Tag Archive for: 薬明康徳

日本の医薬品企業は営業・R&D部門も含め、近年、規模の縮小に走っている感があります。

一方で中国の企業は、新薬の研究開発、ビジネス化に向けて規模の拡大に走っています。

中国のCRO業界の雄である薬明康徳 (Wuxi) は、昨年一年間だけで従業員数が8500人増加しました(2022年JP Morganでの発表)。従業員総数は3万5千人となり、そのうち研究開発要員は80%を占めており2万9千人です。コロナにより一昨年来、日本の医薬品企業を含めグローバルに各社の研究所が閉鎖に追い込まれた時期がありました。各社は、自社研究所の代替としてCROに研究を外注する方向に動き、中国のCROはどこも活況に沸きました。薬明康徳の従業員数の激増は、そのようなグローバルの動きを端的に反映していると思われます。

さらには、新薬の癌ベンチャーの雄である百済神州(Beigene),低分子・抗体新薬を広くカバーしている信達生物(Innovent)、臨床段階の新薬を他社からライセンス・インの上、事業化というビジネス・モデルを取っている再鼎医薬(Zai Lab)、これら3社の直近の研究開発及び営業の要員数、下記の通りとなっています。

 研究開発の要員数営業の要員数
百済神州(Beigene)3,700人 (内、海外:800人)3,400人 (内,海外200人)
信達生物(Innovent)1,500人 (内、海外:150人)3,000人
再鼎医薬(Zai Lab)770人940人

薬明康徳こそ創業20年が経過していますが、上記の3社はベンチャーとして創業し、未だ10年に満たないにもかかわらずこれだけの要員を抱えています、しかも営業部隊までも擁するに至っています。日本のベンチャーは、研究開発を行い事業化は既存の医薬品企業に委ねるというのが相場です。これに対して中国のベンチャーは、自社で研究・創出した新薬について、その後の開発、製造・販売は、少なくとも中国国内は自社展開といった会社が多数存在しています。それが短期間での企業規模の拡大に繋がっています。

前回の記事では、中国におけるCROの発展について紹介しました。そして中国のCRO(受託で試験研究を行う会社)・CDMO(受託で化合物・治験薬等を製造する会社)各社の2020年度業績が公表されました。公表されている29社の売上高の総額は、前年比35%伸びています。

中国では、このCRO・CDMOは一般に下記のカテゴリーに分けられます。

  1. 新薬の前臨床試験を広く受託する総合型CRO・CDMO
  2. ジェネリックの試験を受託する総合型CRO・CDMO
  3. 低分子化合物等のCDMO
  4. バイオ系のCRO・CDMO
  5. 薬理・毒性に特化した試験を受託するCRO
  6. 臨床試験を受託するCRO(clinical CRO)

この中で特筆すべきは、上記の1及び4に分類される药明康德(WuXi AppTec / ウーシーアップテック)です。WuXiは傘下にWuXiバイオ(薬明生物技術)を有しますが、この一社で、中国で上場しているCRO・CDMO社の総売上高の25%を占める圧倒的な地位を築いています。今年の売上高の見込(2021年1Qに基づく)は約5000億円に上ります。アステラス・第一三共の年間R&D費用はそれぞれ総額2000億円前後、その内、8割前後は臨床以降の開発コストでしょうから、前臨床段階の研究開発費に限定してみますと、WuXiの規模の大きさが想像できると思います。

このWuXiは、外資、MNCからの受託によりノウハウを獲得し、圧倒的な人材の分厚さと高い専門性を誇っています。また、WuXiはいつから製薬企業に変身するのかと言われていましたが、数年前から米国、中国のバイテク等への投資を活発化しており、その投資残高は1400億円(2021年1Q)にまで上っております。

「新薬の総合型CRO」では、WuXiに続いて、二番手以下、業界内でも歴史ある康龍化成(Pharmaron / 北京)、昨年度は少し足踏み(売上増11%)した睿智化学(ChemPartner / 上海)、売上は48%増と順調な美達西(Medicilon/上海)が続いています。

次いで、上記2の「ジェネリックの総合型CRO・CDMO」ですが、過去、中国政府が承認済みの薬剤について、BE同一性試験等の再実施・データを各社に提出を求めたことから、試験を受託するCROは活況に沸いた時期もありました。しかしながら、近時ジェネリック業界は、政府による集中買付政策の影響が大きいことから、その受託試験CROも難しい時期に入って来ています。各社の規模は大きくないものの、その売上高は、マイナス成長の华威社は別としても各社(新領先/Leading Pharm、博済/Boji等·)6%〜15%増と厳しい結果となっています。

上記3の「低分子化合物等のCDMO」では、各社大きな売上高増(30-50%増)を遂げています。グローバルなサプライチェーンで重要な一角を占めつつあると言えます。博騰(Porton Pharma / 重慶)、九州(JiuZhou / 台州-浙江省)、凱莱英(AsymChem / 天津)等の企業群が挙げられます。

上記4の「バイオ系のCRO・CDMO」も、大きな売り上げ増を達成(40%-700%)。前記のWuXiバイオに加えて、金斯瑞(GenScript / 南京)、義翘神州(Sino Biological / 北京)等が躍進しています。

上記5の「薬理・毒性に特化した試験を受託するCRO」では、昭衍(JoInn / 北京)が最大規模を誇っています(売上増68%)。

上記6の「臨床試験を受託するCRO」では、泰格医薬(TigerMed / 杭州)が巨頭です。これは別途、機会を設けて説明したいと思います。

過去5年間(2016年~2020年)の中国のCRO・CDMO 29社(上場企業)の業績推移ですが、売上高は年平均30%増、従業員数は年平均23%増で成長してきました。 特にコロナの影響を受けた2020年には、海外からの受託増等の背景もあり、売上高35%増、従業員数26%増と非常に大きな躍進を見せています。

上記の29社は上場企業ですが、中国にはそれ以外に数百のブティック的なCROが存在し、それぞれが例えば、どういった薬理vivo試験に強い・優位性があるか等の特徴を有しています。中国内資の新薬研究開発型の企業にとってみれば、そのような何百というCROの中から複数のCROを選択して、如何に有効活用して、R&Dのスピード・質を向上させていくかが非常に重要です。その意味で、自社のR&D推進の為に中国のCRO網を組み入れているということは、当該企業の一種のノウハウとも言えます。

日本企業は試験を外注する際、どうしても中国の著名CROへとアクセス先が限られているようです。今後は、中国の内資企業との連携により、CROも含めた中国のエコシステムの活用が課題になって来ると思われます。