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中国、新薬の「データ保護制度」正式始動!

政策行政
最終更新日: 2026/06/6

中国で新薬の「データ保護制度」が正式に始動しました(2026年5月15日付)。承認された新薬に対して、特許保護の有無にかかわらず、薬事当局(MNPA)が当該新薬の承認申請に用いられた臨床・非臨床・CMCデータを保護し、保護期間中(新薬は最長6年)はジェネリック薬を承認しないという制度です。

新薬データ保護の制度導入は、米国、日本に遅れること40年以上、また、中国政府がデータ保護制度の導入計画を発表(2017年)してから、既に8年以上の時間が経過しています。この8年の間に、中国の新薬の研究開発力が目覚ましい進展を遂げました。昨年は、世界の新薬ライセンス取引中、中国企業が創出した新薬のライセンスが40%を占めるに至っています。また、多国籍企業による中国への新薬投資も拡大しており、研究所・工場等の新設が相次いで発表されています。

このような環境下、MNPAから下記の規則・手順が公表され、「データ保護制度」が正式に運用されることになりました。

  • 「医薬品試験データ保護の実施規則」《药品试验数据保护实施办法》(「実施規則」)及び
  • 「医薬品試験データ保護の申請手順」」《药品试验数据保护工作程序》(「申請手順」)

これは、中国の国内企業の研究開発力が世界水準に達しつつあることを背景に、新薬は承認から6年間(最長)保護され、新薬を保護する特許の存否に関わらず、ジェネリック薬に対する上市承認が付与されません。さらに、海外企業からの中国への研究開発投資を促す狙いもあり、海外企業が中国で臨床開発する新薬も、海外での上市承認から時期的な遅れがあったとしても、同様に6年(最長)の保護期間が付与されます。

そもそもこの「データ保護制度」は、中国に進出する外資系企業が長年にわたり要望し続けたものです。第一次トランプ政権時代の2020年に締結された「米中経済貿易協定」の中で、中国がその導入を合意した経緯があります。それから6年、奇しくも今回のトランプの訪中(5月13日~15日)最終日に、中国政府から「データ保護」の正式始動が発表される形となりました。

次に具体的な保護内容を説明していきます。

1. データ保護の対象

1-1. 対象のモダリティー

合成医薬(低分子医薬等)、バイオ医薬・ワクチンが対象となります(実施規則§3及び別表)。

尚、漢方薬は対象外で、「漢方品種保護制度」のもとで保護されています。

1-2. 保護対象となるデータ

新薬申請(新適応症の追加申請等も含む)に添付された下記のデータを意味します。

  1. 安全性・有効性・CMCに関する全てのデータ(実施規則§5)、
  2. 申請人が自身で取得したデータ(実施規則§3)、且つ
  3. 未公開のデータ(実施規則§3、4条)。

上記iiの申請人自身が取得したデータには、自社研究開発だけでなく、CRO・CDMOに委託して得られたデータ、オリジネータからライセンス許諾等を受けたデータ等が含まれます。

上記のiii未公開データですが、薬機法・情報公開法等で、海外(例えば、日本・米国)で対応のデータを含む例えば総括報告書等が公表されますが、これらの公開データは、申請人が中国で申請に際して添付したデータの全てを含むわけではなく、その一部です。一部が公開されたからといって、ここで言う未公開データの要件を満たすことにはなりません(実施規則§4条)。

2. 保護期間

各モダリティー毎に、医薬品登録管理弁法に定める申請の分類に従って、下記の通り、保護期間が設定されています。保護期間は対応する新薬等の上市の承認日から起算されます。(実施規則§3等)

2-1. 合成医薬(実施規則 付表1)

分類

内容

保護期間

備考

1類

中国国内外で未上市の新薬

6年

(実施規則§5)

2類

中国国内外で未上市の改良型新薬

(新規の適応症・製剤・投与ルート・光学異性体・エステル・塩・合剤)

4年

(実施規則§6)

尚、海外で既に上市済、中国で未上市のオリジナル薬であって、国内外で未承認の新規適応症は、6年(有効性・安全性・CMCの全てのデータを提出すること(実施規則§7)

3類

中国国内企業による(オリジナル企業の許諾を得ずに)申請であって海外上市済、中国で未上市の新薬

3年

(実施規則§8)

但し、最初に承認が付与される薬剤に限る(二番目以降は保護期間付与されない)

4類

ジェンリック薬(中国で上市済みの新薬に対するジェネリック)

–

保護期間の付与なし。

5類

海外で上市済、中国で申請する薬剤

(実施規則§7)

5.1

海外で上市済み、中国で未上市のオリジナル新薬

6年

(実施規則§7)

但し、中国で最初の承認取得後、適応症の追加の場合、保護期間は、4年

海外で上市済の改良型新薬(オリジナル品)

4年

(実施規則§6)

5.2

海外で上市済、中国で未上市のジェネリック薬

3年

但し、最初に承認が付与される薬剤に限る(二番目以降は保護期間付与されない

  • 1類に該当する中国の「国内外で未上市の新薬」とは、海外で上市する前に、中国で新薬上市申請(NDA)を行うものを指す。
  • 新薬を海外で上市済みの場合、上記では1の下で、当該輸入薬について、6年間の保護が得られる。その後、海外生産から国内生産に切り替えたとしても、当該6年の保護期間は変化せず、全期間の保護を享受できる。
  • 「条件付き承認」の場合、かかる承認日から保護期間が始まります。上市後の継続試験による正式承認後、再度、保護期間は設定されません。

2-2. ワクチン(予防用バイオ製品)(実施規則 付表2)

分類

内容

保護期間

備考

1類

ワクチン新薬(国内外で未上市)

6年

(実施規則§5)

2類

改良型ワクチン

4年

(実施規則§6)

3類

3.1 海外で製造する薬剤であって、海外で上市済、中国で未上市のワクチン新薬(オリジナル品/輸入薬)

6年

 

3.2 海外で上市済、中国で未上市のワクチン

(オリジナル品のライセンス取得の有無に関わらず)

3年

 

3.3 国内で上市済のワクチン

–

保護期間の付与なし。

2-3. 治療用バイオ製品(実施規則 付表3)

分類

内容

保護期間

備考

1類

バイオ新薬

(国内外で未上市)

6年

(実施規則§5)

2類

改良型バイオ新薬

(新規の適応症・製剤・投与ルート・合剤等)

4年

(実施規則§6)

尚、海外で既に上市済、中国で未上市のオリジナル薬であって、国内外で未承認の新規適応症は、6年(有効性・安全性・CMCの全てのデータを提出すること(実施規則§7)

3類

3.1 海外で製造する薬剤であって、海外で上市済、中国で未上市のバイオ新薬

(オリジナル品/輸入薬)

6年

(実施規則§7)

但し、中国で最初の承認取得後、適応症の追加の場合、保護期間は、4年

尚、オリジナル品でない(オリジナル企業の許諾を得ずに申請)場合は、3年

3.2 海外で上市済、中国で未上市であって中国国内で製造・上市するバイオ新薬

(オリジナル品のライセンス取得の有無に関わらず)

3年

 

3.3 バイオシミラー

–

保護期間の付与なし。

3.4 その他のバイオ製品

–

保護期間の付与なし。

3. 保護が得られる時期的な要件:発効日vs申請日か承認日か?

実施規則・申請手順の発効日である「2026年5月15日」の時点で未だ承認が下りていない新薬がデータ保護の対象になります。但し、条件が付きます。

保護期間は上市承認日を起算日とすることから、実施機規則・人生手順の発効日以降に上市承認が下りる新薬が保護対象となる考え方が順当であります。しかしながら、データ保護の申請は、上市承認申請時に同時に行うとされています(実施規則§9、申請手順§3)。かかる疑義を払しょくするために、経過規定が公表されており、発効日から15日以内にデータ保護の申請をすれば、申請中の新薬がデータ保護の対象になります。尚、15日以内に申請をしなければ、放棄したと見なされますが。《药品试验数据保护实施办法》的公告(2026年第47号)https://www.gov.cn/zhengce/zhengceku/202605/content_7069003.htm

4. 保護期間の例外(実施規則§3):

たとえオリジナル品の新薬保護期間であったとしても、下記の場合、第三者の申請に対して承認が下りえます。

  1. 先発者の同意:当該オリジナル品の上市承認取得者から同意を得た第三者は、当該オリジナル品のデータに依拠して申請が出来ます。ジェネック申請が可能で、要件を満たしていれば、上市承認がおります。
    その場合、当該第三者は、上市承認取得者との間で締結した同意書をMNPAに提出する必要があります。(申請手順§8 / 雛形:添付2)
  2. 自社データ:当該オリジナル品のデータに依拠せず、自社で全ての必要なデータを取得した(即ち、ジネリック申請でない)場合は、要件を満たしていれば、承認が下ります。但し、当該製品については、保護期間の付与はされず、また、その後に申請する第三者も当該データに依拠して申請することはできません。
  3. 緊急事態:突発的な公衆衛生上の問題、必須の公共の利益からの要請がある場合には、保護期間中であっても、第三者への承認がおりえます。コロナ等の社会的な緊急事態の発生等が想定されています。

5. ジェネリック申請の可能時期(実施規則§12)

新薬データ保護期間の満了前1年以降にジェネリック申請が可能となります。例えば、新薬の場合、データ保護期間は6年ですので、ジェネリック薬請は、対応のオリジナル品の上市承認から5年経過以降に、申請が可能となります。尚、MNPAは、当該ジネリック申請を審査し、要件を満たしていれば、データ保護期間の満了後に、ジェネリック承認を下ろします。

尚、その時点で、対応のオリジナル品(合成医薬)をカバーする特許が存在する場合には、特許リンケージ制度の下で、条件が満たされれば、MNPAでの審査が中止されます(https://www.kawamotobbp.jp/articles/1615)。

6. まとめ

今回の「データ保護制度」の始動は、オリジナル品(先発品)の市場独占を保証する手段として、特許制度に加えて、薬事制度上、新薬の場合、6年間(最長)、ジェネリック薬が出現しないことを保証するものです。ジェネリック企業がガリバー的な地位を築いてきた中国では、本制度の導入にあたり利害の調整が難しく難航していましたが、2026年5月15日にようやく日の目を見ることになりました。

1) 制度導入による中国企業への影響

薬事制度上、中国の新薬企業が新薬を上市後の独占期間が明確化されたことにより、研究開発投資の利益を回収する為の薬事制度上の枠組みが整備されたことになります。これにより、研究開発への新規投資が加速し、新薬の研究開発が更に促進されると期待されています。

2) 日本企業におけるメリット

 日本企業の場合、中国以外の国で、臨床開発を行い、海外で上市後、中国での開発を進めるケースも散見されます。

  1. 保護期間の控除制度の消滅:
    過去のデータ保護制度の検討段階では、「中国開発が遅れた期間に相当する年月を控除して、保護期間を短縮する」とされていました。司会、今回正式に始動した制度では、中国での開発が遅れたような場合であっても、例えば、新薬(NCE)であれば、同様に6年間の保護が得られることになっています。
  2. 特許の残存期間が短いプロジェクトの救済:
    中国での開発が遅れたことで、中国での特許の残存期間が短くなっている新薬プロジェクトにとっては、データ保護を受けられることは大きな意味があります。
  3. 特許リンケージ制度を補完する強力な壁
    たとえ、特許が存在していても特許リンケージ制度の下では、ジェネリック企業は、ジェネリック申請段階で、特許の有効性等を争うことができ、仮に無効と判断されれば、ジェネリック薬が承認されて市場に出現することになります。しかし、今回の「データ保護制度」の始動により、オリジナル品(先発品)のデータ保護期間中であれば、ジェネリックはそもそも薬事承認されないことになり、その意味で、新薬保護制度としては非常に強力な制度となります。

3) 今後の展望

 尚、新薬のデータ保護期間が6年(最長)と設定されていることから、今後は中国の内資・外資を問わず、新薬企業は日本並みに8年(再審査期間)またはそれ以上の保護期間を求めて、更なる制度改正を要望していくことになると思われます。

 

以上

投稿者プロフィール

川本 敬二
弁理士 (川本バイオビジネス弁理士事務所(日本)所長、大邦律師事務所(上海)高級顧問)

藤沢薬品(現アステラス製薬)で知財の権利化・侵害問題処理、国際ビジネス法務分野で25年間(この間、3年の米国駐在)勤務。2005年に独立し、川本バイオビジネス弁理士事務所を開設(東京)。バイオベンチャーの知財政策の立案、ビジネス交渉代理(ビジネススキームの構築、契約条件交渉、契約書等の起案を含む)を主業務。また3社の社外役員として経営にも参画。2012年より、上海大邦律師事務所の高級顧問。現在、日中間のライフサイエンス分野でのビジネスの構築・交渉代理を専門。仕事・生活のベースは中国が主体、日本には年間2-3か月滞在。
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タグ: パテントリンケージ, データ保護制度
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