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前回の記事では、中国におけるCROの発展について紹介しました。そして中国のCRO(受託で試験研究を行う会社)・CDMO(受託で化合物・治験薬等を製造する会社)各社の2020年度業績が公表されました。公表されている29社の売上高の総額は、前年比35%伸びています。

中国では、このCRO・CDMOは一般に下記のカテゴリーに分けられます。

  1. 新薬の前臨床試験を広く受託する総合型CRO・CDMO
  2. ジェネリックの試験を受託する総合型CRO・CDMO
  3. 低分子化合物等のCDMO
  4. バイオ系のCRO・CDMO
  5. 薬理・毒性に特化した試験を受託するCRO
  6. 臨床試験を受託するCRO(clinical CRO)

この中で特筆すべきは、上記の1及び4に分類される药明康德(WuXi AppTec / ウーシーアップテック)です。WuXiは傘下にWuXiバイオ(薬明生物技術)を有しますが、この一社で、中国で上場しているCRO・CDMO社の総売上高の25%を占める圧倒的な地位を築いています。今年の売上高の見込(2021年1Qに基づく)は約5000億円に上ります。アステラス・第一三共の年間R&D費用はそれぞれ総額2000億円前後、その内、8割前後は臨床以降の開発コストでしょうから、前臨床段階の研究開発費に限定してみますと、WuXiの規模の大きさが想像できると思います。

このWuXiは、外資、MNCからの受託によりノウハウを獲得し、圧倒的な人材の分厚さと高い専門性を誇っています。また、WuXiはいつから製薬企業に変身するのかと言われていましたが、数年前から米国、中国のバイテク等への投資を活発化しており、その投資残高は1400億円(2021年1Q)にまで上っております。

「新薬の総合型CRO」では、WuXiに続いて、二番手以下、業界内でも歴史ある康龍化成(Pharmaron / 北京)、昨年度は少し足踏み(売上増11%)した睿智化学(ChemPartner / 上海)、売上は48%増と順調な美達西(Medicilon/上海)が続いています。

次いで、上記2の「ジェネリックの総合型CRO・CDMO」ですが、過去、中国政府が承認済みの薬剤について、BE同一性試験等の再実施・データを各社に提出を求めたことから、試験を受託するCROは活況に沸いた時期もありました。しかしながら、近時ジェネリック業界は、政府による集中買付政策の影響が大きいことから、その受託試験CROも難しい時期に入って来ています。各社の規模は大きくないものの、その売上高は、マイナス成長の华威社は別としても各社(新領先/Leading Pharm、博済/Boji等·)6%〜15%増と厳しい結果となっています。

上記3の「低分子化合物等のCDMO」では、各社大きな売上高増(30-50%増)を遂げています。グローバルなサプライチェーンで重要な一角を占めつつあると言えます。博騰(Porton Pharma / 重慶)、九州(JiuZhou / 台州-浙江省)、凱莱英(AsymChem / 天津)等の企業群が挙げられます。

上記4の「バイオ系のCRO・CDMO」も、大きな売り上げ増を達成(40%-700%)。前記のWuXiバイオに加えて、金斯瑞(GenScript / 南京)、義翘神州(Sino Biological / 北京)等が躍進しています。

上記5の「薬理・毒性に特化した試験を受託するCRO」では、昭衍(JoInn / 北京)が最大規模を誇っています(売上増68%)。

上記6の「臨床試験を受託するCRO」では、泰格医薬(TigerMed / 杭州)が巨頭です。これは別途、機会を設けて説明したいと思います。

過去5年間(2016年~2020年)の中国のCRO・CDMO 29社(上場企業)の業績推移ですが、売上高は年平均30%増、従業員数は年平均23%増で成長してきました。 特にコロナの影響を受けた2020年には、海外からの受託増等の背景もあり、売上高35%増、従業員数26%増と非常に大きな躍進を見せています。

上記の29社は上場企業ですが、中国にはそれ以外に数百のブティック的なCROが存在し、それぞれが例えば、どういった薬理vivo試験に強い・優位性があるか等の特徴を有しています。中国内資の新薬研究開発型の企業にとってみれば、そのような何百というCROの中から複数のCROを選択して、如何に有効活用して、R&Dのスピード・質を向上させていくかが非常に重要です。その意味で、自社のR&D推進の為に中国のCRO網を組み入れているということは、当該企業の一種のノウハウとも言えます。

日本企業は試験を外注する際、どうしても中国の著名CROへとアクセス先が限られているようです。今後は、中国の内資企業との連携により、CROも含めた中国のエコシステムの活用が課題になって来ると思われます。

新薬の研究開発は時間勝負。同じdrug targetについて数十、数百の研究グループが追いかけたとしても、各国の薬事政策の下で世に出てビジネスになるのは最初にゴールを切った数社だけ。そういった中で、2020年は某国が発信と言われるコロナ・ウイルスにより欧米がまず打撃を受け、日本も後追いの形で苦しんでおります。海外(中国から見た)の新薬業界では在宅勤務が主流となっており、どの企業も昨年(2020年)は長期間にわたって新薬研究所の閉鎖も余儀なくされました。しかしながら、グローバルの研究開発競争は停止しませんので、世界各社の研究所は競って、外注、CROに研究の実行を委託という道をひた走りました。

他方、いち早くコロナ問題から脱出した中国は、国内での新薬の研究開発が依然として旺盛に展開されており、中国特色あるエコ・システムを形成しているCROに、継続的に外注が続いています。それに加えて中国のCROは、海外企業・研究所機関からの外注が活況に沸き、2020年はどこも目を見張るような業績を達成しました。

中国のCROは、元々ジェネリック薬の合成・CMC等の受託研究をする機関でした。それが、2000年初頭、药明康德(WuXi)に代表されるような新薬研究の受託CROが勃興しました。それらのCROは、欧米のMNC(多国籍企業)から新薬に関連する非臨床研究(合成、毒性、薬理等)を受託するというビジネス・モデルで、上海を始め各地で旗を上げました。そして、あるCROは特定のMNC向けに代謝研究等を行う専用ビルを建設するなど、グローバル基準に則った試験の実行体制が整えられました。今では、グローバルに見て、中国のCROを抜きにした新薬研究の遂行は語れない時代に入って来ています。このように、中国のCROはMNCに育てられたと言ってもいいと思います。 

潮目が変わってきたのが、10年弱前からです。それまでは、中国の大手CRO(化合物・治験薬等の製造をするCDMOを含む)は欧米を中心とした医薬品企業・研究機関からの受注でした。それが、中国内資の新薬企業からの受注が増えて来て、今では、大手の中で内資からの受注が半数以上というCROも増えてきています。内資の新薬研究の膨張に従って、中国CROが更に発展してきている図式です。

そして、2020年の各社CRO(CDMOを含む)の業績が公表されました。公表されている29社の売上高の総額は、35%の伸びを達成しました。

次の記事ではCRO・CDMO各社を6つのカテゴリーに分け、2020年度の業績、および活用について紹介します。