中国産の発明 / 海外出願(中国国外への出願)


最終更新日: 2021/04/24

1.発明の場所と日本・米国特許法

日本国内の研究所等で生まれた発明は、どこの国で最初に特許出願をしようと、これは、出願人の勝手です。米国の企業が、日本にある研究機関に研究を委託して、そこから発明が生まれたと仮定しましょう。米国企業と日本の研究機関の両者間の契約で、当該委託研究から生まれた発明は米国企業に帰属すると合意していれば、米国企業は、当該発明を自己の名義で特許出願して権利化することができます。その際、米国企業は、最初の特許出願を、日本でするのか、それとも米国でするのか、自己の都合で、自由に決定することが出来ます。

一方で、米国国内で生まれた発明については、米国特許法の下で、先ず、米国での出願が求められます。それを望まず、海外(例えば日本)で先に出願したい場合には、米国特許庁に発明の内容を説明する書類を提出して、先に海外出願することの許可をとる必要があります。

2.中国国内で生まれた発明と中国特許法

では、中国国内で生まれた発明については、中国特許法の下では、どの様な取り扱いを受けるでしょうか? 米国の制度と同様です。中国で先ず、特許出願を済ませていれば、その後に海外(中国国外)に出願することができます。然しながら、海外で先に特許出願しようとする場合には、中国特許庁に秘密審査を請求し、事前の許可を得る必要があります(中国特許法§20)。中国国内で生まれた発明が武器等の国防に関わる発明、又は中国の国益に重大な影響を与える発明の場合には、中国の制度上、国防特許出願又は秘密特許出願と認定され、国益保護の為に出願は公開されません。当該発明に該当するか否かは、秘密審査という手続きを経て確認されます。ここで、もし、自由に海外出願を認めると、それによって申請された海外の出願が自動的に公開され、秘密が守られなくなってしまうことに繋がるので、このような制度をとっているとされています。もし、中国特許庁の事前許可を得ずに海外出願した場合、その後、当該海外出願に基づいて出願された対応の中国出願は、特許されませんし(§20④)、たとえ特許されたとしても無効となりえます(§45、実施細則§65)。

3.中国で生まれた発明への出願対応

さて、日本の企業が米国の研究機関と組むことによって米国国内の研究所等で生まれた発明については、米国特許法の要請に従って、米国で最初の特許出願をすることについては、あまり、抵抗感がないと思います。一方で、中国で生まれた発明については、最初に中国へ特許を出願するとなると、それは、中国語での出願となり、心理的な?抵抗もあるかもしれません。

一つの例ですが、日本企業が自社の新製品の特性についての試験データを取得する目的で中国の研究受託機関に試験を委託した場合を例にとって考えてみましょう。日本企業及び中国の研究受託機関の間で事前に委託契約を取り交わし、その中で、当該研究機関が試験の実施により生まれたデータの所有権は、研究費を負担している委託側(日本企業)に帰属させる、と定めていくのが、一般的な手法だと思います。その場合、当該日本企業が中国で生まれたデータをそれ以降に提出される特許出願の実施例に何らかの形で盛り込んで使用する場合、すこし、微妙な問題が含まれます。中国側に研究を委託する前に日本側で発明の構想が練られた上で、そのデータ取りのみを中国の研究機関の研究テクニシャンに依頼する場合、中国テクニシャンは発明者として認定されないでしょうから、そのデータは中国国内で完成した発明には該当せず、問題は起こりません。しかしながら、中国側の研究テクニシャンが発明者と認定され、日本側の研究者との共同発明が成立する場合はどうか、それは、貢献度の問題で、中国側の発明者の貢献度が比較して高ければ、中国国内で完成した発明とされます。その場合には、たとえ当事者間の契約によって、当該発明が日本側に帰属すると定められていたとしても、上記の§20に従った処理が必要となります。即ち、先に中国で特許出願をするか、それを望まない場合、中国で秘密審査を受けてから海外(日本)出願をせねばならないことになります。

日本企業が自己に関わる発明で、それが米国国内の研究機関等で生まれた発明を特許出願する場合には、米国の発明者と自己が指名する米国の特許専門家の間で直接、議論してもらった上で出願明細書を作成、日本側がその明細書の英文版をチェックした上で、米国特許庁に特許出願する、そういった仕事の仕方をすることになっているでしょう。さて、今後、日本企業にとって、自己に関わる発明で、それが中国の研究機関で生まれた発明、即ち、中国産の発明が多く生まれてくることが予想されます。その中国産の発明の特許出願をする場合を想定して、中国の研究者と中国の特許専門家の間で中国語の出願明細書を作成、それを日本側がチェックする、そういった体制を早く作っていくことを考える必要があると思います。日本には、中国人の特許専門家、少なからずいらっしゃいますが、中国には日本人の特許専門家、限られているといった印象です。いつやるの?今でしょ!

以上

Author Profile

川本 敬二
弁理士 (川本バイオビジネス弁理士事務所(日本)所長、大邦律師事務所(上海)高級顧問)

藤沢薬品(現アステラス製薬)で知財の権利化・侵害問題処理、国際ビジネス法務分野で25年間(この間、3年の米国駐在)勤務。2005年に独立し、川本バイオビジネス弁理士事務所を開設(東京)。バイオベンチャーの知財政策の立案、ビジネス交渉代理(ビジネススキームの構築、契約条件交渉、契約書等の起案を含む)を主業務。また3社の社外役員として経営にも参画。2012年より、上海大邦律師事務所の高級顧問。現在、日中間のライフサイエンス分野でのビジネスの構築・交渉代理を専門。仕事・生活のベースは中国が主体、日本には年間2-3か月滞在。
0 replies

Leave a Reply

Want to join the discussion?
Feel free to contribute!

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *