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先月中国初の経口コロナ治療薬承認を獲得したばかりの真実生物(河南真实生物科技が、香港市場へのIPOを申請しました。

2022年8月4日に提出された目論見書によると、コロナ治療薬Azvudine(阿兹夫定の製造や商業化、治験のための資金調達ということです。発行する株式の数や調達予定額については記載されていません。

コロナ治療薬Azvudine(阿兹夫定)

Azvudine(RO-0622)はHIV治療薬として2021年7月にNMPAによって上市承認されたNRTI(核酸系逆転写酵素阻害剤)です。2022年7月25日にはCOVID-19を適応症に追加することを承認され、中国で初の経口コロナ治療薬となりました。

2022年8月7日には1錠約170円以下(35錠で300元未満)で購入できると発表されました。HIV薬としての価格が1錠500円くらいですから、利益率はかなり低くなりそうです。

Azvudineの商業化についてはすでに上海復星医薬と提携しており、160億円を受け取ることになっています。

1.全体情勢

バイテク企業の資金調達を取り巻く環境、山あり谷あり、ですが今は全世界的に我慢の時代に突入しており、アメリカでも多くのバイテクがリストラ・プロジェクトの売却等に走っています。米国のインフレや利上げで米国の投資資本が世界的に引き潮になっており、中国・香港も例外ではなく、米国マネーが逃げております。

中国の未公開のバイテク企業への投資は、まず中国に長らく根を張っている米国系の投資会社が対象の医薬技術・人(トップ)の目利きの役割を果たしてシード投資、その後中国系のマネーがどっと入って来るのが一つの典型例です。そして中国のIPO市場としては、規模が最大で重要な香港市場でもやはり米国系マネーが大きな役割を果たしてきました。ところが昨年の秋以降、米国マネーの潮が引き、さらに中国の国内的な要因も重なり、未公開企業への投資およびIPO市場が冬の時代に入っています。

2.上海・深センでのIPO

そんな中にあって、上海や深圳の株式市場は健闘しており、2022年上半期、投資総額では全世界のトップとNo.2の地位を占めるに至りました。医薬分野ではこの上半期に26社がIPOを果たしました。株式市場別の内訳は下記の通りです。

株式市場IPOを果たした医薬企業の数
創業板(深セン) ChiNext10社
科創板(上海) The Science&Technology Innovation Board9社
香港株式市場5社
上海主板2社

各株式市場でのIPO時の調達額(会社別)は下記のとおりです。以前の香港市場でのIPOと比べても控えめな数字との印象は否めませんが。

1)香港、深セン(創業板)

IPO企業(2022年上半期)調達額(億円)
誠達薬業351
采納136
華康医療217
華蘭ワクチン455
西点薬業91
何氏眼科260
泰恩康235
富士莱221
天益医療102
普蕊斯140

2)上海(科創板)

IPO企業(2022年上半期)調達額(億円)
亜虹医薬505
邁威生物695
賽倫生物179
和元生物240
首薬控股400
仁度生物130
栄昌生物800
海創薬業500
薬康生物225

科創板は今年の6月に三周年を迎えましたが、この間に体制・規律の整備が進むと同時に門戸も広がり、医薬品以外に医療機器の会社も対象となり、香港市場が苦しんでいる中健闘しています。

3. 将来に向けて

バイテク企業の資金調達はグローバルに冬の時代に入っており、中国も例外ではなく、各社とも緊縮のR&D予算を組み始めています。中国企業の海外からの新技術導入(ライセンス)も以前ほどの勢いがないようにも見受けられます。しかしながらどの地域でも同じですが、リセッション局面においては医薬品業界のようなディフェンシブセクターに資金が集まりやすくなっています。中国でも特に優良企業には資金が集まっています。その意味で日本企業が組む相手を選択する場合に、資金調達力という視点での選別も重要になってきます。

IPOの観点からは、アメリカも含めグローバルな投資資金が集まっている香港市場は冬の時代に入っており、2022年上半期は9年ぶりの低水準となりましたが、先行する株価指数は直近2ヶ月は好転ともとれる動きになっています。一方で、中国の国内の投資資金で回っている上海・深センのIPO市場は、厳しい環境の下でもグローバルのトップに躍り出るくらいの健闘ぶりです。

中国での資金調達という面では、諸々の情勢から年内の回復は難しいかもしれませんが、少なくとも他の業界や他のエリアと比べると中国本土の市場では資金の集まりやすい状態が続くようです。

科創板は、2019年7月に上海証券取引所のハイテク向け市場として設立されました。取引を開始してから2周年が経過し、この間に科創板は規模を拡大して、株価指数も高値圏を維持しています。国家的な当初の目論見である、イノベーション型企業の成長を促しつつイノベーション駆動による経済発展をリードする、を体現していると言ってもよいと思います。

科創板の上場要件(IPO要件)については、以前の記事をご覧ください。

科創板では、この二年間に313社がIPO、時価総額が約83兆円、IPOによる調達額が約6.5兆円でした。

この科創板の設立にあたっての対象産業ですが、情報技術、新材料、新エネルギー、省エネ環境等に並んでバイオ医薬が挙げられていました。科創板でIPOを達成した313社の内、75社がバイオ医薬関連企業でした。年度別の内訳は、下記の通り、2019年に16社、2020年に34社、2021年(1-7月)に25社と推移しています。

创板生物医药科技公司上市时间表,制图:贝壳社

バイオ医薬企業が科創板でIPOの占める割合が高い背景としては、科創板が中国の将来の鍵を握るコアテクノロジー企業を志向していること、そして、売上がない赤字企業であってもIPO要件を満たしうることから、バイオ医薬企業のIPOに親和性がある、とされています。半導体関連の企業は規模の拡大が重要ですが、バイオ医薬系は、規模は小さくても特徴を有していることが決め手となります。科創板のバイオ医薬系の事業分野としては、化学医薬品、生物薬剤、CRO、医療機器、動物・ペットが重点領域となっています。 IPO企業の事業分野は、下記の通りで、医療機器分野が最多となっています。

科创板生物医药科技公司行业组成情况,制图:贝壳社

上場企業の時価総額面では、2兆4千億円を超えている企業は、康希諾(CanSino/ワクチン技術)、華熙生物(Bloomage/健康食品・美容・化粧品)の二社です。他の取引所との比較で言えば、時価総額が1兆7000億円(1000億元)を超える企業数、代表企業は下記の通りです。

取引市場時価総額1兆7千億円超の企業数代表的な企業当該企業の特徴
上海・深センA株8社药明康德 (Wuxi)中国の代表的・国際的なCRO
科創板6社邁瑞医療 (Mindray)国際展開を図っている医療機器会社
香港H株14社药明生物 (Wuxi Biologics)Wuxiの関連企業で、バイオ製品のCDMO

科創板は、他の市場と比べて総額はともかく、将来の成長の空間が大きいとも言えます。

U表記株

バイオベンチャー等、長期の研究開発の先行投資をして初めて、売れる商品が出来上がるようなビジネスは、長い期間、赤字状態が続きます。科創板は、そのような研究開発型の企業に対してIPOの門戸を開いていて、“U”表示がされます。赤字であることから、売りが立っていない場合が多く、リスクも高いので、投資者に注意喚起する意味もあります。リスクが高いと言うことは、将来、研究開発が進展し商品化された場合には、大きく化ける可能性があることを意味しています。下記にU企業株の例を挙げます。

上記の企業を含めて、抗ウイルス薬、ワクチン、抗がん剤の新薬の研究開発企業、医療機器企業、更には、美容・化粧品関係、CRO企業、研究開発サービス提供企業等の株価上昇が著しいとされます。 近年の中国の新薬の研究開発への投資は目を見張るものがあり、そのような研究開発の成果が、新薬の臨床試験を開始するために必要なIND申請の数等に表れており、2015年以降、数が大幅に増えています。この大きな方向性の軸は当面、変わらない情勢ですので、より一層の透明性を図ることにより科創板の更なる発展が期待されています。

2020年、中国の医薬バイオテクノロジー投資はが大活況でした。中国が国策として新技術R&Dを強力に推進していた、その流れの中でコロナ・パンデミックがあり、医療に関わる新技術への注目度がさらに高まっていることが医薬バイテクへの投資傾斜を加速しています。 

中国の医薬バイテクがIPOを狙うに当たっては、下記の4つの市場が対象になります。 

中国バイオテクノロジー企業の主なIPO先

1.上海証券取引所・科創板(The Science and Technology Innovation Board; STAR Market) 

2019年、ハイテク企業向けに上海で立ち上げられた。 

2.香港市場 

科創板の開設前から資金調達がされていた老舗市場。 

3.メインボード(主板) 

日本の東証一部に当たる、中国の伝統的な株式市場で、上海市場や深圳市場。医薬バイテクにはIPOのハードルが高い。 

4.米国証券取引市場 

NASDAQ等 

IPOを果たした中国の医薬バイテク企業を「数」で見ると、下記の通り、科創板の伸びが著しく、2020年は前年度比で2倍となっています。次いで、香港市場が50%増となっています。 

(PharmaInvest調べ) 

このようにIPOが活況を見る中、中国の医薬バイオベンチャーの起業、そしてIPOに向けた投資の継続に一段と熱が入っています。2020年の一年で、1660件の新規投資が成立しており、その一件当たりの投資額のサイズは40億円程度と、日本の感覚で言いますと桁外れに大きい印象です。 

2020年、投資額ランキングのトップ3は以下のようになっています。 

2020年、投資額ランキングのトップ3

1.联拓生物(LianBio) 

2020年の受け入れ投資額トップは、2020年8月に創業したばかりの「聯拓生物」の335億円です。 

聯拓生物は上海をベースとした医薬バイオベンチャーです。 

2.益方生物(InventisBio) 

次いで2013年創業の「益方生物」の150億円、こちらも上海をベースとした医薬バイオベンチャーです。 

3.创胜集团(Transcenta) 

創勝グループは腫瘍を中心とした十余のパイプラインを持つバイオテクノロジー企業グループ。12月に110億円の投資を集めました。 

これ以外にも、低分子医薬の創薬ベンチャーの雄、药捷安康(TransThera)も2020年に108憶円の投資を受けました。 

このように、中国では投資のワンロットが数十億円のレベルにあります。そして今、これらの新規投資をバックに中国ではR&Dが推進されていて、その成果としての実りが数年先に具体的に出てくると期待されています。日本の医薬品企業が新薬プロジェクトを中国から導入する方向に本格的に舵を切るのはもうすぐでしょう。