1.中国での特許侵害と裁判所

第三者が自社の特許(以下、実用新案権、意匠権も概念として含める)を侵害する製品を製造・販売している等の侵害行為をしている場合、その救済を求めるに当たり、中国では2つのルートがあることを2月度のメモで紹介致しました。特許侵害の救済については、日本では特許法第100条以下に定められていますが、中国では、特許法第60条以下に規定されています。この第60条の構成ですが、法は先ず、①当事者の協議による解決を求めています。①の協議を望まない、又は不成立の場合に、②司法ルート及び③行政ルートで救済を求めることが出来るとしています。②の司法ルートは、日本と同様の制度で、裁判所での解決を図る手法です。日本では、特許侵害事件については、東日本は東京地裁、西日本は大阪地裁が夫々管轄しています。一方、中国では、第一審は原則として、全国に70以上ある中級法院の管轄となりますが(省の数は22、自治区は5、直轄市は4)、訴額が大きい(30億円相当以上)場合には、第一審は高級人民法院となります。中国の特徴的なところとして、2審制が挙げられます。第一審の中級の判決に不服の場合は高級人民法院に、第一審が高級人民放任の場合は、最高人民法院(北京)に上訴し、其々、第二審でも事実審理がなされ、最終審となります。上海について言えば、2つの中級人民法院があり、例えば、被告として上海の浦東にあるハイテク・パーク(張江ハイテク・パーク)内の企業を訴える場合には、上海第一中級人民法院に訴え出ることができます。その判決に不服の場合、上海市高級人民法院に上訴し、そこが最終審となり、上海市内での裁判で完結することになります。裁判では、「侵害行為の差し止め(製造、販売の禁止)」、「損害賠償」の救済が得られますが、日本で認められる「信用回復」の措置(新聞紙上への謝罪広告等)(日本特許法106条)は認められません。

2.特許侵害と行政救済

さて、中国の特徴的な制度として、③行政ルートがあります。2月号で説明したように、特許侵害行為を取り締まる権限を有する地方政府内の特許事務管理部門に対して、事件処理の申し立てをすることが出来る制度です。上海では、例えば、前期のハイテク・パーク内の企業を対象とする場合には、上海市内にある「上海市知的財産局」に申し立てることになります。当該地方の知的財産局は、事実認定を踏まえて、侵害が成立する場合には、製造・販売等の差し止めの命令を発することができます。当事者が当該処理判断に不服の場合は、人民法院に行政訴訟を提起することが出来ます、また、行政ルートでの解決が不十分な場合、別途、裁判所に侵害訴訟を提起することも可能です。損害賠償については、行政ルートでは、その判断・裁定がなされませんが、当事者の求めがあった場合、賠償額について両当事者間の同意を促す調停を行うことができます。当該調停が成立しない場合には、当事者は、民事訴訟を提起することが可能です。

商標の場合は、中国商標法第53条以下に侵害に関する規定が置かれています。全体のコンセプトとしては、上記の特許侵害事件と同様ですが、行政ルートのところが、少し、異なります。特許の場合は、地方政府の知的財産局に処理を求めますが、商標は、商工行政管理局が担当します。また、そこでの審理の結果、発せられる命令の内容として、侵害の停止命令に加えて、罰金を課すことが可能です。尚、損害賠償額の調停については、特許と同様です。

行政ルートについては、即効性、柔軟性の利点が挙げられます。展示会を例に挙げて説明しますと、上海にも巨大な国際展示場が複数あり、様々な展示会が行われ、賑わっていますが、例えば、その展示会場で他人の意匠(デザイン)を勝手に使用して宣伝している等、知的財産の侵害(販売の申し出)がなされていた場合、権利者は、上海の知的財産局に処理の申し立てをすることが出来ます。意匠、商標等、その侵害が比較的明らかなような案件の場合、柔軟な対応により短期間で差止の処分が行われうる等、即効性が期待できます。上海は、海外に開かれた大都市で海外の企業に対しても比較的に公平な判断がされうる土壌にあると言われていますが、これに対し、地方都市の場合は、地方保護主義の存在に注意する必要があります。侵害者の地元を管轄する政府は、地元企業を保護する傾向にあり、行政ルートでの侵害処理にも海外の権利者にとっては難しい面があると言われています。また、地方での裁判ルートも同様で、裁判官が当該地方の人民代表大会の常務委員会によって任命されることから、更には、二審制により、多くの場合、当該省内の裁判所で裁判が完結することから、地方政府、人脈の影響を受けやすく、地方保護主義の影響が強いと言われています。

以上

<前回の記事>

日本では特許庁が特許の主管庁として出願を受理し、審査、特許権の付与の業務を行うと同時に、特許政策の立案を主導しています。一方で、知的財産権の侵害事件等は、裁判所での処理、即ち、侵害に対する停止、損害賠償の請求等の救済措置は裁判所で実現、解決を図っていく制度をとっています。

さて、中国ではどうでしょうか?日本の特許庁に該当する組織、国家知的財産局が北京にあります。そして、侵害問題は、裁判所で解決を図っていくことが勿論、可能です。中国特有な制度として、それに加えて、行政による救済です。日本でも、昔は、護送船団方式とかの呼び名で、政府が企業活動に口出しをしておりましたが、今の中国、行政が企業活動に対して強い影響力を行使していると言われています。企業の行為に問題がある場合には、行政機関として工業生産・商業、製品品質、食品・医薬品、環境、税務、関税、外貨管理、労務社会保障等を担当する政府の各行政部門が企業に対して調査・処罰権を有しています。そして、企業が知的財産権の侵害行為にかかわった場合も、行政機関が対応、関与してきます。

行政といった場合、日本では中央の行政のコントロールが強すぎるので、それを改めるといった議論がされますが、一方で、中国は、なにせ、13億の人口を抱え、日本の国土の25倍、多民族国家で、地域によって経済事情が異なっていることから、地域特有の対応をする必要性もあり、その意味で、地方政府もある意味で大きな力を握っています。ですので、中央政府に加えて、その地方政府も企業活動に様々なレベルで介入??してくる、といった多重構造になっています。特許面では、どうか?日本との違いは、先ず、中国特許法の§4に特許行政を司る政府部門として、中央政府の行政部門と地方政府の特許事務管理部門の其々の職務権限・範囲の概略が規定されていて、実施細則には、地方政府の特許事務管理部門の職務分掌が規定されています。実際の組織の名称としては、前者は、国家知的財産局、後者は、例えば、上海の場合、上海市知的財産局と呼ばれます。上海は、直轄市であり、地方としての各省に設けられているーー知的財産局と同列の組織です。

国家知的財産局は、前記の通り、日本の特許庁をイメージしていただくとして、さて、地方政府の上海市知的財産局の職務分掌は? 日本には明確に存在しない組織ですので、注意が必要です。その一つの役割が、上記で言及した侵害問題が発生した際の、侵害行為の停止命令の措置、及び損害賠償の調停をすることが出来る権限です。さて、その詳細は、次回に。

<次回の記事>

日本側の声として、中国企業とライセンス契約を締結して、特許・ノウハウ技術のライセンスを許諾したけれど、一向に契約通りに履行してくれない。ライセンス契約上、中国企業(ライセンシー)から支払われる契約金(upfront money)も日本側の銀行に入金されるまで、果たして支払ってくれるのか否か、読めない、そういった不審の念を抱かれている方も多いと思います。然しながら、そもそも、契約の締結に至るまでに、日本側から契約条件の一方的な押し付けといったようなことは無かったでしょうか? 中国の法制度をきちっと理解した上で、契約交渉がなされたでしょうか? それを知っていれば、同じ条件を別角度から契約に落とし込んでいったかも知れません。今回は、先ず、中国企業とのライセンス契約に適用される中国法の概観、及び、契約登録制度について説明した上で、次回以降のテーマに繋げて、中国企業がキッチリと履行できるような契約の締結する為の道筋を探っていきたいと思います。
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1.発明の場所と日本・米国特許法

日本国内の研究所等で生まれた発明は、どこの国で最初に特許出願をしようと、これは、出願人の勝手です。米国の企業が、日本にある研究機関に研究を委託して、そこから発明が生まれたと仮定しましょう。米国企業と日本の研究機関の両者間の契約で、当該委託研究から生まれた発明は米国企業に帰属すると合意していれば、米国企業は、当該発明を自己の名義で特許出願して権利化することができます。その際、米国企業は、最初の特許出願を、日本でするのか、それとも米国でするのか、自己の都合で、自由に決定することが出来ます。

一方で、米国国内で生まれた発明については、米国特許法の下で、先ず、米国での出願が求められます。それを望まず、海外(例えば日本)で先に出願したい場合には、米国特許庁に発明の内容を説明する書類を提出して、先に海外出願することの許可をとる必要があります。

2.中国国内で生まれた発明と中国特許法

では、中国国内で生まれた発明については、中国特許法の下では、どの様な取り扱いを受けるでしょうか? 米国の制度と同様です。中国で先ず、特許出願を済ませていれば、その後に海外(中国国外)に出願することができます。然しながら、海外で先に特許出願しようとする場合には、中国特許庁に秘密審査を請求し、事前の許可を得る必要があります(中国特許法§20)。中国国内で生まれた発明が武器等の国防に関わる発明、又は中国の国益に重大な影響を与える発明の場合には、中国の制度上、国防特許出願又は秘密特許出願と認定され、国益保護の為に出願は公開されません。当該発明に該当するか否かは、秘密審査という手続きを経て確認されます。ここで、もし、自由に海外出願を認めると、それによって申請された海外の出願が自動的に公開され、秘密が守られなくなってしまうことに繋がるので、このような制度をとっているとされています。もし、中国特許庁の事前許可を得ずに海外出願した場合、その後、当該海外出願に基づいて出願された対応の中国出願は、特許されませんし(§20④)、たとえ特許されたとしても無効となりえます(§45、実施細則§65)。

3.中国で生まれた発明への出願対応

さて、日本の企業が米国の研究機関と組むことによって米国国内の研究所等で生まれた発明については、米国特許法の要請に従って、米国で最初の特許出願をすることについては、あまり、抵抗感がないと思います。一方で、中国で生まれた発明については、最初に中国へ特許を出願するとなると、それは、中国語での出願となり、心理的な?抵抗もあるかもしれません。

一つの例ですが、日本企業が自社の新製品の特性についての試験データを取得する目的で中国の研究受託機関に試験を委託した場合を例にとって考えてみましょう。日本企業及び中国の研究受託機関の間で事前に委託契約を取り交わし、その中で、当該研究機関が試験の実施により生まれたデータの所有権は、研究費を負担している委託側(日本企業)に帰属させる、と定めていくのが、一般的な手法だと思います。その場合、当該日本企業が中国で生まれたデータをそれ以降に提出される特許出願の実施例に何らかの形で盛り込んで使用する場合、すこし、微妙な問題が含まれます。中国側に研究を委託する前に日本側で発明の構想が練られた上で、そのデータ取りのみを中国の研究機関の研究テクニシャンに依頼する場合、中国テクニシャンは発明者として認定されないでしょうから、そのデータは中国国内で完成した発明には該当せず、問題は起こりません。しかしながら、中国側の研究テクニシャンが発明者と認定され、日本側の研究者との共同発明が成立する場合はどうか、それは、貢献度の問題で、中国側の発明者の貢献度が比較して高ければ、中国国内で完成した発明とされます。その場合には、たとえ当事者間の契約によって、当該発明が日本側に帰属すると定められていたとしても、上記の§20に従った処理が必要となります。即ち、先に中国で特許出願をするか、それを望まない場合、中国で秘密審査を受けてから海外(日本)出願をせねばならないことになります。

日本企業が自己に関わる発明で、それが米国国内の研究機関等で生まれた発明を特許出願する場合には、米国の発明者と自己が指名する米国の特許専門家の間で直接、議論してもらった上で出願明細書を作成、日本側がその明細書の英文版をチェックした上で、米国特許庁に特許出願する、そういった仕事の仕方をすることになっているでしょう。さて、今後、日本企業にとって、自己に関わる発明で、それが中国の研究機関で生まれた発明、即ち、中国産の発明が多く生まれてくることが予想されます。その中国産の発明の特許出願をする場合を想定して、中国の研究者と中国の特許専門家の間で中国語の出願明細書を作成、それを日本側がチェックする、そういった体制を早く作っていくことを考える必要があると思います。日本には、中国人の特許専門家、少なからずいらっしゃいますが、中国には日本人の特許専門家、限られているといった印象です。いつやるの?今でしょ!

以上

会社時代(藤沢薬品、今のアステラス)、天然物の研究者の片腕?の役割で東南アジアのある国から新規医薬品の種となりうる微生物を豊富に富む土壌を入手する仕事を一緒にさせて頂いたことがあります。当時、友人であるその研究者が、中国のベトナム国境近く、雲南省の微生物が欲しいと呟かれて、では、次は雲南から、と思っていたのですが、それは実現せず、お蔵入り。先月、ウイグル族のテロ事件があった省都の昆明のはるか南の山岳地帯、神秘に包まれている?

手に入りにくいと、チャレンジ精神が掻き立てられる?のかもしれませんが、今回は、手に入りにくい背景、関連する特許法の枠組み・構成について、説明したいと思います。

中国では、国から給付対象となる(全額、自己負担とはならない)医薬品を掲載している国家基本医薬品リストの全品目のうち、漢方薬が4割を占めており、医薬品として存在感たるや、日本とは違ったものがあります。その漢方薬の多くは天然の植物由来です。また、新薬のR&Dの側面では、低分子化合物の医薬品については、日米欧に大幅に遅れをとっていることから、医薬品国家五か年計画等でも、バイオ医薬に力点が置かれており、漢方薬、植物抽出成分を対象とした研究開発もその柱の一つ、戦略分野に指定されています。

一方で、このような微生物や植物は、人類に新しい医薬品等の製品をもたらす「遺伝資源」として捉えて、これらの「遺伝資源」を保護するための国際的な条約があります。生物多様性条約(CBD)と呼ばれている国際条約がそれで、日本も中国も締約国になっています。このCBDの基本原則は、一として、「遺伝資源」に対し、その存在している国に「主権」を認めること、二として、その遺伝資源を採取・取得するには、事前に主権を有する国の機関等の「同意」を取っておくこと、三として、その遺伝資源を利用して儲かった場合、当該資源の主権を有する国に「利益を配分」することです。日本は、利用して、儲ける側の国ですから、CBDの下でも、三原則の順守については、原則の範囲内で消極的な立場を取っています。これに対して、アジア諸国は、資源の主権を有する国ですから、微生物や植物を含む遺伝資源の海外への持ち出しについては、様々な制限をかけており、CBDの下で積極的にその権利を主張しています。中国は、漢方薬のメッカであるように、遺伝資源の主権を有する国であると同時に、その利用国でもあり、二つの帽子を被っています。

その中国の特許法は、遺伝資源の「主権」を有する国の立場を鮮明にしています。2008年の中国特許法の改正の際、日米は強硬に反対の立場だったのですが、中国は遺伝資源を利用した発明について新たに二つの条文を盛り込みました。先ず、遺伝資源を利用した発明については、特許出願の明細書に、その採取場所等の由来を記載すること(特許法26条5項)、そして、CBDの原則の考え方を反映して、中国国内の遺伝資源に基づく発明については、その取得・利用の段階で、中国の法規制に違反して取得・利用した遺伝資源をもとに完成した発明は、特許が付与されない旨(同5条2項)、規定しています。前者の規定は、当該遺伝資源の由来が中国の国内であろうが国外であろうが、関係なく、特許出願の明細書にその由来の記載が必要で、その記載がされていない出願は拒絶されます。他方、後者の規定は、当該遺伝資源の由来が中国国内である場合のみが対象であり、中国国外に由来する遺伝資源には適用されませんが、その違反は、審査の段階で拒絶理由となり、特許されないばかりか、たとえ、特許として成立したとしても、あとで違反が発覚した場合には、特許が無効となります。従って、中国が主権を有する遺伝資源(例えば中国産の漢方植物や微生物)について、中国の法規制が定める手続きを踏まずに、勝手に採取・取得して国外に持ち出し、それを用いて研究し、そのことによって生まれた発明について、中国に特許を出願したとしても、特許は認められません。また、たとえ特許が成立したとしても、爾後に、遺伝資源の採取・取得に関し、中国の法規制が定める手続きを取っていなかったことが発覚した場合には、特許は無効となります。

僕は、資源の拠出国と事前にきちんと話し合って、手続きを踏んだ上で、しかも、利益配分も合意をした上で、R&Dを開始すべきとのスタンス、そうすることによって、資源国から遺伝資源の入手をしやすくすべき、との立場なので、中国の特許法の構成については、違和感はあまりないのですが、ここは議論のある所だと思います。

中国特許法は全体で僅か76条しかないのですが、その中に、販売段階での不正行為、例えば、特許品でもないのに特許品として販売する等の特許の偽称行為について、行政機関の調査権限、及びその処罰に関し事細かに定めている規定が存在しています(63条、64条)。遺伝資源の不正入手に関する規定は、いわば、R&D段階での不正行為について、これを特許の無効理由としているとも捉えることが出来るように思います。日本的にはとても考えにくい低いレベルの不正行為が販売段階に限らず、横行している、といった背景があり、それを如何に、変えていくか、特に、中国がR&D投資に傾斜しだした今、正に、分岐点にあるように思います。