒の若手は営業指向が強かったと言われていました。ただし、党・政府が指揮する研究開発重視の政策の趨勢から、上記の9つの業界の平均収入のランクに変化が出ているように、今後は医薬品業界内部でも、職種別の収入面で変化が起きてくると思います。中国は全ての分野で格差が大きく、収入もしかり。平均値を取ると、人口の裾野、地域的な広がりが膨大ですので、日本的には金額が少し低めの印象があるかも知れません。しかしながら、新薬の研究開発に関する職種では、先端的な会社であれば研究開発要員の5%前後が海外からのreturneeが占めており、returneeの場合は前職の米国のMNCを含めた製薬企業の給料が指標になって来ますので、上記の平均値よりかなり高い水準を行っており、その意味でも大きな格差が存在していると言えます。  

中国企業が活性化して大きく変化、そして国際化しており、IT産業、電気自動車産業のみならず、医薬品産業も同じ傾向です。特に中国企業の研究開発部門は、日本人のプロフェッショナルな方々の職場になるという時代がやってくるに違いない、経験豊富で意欲の高い日本の方々が活気あふれる中国企業の研究開発部門で仕事をするようなケースも増えてくると思います。その場合は、海外からのreturneeと同じような扱いを受けて、中国で頑張られることになるのだと思います。

Author Profile

川本 敬二
弁理士 (川本バイオビジネス弁理士事務所(日本)所長、大邦律師事務所(上海)高級顧問)

藤沢薬品(現アステラス製薬)で知財の権利化・侵害問題処理、国際ビジネス法務分野で25年間(この間、3年の米国駐在)勤務。2005年に独立し、川本バイオビジネス弁理士事務所を開設(東京)。バイオベンチャーの知財政策の立案、ビジネス交渉代理(ビジネススキームの構築、契約条件交渉、契約書等の起案を含む)を主業務。また3社の社外役員として経営にも参画。2012年より、上海大邦律師事務所の高級顧問。現在、日中間のライフサイエンス分野でのビジネスの構築・交渉代理を専門。仕事・生活のベースは中国が主体、日本には年間2-3か月滞在。
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