Innovent Biologics(信達生物)のがん免疫療法薬 Tyvyt (sintilimab) が、12月27日に国家薬品監督管理局(NMPA)によって上市承認されました。これは、再発・難治性古典的ホジキンリンパ腫(cHL)治療薬で、PD-1阻害剤です。

これにより、中国で上市承認された中国発の免疫療法薬は2つとなりました。中国発の最初に上市承認されたのは、2018年7月26日の toripalimab です。いずれも中国でまず上市され、今後欧米でも上市される予定です。 sintilimab は中国国内において、中国の製薬会社と海外の製薬会社(イーライリリー)が共同で開発した、初の免疫療法薬でもあります。

中国において既に上市されている抗PD-1/PD-L1阻害剤は、中国発のこの2つの他には、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)とイペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)のみであり、Innovent の CEO は PD-1 阻害薬が中国の医薬品企業にとって海外企業と対等に戦うことのできる最初の領域になったと語っています。

sintilimab は4月16日に上市申請されたので、審査期間は255日ということになります。

日本の総理大臣が7年ぶりに中国を公式訪問した10月26日、52本の協力覚書が交換されました。
そのうちの一件として、富士フイルムと中国の浙江海正との、抗インフルエンザ薬「アビガン」に関する提携の覚書があります。

臨床データの提供
富士フイルムは、これまで蓄積してきた「アビガン」の臨床データ等を、浙江海正ほか、中日友好病院と国家緊急防控薬物工程技術研究中心に提供します。

注射剤の開発
富士フイルムと海正薬業は、「アビガン」の有効成分を用いて、重症インフルエンザ患者などを対象とした注射剤の開発を検討します。

すでに2016年6月には、富士フイルムは浙江海正に対して、「アビガン(有効成分ファビピラビル)」の開発・製造・販売の権利を与えており、今回は内容を一部拡大しただけのものとなっています。
しかし、首脳会談にて発表される52件の中にこの案件を含めたということは、日中双方で医薬品開発を重視していることの表れと言えます。

尚、海正のトップの白董事長は、11月8日に退任の発表をしました。長期に亘り海正を率いてきた71歳の白董事長の今回の退任は様々な憶測を呼んでいますが、最後の置き土産として、この日中間の協力拡大を残してくれたと言えるのかも知れません。

8/6に「米国より中国を重視、5年後には主流か - 新薬承認で世界市場一変も」という題のブルームバーグの記事が公開されました。

記事の概要は、

  • アストラゼネカは貧血治療用新薬を中国で米国より1年ほど早く投入
  • イーライリリーも新薬を中国でまず上市予定
  • 今後5年で世界初上市に中国を含めることが主流になるかもしれないと予想

アストラゼネカの貧血治療薬

アストラゼネカがの言及した貧血治療薬は、FibroGen社の開発したロキサデュスタットです。日本ではアステラス製薬が第III相臨床試験を行なっており、中国ではアストラゼネカが同試験を行なっています。そしてアストラゼネカが米国と中国での開発販売権利を、アステラスが日本、欧州、中東、南アでの権利を有しています。
アストラゼネカは米国と中国のうち、中国においてまず販売するということですが、2013年のニュースリリースの中で、既にその方向で計画を進めていることを明らかにしています。

世界展開する新薬の初上市が中国というのはこれまでになかったことであり、今年年末の上市成功の際には中国で大いに話題になるに違いありません。

イーライリリーも中国でまず上市

イーライリリーは新薬開発の8割において世界同時開発を実施しています。しかしその中で抗がん剤 Fruquintinib は中国でまず上市の予定。Fruquintinib は和記黄埔医薬(ハッチソンメディファーマ、Hutchison、上海)の研究開発により見出されたもので、中国における結腸直腸がん、肺がん、胃がん適応についてはリリー社をパートナーとして進めています。既に蘇州に専門の製造工場も建設済みとのこと。

中国の医薬品市場規模は急速に拡大

医薬品市場規模において、中国は2013年に日本を超え世界第2位になりました。今後日本は緊縮政策により市場規模は横ばい、もしくは減少に転じる可能性もあります。
しかし中国は裏付けとなる経済の拡大、元々の人口が多いことや、急速に高齢化が進んでいること、関税の引き下げなどの要素により、規模は引き続き急速に拡大するとみています。また、毎年数百万人が自費で海外で治療を受けているといわれており、新薬承認の早まりによりこれらも中国市場に戻ってくることになります。
このように売上貢献度の高い国、地区で先ず発売することは当然の流れといえます。

先駆け審査指定制度が中国においても始動

日本では2014年、それまでのドラッグラグ解消を中心とする政策から、研究開発促進の政策に転換し始めたころ、先駆け審査指定制度がスタートしました。
中国においても優先審査の制度が2017年より開始され、また近い将来には、中国で臨床試験をした新薬についてデータ保護期間を最大3倍に伸ばす制度も始まる予定です。
こうした優先審査を考えると、中国における同時臨床試験の実施は今後増えていくものと予想されます。

中国における研究開発の急速な発達

リリー社の例のように、中国において研究開発された新薬の製品化が今後も増えていくと想定されきます。既に研究開発に関するニュースの発信源が中国であるのは珍しくなくなりました。
中国で研究開発された新薬ですから、米国等でなく中国にて先ず上市を計ることになります。

販売市場としての中国の発展だけではなく、研究開発拠点としての中国の存在感が増している結果、今回のように「世界初上市を中国で」、との流れができ始めています。

2018年5月に非臨床・臨床の試験データの保護制度に関する法案が公表されています(cFDAより)。新薬の開発が終わって販売承認がおりた後、ある一定期間中、当該新薬の開発・承認取得者に対し市場独占の権利を享受させる制度としては、先ず、特許制度が挙げられますが、それ以外にも薬事制度の下でも保護制度が構築されています。先ず、中国に於ける新薬販売の独占期間を担保する制度の全体像を探り、その上で、データ保護制度(案)の内容を検討します。

1.中国の市場独占性と法制度の整備動向

「新薬の研究開発投資の促進」と「ジェネリック薬の適時の市場参入」の両面での政策目的の実現を図りつつ、その両者の利害を調整する為に、中国では、ここ1-2年の間に、「新薬の独占販売期間」の設定に関し、特許法及び薬事法を中心に様々な制度整備が図られています。

1)特許法

(1)「特許侵害の抑止」

先発の新薬をカバーする特許の有効期間中にジェネリック薬が市場参入した場合には、特許侵害問題が発生します。中国では、今、知財保護の強化の観点から、特許侵害行為の発生を抑止する為の諸規定を盛り込んだ特許法の改正(第4次改正)作業が進んでいます。

(2)特許期間の延長

更には、医薬品の特許保護期間(20年)を延長する為の新制度の導入についても具体的な検討がされています。(関連記事

2)薬事法

(1)「再審査期間」

日本の新薬に関する再審査期間に該当するのが、中国では、「監測期間」と呼ばれているものです。先発品としての新薬が承認された後、この期間中は、ジェネリックに対して承認が与えられない制度です。従来から各分類毎に、例えば新薬(新規薬効成分NCE)について5年、その他新製剤・新投与ルートについても夫々の期間が付与されていました。2016年3月に「低分子化合物医薬の分類改正」が行われ、NCE、新製剤・新投与ルート等の類を組み換えた上、夫々の類別に承認日から3〜5年の期間を設定し、その間、ジェネリックの承認が付与されないという制度が敷かれています。

(2)「Patent Linkage」

Patent Linkageの制度導入が検討されています。即ち、① 新薬の販売承認の申請者に当該新薬をカバーする特許情報の提出を求め、cFDAが当該特許情報を公開することを前提に、ジェネリック申請者が、当該特許が無効である等の理由がある場合には、当該事情を説明・表明することにより、特許の有効期間中であってもジェネリック申請が可能となり(「特許チャレンジ薬」の申請)、② 当該説明・声明がなされた場合、特許権者に回覧され、特許権者に対して裁判所に特許侵害訴訟を提起する機会が与えられ、他方、訴訟が提起されない等の場合には、ジェネリックに承認が付与されるとの新制度の導入検討がされています。検討中の案については、2017年5月のcFDAからの通知によって概要が示されています。

(3)「データ保護」

新薬の販売承認の申請者が自分で実施した試験から取得した臨床・非臨床の試験データについては、これを承認申請時に提出した範囲で、当該データの第三者による使用が禁止されるという「データ保護」制度の具体化が検討されています。

新薬の開発者は上記の特許法上及び薬事法上の保護制度を重層的に活用して、より長い市場独占を図ることが必要となってきます。

2.データ保護制度

現行の薬事関連法(「薬品管理実施条例」及び、「薬品登録管理弁法」)には、非臨床・臨床の試験データ保護に関する規定が存在していますが、その具体的な実施に関する細則が制定されていなかったことから、法律上はデータ保護がうたわれているにも拘らず、実際には試験データに対して保護が付与されていませんでした。日本では馴染みのない制度ですが、中国がWTOに加盟するに際して、TRIPS協定を順守する必要があり、その39条3項に、加盟国は新規化合物を含有する医薬品に対して販売承認申請に用いられたデータを保護の為の施策をとる必要があると規定されていることから、中国が、上記の薬事関連法に盛り込んだ経緯があります。

従来、データ保護は、絵に描いた餅の状態だったのですが、昨年(2017年)10月に中国の党中央・国務院が「医薬品・医療機器の承認申請制度の改革の強化及びイノベーションの推進に関する政策」を公表し、その中でデータ保護制度の構築(第18条)が宣言されたことを踏まえ、今年(2018年)5月にcFDAが「薬品試験データ保護の実施弁法(暫定)」(「データ保護弁法(案)」)として草案を公表し、パブリックコメントを求めました。その内容に基づき、近い将来、正式に細則が定められ、実質的に具体的なデータ保護が与えられることになるとされています。未だ、案の段階ですが、次にその概要を見て行きたいと思います。

1)保護の対象となる「医薬品」及び「試験データ」(「データ保護弁法(案)」§3、4)

新薬(NCE)、バイオ新薬、オーファンドラック、小児用薬及び「特許チャレンジ薬」について、自己が実施した試験によって取得した臨床・非臨床の試験データであって、承認申請にあたって申請データとして用いられた有効性等に関する未公開データに対して保護が与えられます。尚、安全性に関するデータについては、保護対象外とされています。

尚、今後、データ保護制度の細則を決めて行く段階で詰めなければならない点としては、
① 医薬品の申請データに関し、日本の情報公開法、米国のFOI法の下で、政府当局による公表の対象外となっているCMCデータの一部を含む商業機密データに対する保護をどの範囲で与えて行くのか。
②「特許チャレンジ薬」については、前記の通り、ジェネリック申請者が、先発品の特許が有効期間中に、当該特許が無効である等の主張(チャレンジ)をして、これが認められて、販売承認が付与されるジェネリック薬ですが、特許無効が最終的に裁判所で認定される必要があるのか否かも含めて、その条件は、Patent Linkage制度に関する細則の制定とセットで処理されることになります。

2)データ保護の保護内容(「データ保護弁法(案)」§8)

データ保護を受けている事業者(先発品の先発企業)の事前の同意を得ずに第三者(ジェネリック・企業を含む)が保護対象となっている試験データを使用して申請した場合、cFDAは当該ジェネリック申請に対して、下記の「保護期間」中は承認を与えない、との趣旨で規定されていることから、その範囲で、試験データに対して保護が与えられることになります。ここでいう試験データに対する保護の意味ですが、比較の意味で、例えば、不正競争防止法の下では、価値ある秘密データに対して保護が与えられますが、具体的には、秘密データの保有者は、第三者に対して、その不正使用があった場合には、裁判所に訴訟を提起することによって、その差止を求め及び損害の賠償を請求できるということです。他方、薬事関連法の下では、保護が与えられた「試験データ」をジェネリック企業が勝手に使用して、「保護期間中」にジェネリック申請をした場合、当該申請は承認されないという意味での保護が与えられます。

3)保護期間(「データ保護弁法(案)」§5)

新規有効成分含有(NCE)の新薬に対しては、当該新薬の試験データに対して、販売承認日から6年間のデータ保護期間が与えらます。これも含め、リスト化すると下記の通りとなります。

類別 保護期間 条文番号
NCE新薬 6年 §5
バイオ新薬 以下の場合を除く 12年 §5
① 中国が参加した国際共同治験の試験データであって、中国での申請が他国より遅れた場合(6年以上遅延の場合、保護は与えられない) 1〜5年
② 中国で実施した臨床試験データを用いず、海外の試験データのみを用いて申請の場合 上記期間の1/4
③ 中国の臨床試験データを補充して申請の場合 上記期間の1/2
オーファンドラッグ 6年 §6
小児薬 6年 §6

尚、「特許チャレンジ薬」については、今回の法案では「保護期間」について明示されておらず、Patent Linkageの制度と並行して、その「保護期間」が検討されていると思われます。

4)データ保護を求める申請手続き(「データ保護弁法(案)」§9,10,11)

データ保護を求める為には、対象の医薬品の承認申請時に、同時に、当該医薬品の試験データについて保護を求める理由及び求める「保護期間」を記載の上、データ保護の申請をする必要があります。CDE(審査機関)は、対象医薬品の承認審査と並行して、データ保護の審査を実施し、承認の付与時に、データ保護についての結果を通知します。「保護期間」等の情報は、公示されます。

5)保護されるデータの公表(「データ保護弁法(案)」§17)

データ保護を認められた者(即ち、新薬等の承認取得者)は、自主的に、保護対象となったデータを公開する必要があるとされています。これは、公表させることによって、公衆の監督監視下に置き、データの捏造等の不正行為を未然に防ぐとともに、試験の重複実施による資源の浪費を回避するのが目的とされています。

6)第三者による「保護データ」の使用(「データ保護弁法(案)」§14、17)

「保護期間」中であっても、ジェネリック企業等の第三者は、自分で試験を実施して、データを取得した場合、又は、「データ保護」を受けている先発の企業から同意を得た場合は、当該データを用いて、承認申請することが出来ます。

第三者から当該申請があった場合には、cFDAは、「データ保護」を受けている先発の企業に通知をして、異議を申し立てる機会を与えます。尚、かかる紛争は、最終的に行政訴訟によって、解決されるとされています。

前記の通り、当局は、今年5月に上記の制度案を公表し、パブリック・コメントを求めました。各団体等から出された意見・コメントを踏まえて、当局が検討中と思われます。本件につき、動きがあり次第、報告の予定です。
以上

4月12日、国務院常務会議において李克強総理は抗がん剤の関税をなくすという発表を行ない、これは中国国民に大きな反響をもたらしました。
この発表の背景にあるものは何でしょうか。

国務院(内閣)常務会議における重要決定項目

2018年4月12日に開かれた国務院常務会議にて、医薬品に関連したいくつかの重要な政策が李克強(首相)により発表されました。
① 5月1日より、抗がん剤の輸入関税をなくす
② 抗がん剤を政府によって調達することにより、中間のコストをなくす
③ 輸入新薬の上市を早めるため、臨床試験開始のためのIND申請制度、および医薬品輸入手続き制度の改正
④ 新薬に最長6年のデータ保護期間、中国と海外で同時上市の新薬について、最長5年の特許保護期間の補充(関連記事はこちら
今回は項目①と②を取り上げます。

5月1日から抗がん剤の関税をゼロに

中国はWTOに加盟した2001年以降、医薬品に対する関税を徐々に低減させてきました。直近でも昨年12月より、抗がん剤の輸入関税を2%まで下げています。
現状2%という低水準の関税ですから、それが0%になったとしても経済上のインパクトはほとんどありません。しかし、「すべての医薬品で関税撤廃」というワードは十分なインパクトがあります。

輸入国産を問わず、消費税が大幅低減

4月12日の国務院常務会議において、関税撤廃と同時に、増値税(消費税に相当)も低減させるとの発言がありました。この時に税率には触れていません。
そして4月27日、財務部は「抗がん剤の増値税政策について(財税(2018) 47号)」という通知を出し、これまで17%だった増値税を3%に減税すると発表しました。こちらは販売価格に影響を与える減税額になっています。しかし、元々輸入抗がん剤は価格が非常に高いため、たとえ20%価格が安くなったとしても中国の庶民にとってはとても買える物ではありません。
そこで続く第三の政策、最も実効性の大きな政策に注目してみましょう。

抗がん剤の一括調達による中間コストの低減

4月の重要決定事項の2番目に挙げましたが、政府は一括調達、保険の適用リストの見直し、各企業との価格交渉、電子商取引の活用によって販売価格を低減させることを発表しました。
この一括調達、保険適用、価格交渉、電子商取引はそれぞれ密接な関係があります。
もし新薬が中国の保険適用になれば、一気に販売量が増えることになります。そこで政府は保険適用をするに際し、各企業と価格交渉をしたり入札を実施することによって、調達価格を圧縮します。2017年の実績で平均50%も値段を下げることができたとのことです。
一括して購入した新薬は、電子商取引によって全国に販売することになります。
2017年の実績では、価格交渉で700億円、保険適用を含めると1000億円以上も患者負担を減らせたとのことですから、この政策は最も効果的です。しかし諸外国にとってはあまり良いニュースではないため、これら3つの政策を一度に発表したようです。

がん患者負担の社会問題

こうした決定の背景にあるのは、医療費に対する国民の不満が高まっているということです。
ここ数年「看病难」(診療を受けたくても受けられない)という言葉が流行しています。病院に行っても人が多く待ち時間が長い、専門の医者がいない、医療費が高い、ベッドが足りないというわけです。このうち医療費の問題は「看病贵」と言われ特に注目されています。
中国では年間429万人が新たにがんが見つかっており、日本の4倍です。しかし、抗がん剤の市場規模は2兆円を超えくらいで、この市場規模は日本の2倍程度でしかありません。多くの国民に抗がん剤は高すぎるのです。その結果、5年生存率は日本の半分しかありません。(癌の種類が異なることも関係していますが。)
今年になってがんにり患した子供を歩道橋から突き落として死なせた父親の事件が中国で話題になりました。また、高齢化社会が日本以上の速度で進み、毎年がんにり患する患者数も年10%で増え続けており、社会問題になっています。

考察

今回中国政府は、諸外国と国内世論の両面に歓迎される、とてもうまい組み合わせの政策を発表しました。
諸外国は中国の関税の不公平感を重く見ていますし、世界最大の市場として市場開放を強く望んでいます。特にトランプによる圧力が高まった4月、関税撤廃の発表は大きなインパクトがありました。アメリカとの正面対立を望んでいないことがわかります。
一方で一党体制とはいえ、安全保障上、国民の世論についても無視することはできません。あまりアメリカに対して弱腰な対応をしたとの印象を自国民に与えるわけにはいかないのです。
そこで今回、国民の「看病难」を解決するという名目のもと、貿易戦争を避ける絶妙な政策を送り出しました。

世界の抗がん剤開発企業にとってこれは千載一遇のチャンスですが、すでに対象になる医薬品のリストが公開されています。このリストの分析は別記事をご確認ください。

関連記事

関税が撤廃される抗がん剤一覧(執筆中)
医薬品特許保護期間を上市から5年認める、データ保護期間も延長
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1.始めに

中国の2015年は、「医薬品審査承認制度」の「改革元年」として位置づけられると思います。今年、下記のリストに示された重要な政府通知が発せられました。今回の中国医薬品ビジネス・レポートNo.2では、前回に引き続いて、「改革の方向性」、「承認申請の滞貨問題」及び「国際共同治験のガイドライン」に関するポイントを採り上げます。

公布日
組織名
文署名 主要な内容
2015.08.18
国務院
医薬品・医療機器の審査承認制度の改革方針
(国発国发〔2015〕44 号)
・新薬の定義の変更
・NCE 新薬の審査承認のスピード化
・販売承認制度への移行
・海外未承認薬について、中国国内での臨床試験の実施に関する承認システム
2015.07.31
CFDA
承認申請の滞貨問題の解決の為の政策意見
(140 号通知)
・ジェネリック薬の水準向上
・IND(臨床試験申請)の審査承認の最適化(届出制)
・臨床上、必要性が高い医薬品の承認
2015.01.30
CFDA
国際共同治験ガイドライン(試行)の通知
(2015 年第 2 号)
・国際共同治験について、総合的な実施要件
・規範性・科学性面での要件、登録申請の要件、プロトコール等の変更等に関する手続・管理面での要件

本論文では、2015 年に国務院及び CFDA が公布した重要な通達等の全体を俯瞰して、下記のようなテーマにて、将来の新しい審査承認制度の方向性を分析し、我々業界人のビジネスにどのような影響を与えることになるのかについて検討していきたいと思います。

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1.始めに

CFDA(中国の国家食品薬品監督管理総局)は、2015 年の年頭に、今年を医薬品審査承認制度の改革元年にするとして、業界内に風雲急を告げる年が始まりました。その後、ご承知の通り、次々と関連する文書・通知が発せられましたが、その重要なものは下記の通りです。

公布日
組織名
文署名 主要な内容
2015.08.18
国務院
医薬品・医療機器の審査承認制度の改革方針
(国発国发〔2015〕44 号)
・新薬の定義の変更
・NCE 新薬の審査承認のスピード化
・販売承認制度への移行
・海外未承認薬について、中国国内での臨床試験の実施に関する承認システム
2015.07.31
CFDA
承認申請の滞貨問題の解決の為の政策意見
(140 号通知)
・ジェネリック薬の水準向上
・IND(臨床試験申請)の審査承認の最適化(届出制)
・臨床上、必要性が高い医薬品の承認
2015.01.30
CFDA
国際共同治験ガイドライン(試行)の通知
(2015 年第 2 号)
・国際共同治験について、総合的な実施要件
・規範性・科学性面での要件、登録申請の要件、プロトコール等の変更等に関する手続・管理面での要件

本論文では、2015 年に国務院及び CFDA が公布した重要な通達等の全体を俯瞰して、下記のようなテーマにて、将来の新しい審査承認制度の方向性を分析し、我々業界人のビジネスにどのような影響を与えることになるのかについて検討していきたいと思います。

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ある基本技術Xについて、日本企業(ライセンサー)が中国で基本特許を有しており、当該特許に基づき、中国企業(ライセンシー)に契約地域を中国としてライセンス許諾がされることを想定してみましょう。中国企業のR&D能力が強化されつつある現状では、基本技術Xが製品であれ製造方法であれ、ライセンシーの中国企業は中国での基本特許のライセンス許諾を受けた後に、技術Xそれ自身の商品化を行うことと並行して、技術Xの技術改良に努めることも十分にありうると想定しておかなければならないでしょう。
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1.プロローグ

昨年、西アフリカでエボラ出血熱が猛威を振るい、そこから遠くに位置するアジアもその脅威に巻き込まれました。特に中国は、経済的にアフリカとの繋がりが深く、そこには100万人の中国人が住んでいると言われており、また、中国南部の広州には多くのアフリカ貿易商人が出入りしていることから、万一の場合には、アジアでは真っ先に被害が及ぶ地域であったに違いありません。上海に住んでいる私は、当時、それなりの覚悟を迫られる心理状況でした。そして、特効薬があれば、生き残りの為に、どんなことがあっても、手に入れたい!

そういった時期に日本の富山化学(富士フィルム・グループ)の開発したインフルエンザ薬の「アビガン」がエボラにも効くとの報道があり、欧州・アフリカで臨床試験がされ、今年になって、一部患者で効果が確認されつつあるとの報道が続きました。 他方で、中国では、4-5年前に中国の軍事医学科学院が見出したとされる抗エボラ・ウイルス薬JK-05について、四環医薬が技術移転を受け、同様に臨床試験の開始を予定しているとの発表がありました。その後、日本の「アビガン」と中国の「JK-05」が実は同一化学成分である可能性があり、もしそうであれば、当該成分に関して、日本の富山化学が中国で特許を有していることから、四環医薬はその特許権を侵害することになるとの報道がされました。

このような特許侵害の可能性についての報道が出た時、上海に住む一人の人間として、生命の危機に曝されるかも知れないというのに、なぜ、このようなレベルの違う話が出てくるのか、当時は、少し戸惑いました。幸い、2014年末に西アフリカのエボラ終息宣言が出され、その後、状況が安定化の方向に向かっている今、特許侵害問題を検討の上、今後の方向性について提言してみたいと思います。

2. 特許権の侵害問題

2-1) 日本での考え方:

特許権でカバーされている医薬品について、特許権者の同意を得ずに製造すれば、それは、特許侵害となります。然しながら、そのような製造が、当該特許医薬品を製造販売する為に厚労省の承認を取得する目的で開発行為の一環としてなされた場合には、原則、侵害行為には該当しないとされています。従って、開発行為の一環として臨床試験で投与される治験薬を製造する為に、第三者の特許でカバーされている医薬品(化合物)を合成・製造したとしても、それは侵害に該当しません。臨床試験が終わり、実際に当局から製造・販売承認を取得後、製造・販売を開始した時に始めて、具体的な特許権の侵害が発生します。

尚、このような考え方は、判例を積み重ねて米国で先ず法制度の整備がされましたが、それを受けて、日本でも同様の最高裁の判決がなされたことを踏まえての考え方です。

2-2) 中国での考え方:

中国では、米国同様、明確に法律に規定されています。特許法(第69条)に、特許権の効力が及ばない範囲に関する規定があり、そこには、特許権者の同意を得ずになした実施行為であったとしても、特許の侵害には当たらないとされる行為が列挙されています。その(5)に、臨床試験の実施行為についての関連条項が盛り込まれています。即ち,

「行政当局(cFDA)への承認申請の為に必要なデータを提出する目的で、特許医薬品–を製造、使用、輸入する行為、——–は、特許権の侵害行為とは見做されない。」

とされています(§69-(5))。従って、中国企業が、中国の行政当局(cFDA)から製造承認を取得する為の開発行為の一環として、エボラ薬を製造することは、上記の免責の範囲に入るので、たとえ、そのエボラ薬が日本企業の有する中国の特許権でカバーされていたとしても、特許権の侵害にはなりません。然しながら、中国企業がエボラ薬の開発に必要な範囲の量を超えて、将来の上市の準備として、在庫を積み上げる為にエボラ薬を製造した場合には、上記の免責の範囲を超えると考えられます。

3.特許権についての強制実施権の制度

中国企業がエボラ薬の事業化をすすめれば特許の侵害が不可避となる事態を迎えると考える場合には、富山化学に対して特許のライセンス許諾を求めることになると思われます。その際、富山化学がライセンスを許諾するか否かは、同社の経営判断の問題ですが、その際、下記の強制実施権の制度を念頭に入れておく必要があります。最悪、法律上、どのようになりうるかのボトム・ラインを押さえておく必要があるからです。

そこで、この強制実施権制度ですが、特許を含む知的財産権に関する国際条約である、パリ条約及び TRIPS 協定に基づいて、日本を含め加盟国の各国とも該当する制度を整えています。即ち、ある特定の状況が発生し、必要な条件が満たされる場合には、特許権者の同意を得ずに、政府が自己の判断で第三者に特許の実施権(ライセンス)を付与することが出来る制度です。この制度の下では、政府が強制的に第三者に実施権を付与することが出来ることから、「強制実施権」の制度と呼ばれています。

3-1)日本の「強制実施権」制度:

ある特許権についてビジネス化を希望する企業がその特許権を有する者にライセンス許諾を申し入れ、協議したけれども、不調に終わってしまったとしましょう。ここで、第三者にライセンスを許諾するか否かは特許権者の権限ですので、協議が不調になれば、原則、それで終わりということになります。然しながら、上記の条約上の要請もあり、日本でも、制度上、ある限られた場合にのみ、政府が介入して強制実施権が付与されうる枠組みが用意されています(未だ、発動はされていません)。

① 特許権者の不実施(特許法§83 条):

特許権者が特許成立から 3 年以内(出願から 4 年以内)に日本で特許を十分に実施しない場合。例えば、エボラ薬について、日本で厚労省から販売承認が得られていることを前提に、特許が成立しているにも関わらず、その後、3 年内に、特許権者が日本で製造・販売を開始しないような場合には、第三者が請求すれば、制度上、発動される可能性があります。

② 公共の利益の為(特許法§93 条):

公共の利益を優先する必要性がある場合。例えば、エボラが日本で流行し、日本社会が脅威に曝されているような状況であるにも拘らず、特許権者が十分な量のエボラ薬を製造し、日本社会に対して供給できないような場合に、上記と同様に、日本で日本特許権に対して強制実施権が発動される可能性があります。

③ 利用関係にある発明の実施(特許法§92 条):

二つの利用関係にある特許が異なる企業によって所有されており、一方の実施が他方の特許(日本特許)の侵害になってしまうような場合に、その実施を日本で実現させる必要性がある場合。例えば、A 社が、エボラ薬の化合物について日本で物質特許を有していたとしましょう。然しながら、製造コストが高く、医薬品として販売することができないような背景があると仮定し、その後、第三者がそのエボラ薬の革新的が製造方法を発明し、その製法発明について日本特許を取得の上、廉価で供給できるようになったような場合です。そのような場合、第三者がエボラ薬を製造しようとした場合、物質特許の侵害になりますので、製造はできない。他方、物質特許権者(A 社)は、商品化を実現する為にそのような画期的な製造方法を実施しようとしても、当該第三者の有する特許権の侵害になるので、実現できない。そのような事態を打開する為に、両者間で、協議不調の場合に、政府が強制的に実施を許諾し、製品の製造・供給を可能とする制度です。

3-2)中国の「強制実施権」制度:

中国でも上記の日本と同様の趣旨の制度が整備されています。これらの制度は、前述の通り、知的財産に関する国際条約の下で、制度の整備が許容されているという背景があります。中国国内では、未だ、強制実施権が発動されたケースはないようですが、それが将来、万一あるとすれば、医薬品分野、特に感染症治療薬は、その一つの候補になりうるであろうと考えられています。制度の概観を見た上で、エボラ薬について、どのように処理されることになるのか考えてみたいと思います。

① 不実施の場合(中国特許法§48-1):

中国で富山化学の特許が成立しているが、その成立後 3 年以内に十分な実施をしていないような場合に、中国企業が富山化学に対しライセンス許諾の申し入れをしたにも拘らず、協議が不調となってしまったような場合、中国特許庁に必要な書類を整えて申請すれば、制度上、当局は、強制実施権の許諾の判断をすることになりえます。ところが、エボラ薬を中国で販売する為には、中国国内で臨床試験を実施して、cFDA の承認を取得する必要があるので、そのような承認の取得に時間が掛かるような場合、特許成立後、3 年以内に製造・販売を開始することは不可能ですので、そのような場合には、3 年以内にそれがされていなかったとしても、直ぐに強制実施権の許諾をするという判断にはなりえないと考えられます。然しながら、エボラ薬を中国社会が必要としているような状況にあるにも拘らず、中国で cFDA の承認を取るために、それに向けた必要な臨床試験等の開発行為を始めていないような場合に、中国企業が中国特許庁に強制実施権の許諾を求めた場合、議論の俎上には、乗りうる状況になると思われます。

② 緊急・非常事態、公共の利益の場合(§49):

次に、「緊急・非常事態」の場合、又は「公共の利益」を目的として、強制実施権が付与される制度設計がされています。先ず、「緊急・非常事態」の典型例として、中国で 2003 年に SARS が流行し危機に陥った時の例が挙げられます(もっとも、当時、このことを理由として、特許薬に強制実施権が与えられたというわけではありません)。本件で言えば、例えば、将来、中国でエボラが大流行し、緊急事態を迎えた状況下、エボラに対し有効な他の薬剤がなく、富山化学のエボラ薬を投与すれば、エボラの流行を抑えることが出来るような場合には、中国政府の担当部門が中国特許庁に申請することにより、富山化学の特許権に対し、強制実施権の付与の可否が検討されうる状況になると考えられます。然しながら、現在のところ(2015 年 3 月)、WHO からエボラの終息宣言がなされた後、特に、状況が悪化しているといったようなこともなく、また、薬剤の有効性について、明確な実証が未だ得られていない状況では、「緊急・非常事態」の要件を満しているとは言えないと考えられます。従って、現状では、強制実施権の付与は難しい状況だと思われます。

次に、「公共の利益」ですが、エネルギーの効率的生産・利用、環境汚染の処理等に関する技術に特許が成立しているような場合に、強制実施権が付与される枠組みですが、それ以外にも、流行病の予防・治療に関する技術は対象の範疇に入ってくるとされています。これも、現状では、薬剤の有効性について明確な実証が得られていない状況では、発動は難しいように思われます。

③ 利用関係の場合(§51):

エボラ薬の製造販売を希望する中国企業がそのエボラ薬に関する何らかの発明について、中国で特許権を有しており、当該発明の価値が経済的な意味で、顕著・重大な技術的な効果を有するような場合に、利用関係の強制実施権が発動されえます。即ち、当該中国企業が富山化学の特許権がカバーするエボラ薬の製造・販売を希望し、該社に対しライセンスの協議を申し入れたにも拘らず、それが不調に終わってしまったような場合、中国特許庁への申請によって、強制実施権の付与の可否が当局にて検討されることになりえます。経済的に顕著な重大な進歩があるような発明とは、例えば、前記の日本での例で説明したように、富山のエボラ薬の製造が非常にコスト高であって、中国国内で広く薬剤を投与することが難しいような状況にあると仮定して、中国企業が画期的な製造方法を見出し、廉価で広く一般に供給できるようになるといった場合であって、中国企業が当該製法特許について中国で特許を取得しているにも拘らず、富山化学との協議が不調に終わり、当該特許権を実施できないような場合には、強制実施権の発動の可能性が検討されうる状況になります。製造方法に限らず、中国企業が、エボラ薬の製剤技術又はその用途の面で突出した技術革新をなし、且つ、特許を取得したような場合にも適用されえます。万一、法律上の要件を満たしているとして、富山化学の特許権に対して、中国企業に強制実施権が付与された場合には、富山化学は、中国企業のそのような突出した技術を利用することを希望する場合、中国企業からその製法等に関する特許権についてクロス・ライセンスを受けることができる仕組みになっています。

④ 特許医薬品の海外への輸出の為の製造ライセンス(§50):

中国特許法の下では、知的財産の国際条約 TRIPS 協定の 2003 年理事会決議(2007 年 TRIP 協定の修正議定書)に基づく、特許医薬品の海外への輸出の為の製造についての強制実施権の制度が整備されています。尚、日本は、この修正議定書を批准していないので、日本での認識は薄いので、注意が必要です。

この TRIPS 協定の制度の下では、医薬品の製造能力のある国が、製造能力のない国での流行病治療の為に、治療薬を製造し、当該国に輸出することが出来る強制実施権を付与することが可能となっています。中国は、上記の修正議定書を批准し、特許法の 2008 年改正時、かかる強制実施権に関する規定を盛り込んでいます。即ち、

「公共の健康維持の為に、中国で特許が付与されている医薬品について、中国特許庁は、当該特許薬を中国で製造し、TRIPS 協定の規定に従って、特定国に輸出する為の強制実施権を付与することが出来る」

とされています(中国特許法§50)。

TRIPS 協定上は、諸々の条件を満たすことを前提にして、同協定の加盟国の中国が、同協定の他の加盟国への輸出が可能であると、されています。然しながら、この制度を利用して、特許医薬品の輸入が必要な国は、TRIPS協定に参加出来ていないような開発途上国、最貧国であることから、中国では、人道的な見地から、同協定の趣旨に鑑み、輸出先は、TRIPS 協定に未加盟の国も含まれうる、との議論もされています。

そのような考え方に従うならば、更には、TRIPS 協定上その他の問題が発生しないのであれば、中国政府の監督の下、中国企業がエボラ薬を製造し、アフリカの国々(TRIPS 協定の未加盟国)に輸出する為に、富山化学の有する中国の特許権について、TRIPS 協定上の要求される様々な条件を付けた上で、中国企業に強制実施権を付与することが可能となりえます。また、富山化学がアフリカの対象となる国々においてエボラ薬の特許権を有しているような場合には、そのような国に中国で製造したエボラ薬を輸入して、当該国で使用することは、当該国の特許侵害となりえます。然しながら、上記の中国での「緊急・非常事態」の強制実施権に対応する当該国での同様の制度の下で、当該国のエボラ薬の特許に対して強制実施権が付与されれば、そのような問題も回避されうることになります。このように輸出国側(中国)と輸入国側(例えば、アフリカの国)の両方の特許権に対して、強制実施権の付与が可能となるシステム設計になっています。但し、ここでも、上記②で述べたのと同様の理由で、現時点(2015 年 3 月)では、強制実施権の発動し難い情勢と考えられます。

⑤ 独占禁止法上、問題となる行為(§48-2):

日中の視点・知財 No.10 で説明したように、特許権の権利行使が独占禁止法違反と認定された場合、請求人の申請に基づいて、中国特許庁は、当該特許権について強制実施権を付与することが出来るとされています(中国特許法§48(2))。この独占禁止法違反となりうる特許権の権利行使の一類型として、「ライセンス拒絶」が挙げられます。さて、中国企業が富山化学の特許権の侵害を回避する為に、富山化学に対しライセンス許諾の申し込みをしたにも拘らず、それが受け入れられず、ライセンスが成立しなかった場合、外形上、特許権者による「ライセンス拒絶」と見られ得るので、ここで、少し、押さえておく必要があります。

過去の日中の視点・知財で採りあげた通り、中国では、独禁法/知的財産のガイドラインが現在、起草(工商総局:2014 年 2 月に第五版が公表)中ですが、その第 17 条に「ライセンス拒絶」に関する独禁法上の基本的な考え方が述べられています。特許権者がライセンス拒絶することは、それに条件を付けずに、且つ第三者との関係で差別的でないような場合には、原則として、独禁法上、違反行為として認定されることはないとしています。然しながら、市場で支配的な地位にある特許権者が、非独占的に数社にライセンスをしておきながら、それを差別的に、ある特定の企業にのみライセンスを許諾しないような場合等については、問題となりうる行為であると位置づけしています。 尚、ここでは、特許権者の有する技術が業界の技術スタンダードに関するような技術であり、当該業界で少なからずの企業が事業を推進する際に関わりがある技術であることが前提となっています。

今回の中国のエボラ薬の場合は、対象となる特許権は、ある特定の医薬品をカバーする特許権であって、それに対して中国のある一社の企業がライセンスの申し出をする場合を想定しており、たとえ、両者間でライセンスが成立しなかったとしても、それは、上記で述べた、原則論の範疇に入る行為であって、問題となりうる「ライセンス拒絶」には該当しないと考えられます。

⑥ 強制実施権とロイヤルティー支払い義務(§57):

強制実施権制度の下で、万一、ライセンスが中国企業に付与されたような場合、当該企業は、特許権者に合理的なロイヤルティーを支払う必要があります(特許法§57)。このロイヤルティーの額は、両者が協議によって決めるのが原則ですが、合意に至らなかった場合には、中国特許庁が裁定した額とされています(同条上)。

4.方向性のまとめ:

地球上のどの国も、エボラのみならずインフルエンザ等の致死性の高いとされる感染症の脅威に曝されうることには例外がないと思います。然しながら、その脅威の最前線に曝されている国々の多くは発展途上国であって、医薬品の製造能力はない国が殆どです。中国は、SARS の事件、鳥インフルエンザの予兆等、自身が感染症の脅威の最前線にある一方で、エボラで問題となったアフリカ諸国とも非常に結びつきが強いといった特殊な立場にあります。その中国は、医薬品の製造・品質管理能力は先進諸国に近いレベルまで達しています。従って、感染症からの自国防衛の為に、更には、友好国から援助が求められた場合の対応の為に、必要な医薬品は自国で何時でも製造して準備できる技術的な意味での能力は備えていると言えます。

今回のエボラ薬については、報道によれば、日本の医薬品企業が中国で対応の特許権を有しているとされており、日本企業は営利企業である以上、過去のR&D 費用の回収、更には将来に向けた R&D の継続の為に、エボラ薬の中国ビジネスにおいても、最大限の利益を回収する為のビジネスの枠組みを作っていく必要があります。また、日本列島に住んでいる日本人の立場から言えば、中国大陸がアフリカとの関係で万一、エボラに浸食されたら、その隣国としての日本への波及は必至でありますので、中国との共同戦線を張ることが自国の防衛を図るための先手になるとも言えます。

他方、中国は、今、自国の医薬新産業の R&D 強化を国策にしています。その大前提として、法治による知財立国、その一つの方向性が特許権の強化です。上記の「強制実施権」制度は、中国も加盟している国際条約の下で整備されている制度ですが、それは特許権に風穴を開けることに繋がる、即ち、特許権を弱体化させるといった側面を有しています。中国に於いても、制度は準備されていても、過去、強制実施権が発動されたことはなく、また、実際に、特許の係争が発生したような場合には、日本と同様、先ずは、当事者による協議によって解決を最優先に考えるというスタンスをとっています。その意味からも、この時期に中国の「強制実施権」制度を検討するのは机上の空論に近いといってもいいかもしれません。

このような背景をベースに、一つは、エボラ薬という特殊性に鑑み、国の安全・公衆衛生にも関することであり、従って、国とのかかわりが強いビジネスであることから、中国に於いては、中国企業との連携によりビジネスを進めた方が、日本が見出した医薬品によって中国およびその関連諸国でより広範囲に貢献することが可能になると思わること。二つめは、中国企業と連携する場合の提携・ライセンス等の経済条件等については、上記の強制実施権の枠組みがボトム・ラインとなりえますが、その何れもが、現時点(2015 年 3 月)では、要件を満たしていないと言えることから、そのようなボトム・ラインに縛られない交渉が可能となりえるので、出来るだけ早く真剣な交渉を開始すべきこと。そして最後に、知財立国の先輩国としての日本の考え方を強く主張した上で、特に医薬品の R&D の将来の推進を強く視野に入れて、経済条件を含め、決着すべきと考えます。

尚、上記で挙げた要因以外に、成立した特許の有効性、特許の残存期間、中国企業による先使用権の成立性等、諸々の事項について検討の上、提携交渉がなされる必要があることを付言します。
以上