医薬品特許保護期間を上市から5年認める、データ保護期間も延長

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最終更新日: 2019/01/8

中国、薬の特許期間を延長 5年間、先進国並みに」とのタイトルで「中国が5月から医薬品の特許期間を今の20年から最長25年間に延長し、先進国と足並みをそろえた」との報道がありました。(日本経済新聞、5月15日)

医薬品業界にとりましては、インパクトのあるニュースですので、本件の関連情報も含めて状況を報告いたします。

 

国務院(内閣)常務会議における重要決定項目

2018年4月12日に開かれた国務院常務会議にて、医薬品に関連したいくつかの重要な政策が李克強(首相)により発表されました。
① 5月1日より、抗がん剤の輸入関税をなくす(関連記事はこちら
② 抗がん剤を政府によって調達することにより、中間のコストをなくす(関連記事はこちら
③ 輸入新薬の上市を早めるため、臨床試験開始のためのIND申請制度、および医薬品輸入手続き制度の改正
④ 新薬に最長6年のデータ保護期間、中国と海外で同時上市の新薬について、最長5年の特許保護期間の補充
今回は項目④を取り上げます。

 

新薬に最長6年のデータ保護期間

新薬の販売申請にあたり、申請人は当局に当該新薬について動物試験、CMC、臨床試験などの様々なデータを提出します。このデータの保護期間を最長6年間認めるとしており、この間、cFDAはジェネリック申請に対し、新薬のオリジネーターが提出したデータの引用を認めないというものです。従って当該期間中は、ジェネリック申請に対して承認が与えられないということになります。
この案は昨年5月および10月に出された国務院の意見書に既に示されており、今回はさらに具体化され発表されたものです。しかし施行に当たっては各法律を調整する必要があります。実際、4月25日に国家薬品監督管理局は「薬品試験データ保護に関する実施弁法」の法案を公開し、パブリックコメントを求めています。(関連記事

 

最長5年の特許保護期間の補充

新薬NDA申請、上市を中国の国内外で同時に行なう場合、当該新薬に対して最大5年間の特許保護期間を補充するとしています。
中国は従来、先進国と比較すると医薬品承認審査の時間が比較的長く、開発者にとって経済的損失がありましたが、これを補償するものとなります。
こちらも試行するにあたっては法整備が必要ですが、具体的な動きは確認できておりません。5月から実施されたと日本では報道されましたが、誤報と思われます。前述の4月の発表の冒頭に「5月1日から」とありますが、これは第一項にかかるものであり、他の項目はこの限りではありません。現在、特許法の年内改正に向けて作業が進んでいますが、当該改正法の中で特許期間の補充制度が盛り込まれると見込まれます。

 

考察

データ保護期間の延長も、特許保護期間の延長も、中国政府がジェネリック開発よりも新薬開発を協力に後押しするとの意図の現れです。
しかし、中国の医薬品開発はいまだにジェネリックが多くを占めているという現実があります。このように早いタイミングで知的財産権の保護強化を首相の立場から明言したのにはどのような理由があるのでしょうか。特に特許保護期間の延長はこれまで当局から言及はされていたものの、首相によりいきなりの発表となったのは、それなりの理由があります。

3月1日、トランプ大統領がアルミ輸入制限を発動すると表明して以来、中国とアメリカの間で貿易戦争が始まりそうな状況にありました。しかし中国は輸出に依存した経済であるため、貿易戦争が無用に拡大することは避けたいとの立場です。そこでアメリカをある程度納得させるため、国内事情的にはやや時期尚早な政策を打ち出したのでしょう。
しかしこれだけでは国民の不満が高まることになります。中国医薬品メーカーの開発対象はまだまだジェネリックの割合が高く、ジェネリックの上市時期が遅くなることは医療費の負担として国民にも影響があるからです。そのため、抗がん剤の関税撤廃(関連記事はこちら)や政府調達による薬価低減も同時に打ち出したとみられます。

確かに今回の報道は、各国関係者にサプライズをもって歓迎されました。今後新薬を最初に上市する国として、必ず中国を含めるという流れになっていくはずです。
またデータ保護の推進によって、中国における新薬開発を大きく後押しすることにもなります。この点は関連記事「新薬に最長6-12年のデータ保護期間を与える法案が公開(執筆中)」をご覧ください。

 

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Author Profile

川本 敬二
弁理士 (川本バイオビジネス弁理士事務所(日本)所長、大邦律師事務所(上海)高級顧問)

藤沢薬品(現アステラス製薬)で知財の権利化・侵害問題処理、国際ビジネス法務分野で25年間(この間、3年の米国駐在)勤務。2005年に独立し、川本バイオビジネス弁理士事務所を開設(東京)。バイオベンチャーの知財政策の立案、ビジネス交渉代理(ビジネススキームの構築、契約条件交渉、契約書等の起案を含む)を主業務。また3社の社外役員として経営にも参画。2012年より、上海大邦律師事務所の高級顧問。現在、日中間のライフサイエンス分野でのビジネスの構築・交渉代理を専門。仕事・生活のベースは中国が主体、日本には年間2-3か月滞在。
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